夕方ともなると、スーパーのレジは買い物客で混雑する。多くのスーパーでは場所の都合上、いわゆる「フォーク並び」ができないため、どうしても「買い物の品数が少なそうな客が並んでいるレジ」に当たりをつけたり、並んでいる客そのものが少ない列に並ぶしかない。


■いきなり怒号が聞こえて
混雑したスーパーのレジを見ると、誰もがうんざりするもの。だが仕方がないから、みんな黙って並んでいる。ミレイさん(40歳)もそうだったのだが、ある日、いつもとは違う光景が繰り広げられていた。

「パート帰りには一番混雑した時間帯にスーパーに行くことになっちゃうんです。その日もレジは混んでいました。仕方がないから黙って並んでいると、右奥の方から男性の怒号が聞こえた。『オレはこれだけしか買わないんだよ、なんでこんなに待たされるんだよ』って。

どうやら彼の数人前のお客さんがかなり品数が多かったみたいで、あげく、夕方の値引きがされているはずなのにされていないとかなんとかで、誰かが値段の確認に行ったりしていたみたい。そうなるとあとの人たちは待たされますよね」

レジがグズすぎると、その男性は怖いほどの大声で騒ぎ立てた。おまえら、無能の集まりかとまで罵倒され、レジの女性もさすがに何か言い返した。そこへ店長らしき人が登場、そのレジに並んでいた人たちはいっせいに別のレジへと移動し始めた。

■穏やかだったおじいちゃんが
「その男性は店長さんに引っ張られるように事務所の方へと歩いていきました。
その顔を見てびっくり。うちの2軒隣のおじいちゃんだったんです。彼はとても穏やかな人で、うちの8歳になる一人息子もものすごくかわいがってもらってる。

ご夫婦二人暮らしで、息子がたまたま家の前に一人でいたりすると、私が帰ってくるまで見守っていてくれたり、あるいはその家で預かったりしてくれて私に連絡をくれるんです。私も時々おかずをお裾分けしたりして。今どきこんないいお付き合いができるのも、ご夫婦二人がいい人だからだねと夫とも話していたんですよ」

だが連れていかれる彼は、いつもとは違う険しい表情だった。あまりに待たされたためにちょっと耐えかねたのかな、その日の気分もあるしとミレイさんはことを大きくは考えていなかった。

■息子がやってきて
数日後、その夫婦の息子がやってきた。夫婦とは離れて暮らしているため、ミレイさんは数回しか会ったことはなかったが、「母からいつもお世話になっていると聞いて」と言う。

「息子さんが言うには、おじいちゃん、80歳になったばかりなんだけど、どうやら急速に認知症が進んでいるらしくて。『電話にもいつも母がでるし、母は何も言わないので気付かなかったんです』って。もっと早く病院に連れていけばよかったんですがと苦しそうに言うのを聞いて気の毒になって……。


やはりスーパーでの一件で、お母さんから息子さんに連絡が行ったそうです。気付かなくても仕方がないですよと思わず慰めました。近所に住んで、毎日のように顔を合わせていても私も気付かなかったし」

男性の妻は役所の世話にはならないと頑張っていたが、息子は地域包括支援センターと連絡をとって今後の対処を考えるつもりだという。もしかしたら何か迷惑をかけるかもしれないが、気付いたことがあれば連絡してほしいと、息子は名刺に携帯番号とメールアドレスを書いていった。

■いざというときのための準備が必要
「こういうこともあるんだなと思いました。うちも両親は二人暮らしだし、私もそうそう頻繁に会いに行けるわけではないので、実際はどういう暮らしをしているか分からない。電話だけではいけないなと思って、早速、2時間かかる実家に行ってみました」

70歳になった両親は元気そのもので、家の中もいつものように片づいていたという。その日は家族で行って夕飯もごちそうになったのだが、母の手料理の手順も味も変わりはなかった。

「両親は元気だから大丈夫と考えていると、知らないうちに人に迷惑をかける可能性もある。こうやって注意しながら見守っていかなければと思いました。私の友人のお母さんなどは車の免許証を返納したのに、車を運転しようと乗り込んで動かし始めたことがあるそうです。

『免許返したでしょ』『大丈夫、運転できるから』というやりとりがあって、背筋が寒くなったとか。
鍵を母親の分からないところに置き、近所の人にも万が一、鍵を見つけて運転していたらすぐに警察に連絡してくださいと言って回ったそうです」

離れて暮らす親がいる場合は、近所の人たちに打ち明けて協力をあおぐしかないのかもしれない。地域のコミュニティーがしっかりしているところならそれも可能だが、都会のマンション暮らしなどでは近所付き合いもあまりない。

高齢となった親がいる場合は、近所も含め、いざというときにどうするか、それとなく準備を進めておくしかないのかもしれない。
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