ラゾーナ川崎でTesla Model 3に試乗しました。各モデル、各色が揃っていますが、コーポレートカラーの赤が最も高いオプションだそうです。
6割の人が白を選ぶとはディーラーの担当者談。(筆者撮影)

 2022年、生活防衛の手段としてEVシフトをすると決めた筆者は、Tesla Model 3をスマホからポチることになります。ただ選択肢が少ないといっても、EVもすでに選択肢がいくつも出てきています。


 その中でなぜTeslaを選んだのか?という部分について考えてみました。


EVがある2つの風景

 日本で暮らしていると、日産リーフやTeslaといったEVを見ると、「お?」と目を引く珍しさがあります。クールなデザインのTeslaオーナーの男性にとってしてみれば、筆者みたいなおじさんにじろじろ見られるのは迷惑なんじゃないか?とついつい申し訳ない気分が混じるのですが。


 しかし、EVにいちいち視線を送らない環境での生活も短くありませんでした。

米国カリフォルニア州バークレーという街に住んでいた頃、EVはわりと身近な存在でした。カリフォルニア州をテストマーケットとして、世界初のEVを投入するメーカーも少なくありませんでした。


 筆者が住んでいた3年前以前、バークレーでは結構EVが走っていました。地元で製造までしているTeslaはプリウスやスバルと同じような高頻度で見かけましたし、Fiatは500eという小型EVをカリフォルニア限定で発売し、人気を博していました。またシボレーやフォードなど米国勢も小型のEVを用意しており、メンテナンスの少なさから、Uberのドライバーにも人気でした。


 地元の自治体も、EVオーナーにとって生活しやすい環境を整える動きが活発でした。

スーパーマーケットには急速充電器が2台、4台という単位で用意され、日々の食料品の買い物をする15~20分間、効率よく充電することができました。


 バークレーは丘の地形ゆえの高低差で、自分の敷地に駐車場を設置できない家も少なくなく、年間40ドル弱の「パーキングパーミット」を市から購入して家の前に路上駐車をする仕組みがあります。そうしたマイカーを路駐して使う人がEVに乗り換えられるよう、市が歩道にEV充電設備を設置してくれるプログラムを走らせていました。


Tesla Model 3をポチるまで 決め手は航続距離と乗り心地
Residential Curbside Electrical Vehicle (EV) Charging Pilot Programより

 バークレー市は2006年、市全体の交通政策と環境対策の中に自動車の低公害化を盛りこんでおり、先進的な取り組みを打ち出す実験場のようになっていたのは事実であり、充電環境の充実がEVを当たり前の風景としていたことがわかります。


 もうひとつ、EVが当たり前の風景は2020年1月に訪れた中国・深圳。中国メーカーの航続距離400kmのEVで市内のタクシーは統一されており、全く異なる世界に驚いたことが印象的でした。


 住んでいた地域周りの充電環境を挙げましたが、これらの街と比べると日本あるいは東京は、補助金は出しているものの、生活環境の整備という点ではEV普及に対してかなり消極的な姿勢である、との見方を崩せずにいました。


 その点は、前稿でも懸念材料として挙げていますが、それでもEVへの移行を決断した理由はご案内の通りです。


ソニーのEVが、EV専業で後押しになった

 さて、2022年のCESではEVとメタバースの話題が大きく採り上げられていましたが、EVの話題で注目されたのはソニーでした。ソニーは既に「VISION-S」というセダンタイプのプロトタイプを披露しており、今回はSUVのプロトタイプを披露するなど、意欲的な挑戦が続いていることを示しました。


 さらに、新会社Sony Mobilityを設立することを明らかにし、ソニー自身がEVを販売するメーカーになりうることに本腰であるとの姿勢もインパクトが大きかった話題でした。


 ソニーのような自動車メーカーではない企業がクルマ作りに取り組むことに対して懐疑的な見方ももちろんあります。その一方、EVの時代は、パーツから完成車までの垂直統合の産業構造から、水平統合へと変化するというそれまでの見方を強める意味で、「ない話ではない」という肌感が生まれたのも事実です。


 特にソニーは、イメージセンサーでは世界トップレベルですし、半導体や画像処理、さらにはAIやロボット分野の研究開発と製品群を既に持っている企業です。さらに自動車を買って乗るには、ローンや保険と入った金融が切っても切り離せませんが、ソニー銀行やソニー損保といったソニーフィナンシャルホールディングスを要するソニーグループは、この部分で日本では存在感があります。


 移動時間のエンターテインメントにも抜かりはないでしょうが、そこはあくまでオプションであり、クルマそのものと、クルマがあるライフスタイルそのものに直接関与するリソースがある企業です。


 たとえ完成車を出さなくても、水平統合化される自動車産業の中で、重要な企業のポジションを作り出すことができるでしょう。同様に、Appleも自律コンピューティングとプライバシー、そして15億のユーザーベースを抱えるiPhoneのコンパニオンデバイスという位置づけを唯一行使できる点を武器に、水平統合を生かした参入が視野に入ります。


心配性のEV選び

 そうしたEVへの参入が向こう10年間で相次ぐことが考えられる中、Teslaが光るのはEVの性能が高いバランスで実現されていたことでした。とにかくバッテリーの調達に力を入れて取り組んでいる点が、大きなアドバンテージを作り出しています。


 Tesla Model 3は500万円を切る479万円という価格で、スタンダードレンジ・プラスでは565kmという航続距離を実現しています。値段は90万円ほど上がりますが、ロングレンジでは689km。


 実は、この航続距離をこの値段で実現しているモデルは、現状日本で発見できないのです。航続距離の点で一番近くにいるのはアウディで、e-tron GTというスポーツカーや、SUVタイプのQ4 e-tronは500kmを超える航続距離を備えます。しかし価格や納期の問題で、直近の乗り換えには少しハードルが……。


 これまでの内燃機関の自動車では、やはりパフォーマンスと燃費のバランスが注目されました。

いまディーゼルのSUVに落ち着いているのも、日々の移動距離と快適さ、経済性という要素が影響していました。


 EVの場合、今ネックなのはやはり充電環境とその時間の捻出であり、筆者の住むエリアの充電器の少なさ、また住んでいるところの駐車場に当面充電器を設置できないこともあり、できるだけ航続距離を積み増したい。しかし航続距離=バッテリーの搭載量であり、多くなれば当然価格も跳ね上がる。


 そのことを理解した上で、Teslaはバッテリーの調達コストに注目し、これを下げる努力を通じて競争力を高めてきたことがうかがえます。そのアドバンテージが未だに効いている状態で、EV化のトレンドを迎えることができた点は、Teslaの評価すべきポイントと言えるでしょう。


Model 3に試乗して、Teslaに傾いた理由

 バッテリー価格の優位性が、最終的なクルマの価格に反映されている点は分かりました。しかしクルマはエンジン車の頃と同様、安さやパフォーマンスだけでなく、移動の快適性や楽しさといった部分も重要です。特に元自動車部としては、走りの部分の納得感で決めたいという話。


 そこでラゾーナ川崎プラザのTeslaショールームにウェブサイトから試乗予約を入れて、Model 3に乗ってみることにしました。


 実は米国にいる間に、より大きなサイズのセダンであるModel Sと、巨大SUVのModel Xは試乗したことがあり、また他のオーナーさんの車に同乗して移動したこともありました。しかしModel 3のステアリングはまだ握ったことがなく、楽しみにしていたのです。


 結論からすると、想像以上に良かった!


 駐車場から出るときの段差も、固さはあるけれどもマイルドにこなしているし、とにかくバッテリーが底辺にあるので安定感があります。今乗っているのが背が高い大柄なSUVであることを差し引いても、上質な雰囲気が漂うのは5年前に他のTesla車に乗ったときにはなかった感想でした。


 曲線もキレイに曲がっていくし、とにかく静かでスムーズそのもの。強力な回生ブレーキを生かしたワンペダルのドライブは若干手持ち無沙汰になりますが、それだけエラーが少なく運転が楽になるという感覚をつかむことができました。


 試乗したのはモーターが前後にあるロングレンジで、0-100km/hの加速は4秒台。もちろん、アクセルを踏み込むととんでもないことになるので試乗コースの一般道では試せません。そういうクルマに手が届くと思うと、不運な世代のクルマ好きとして、見逃せないパフォーマンスだと感じました。


 試乗した夜に、スマホからポチることになるのですが、その話はまた次回。(続く)


Tesla Model 3をポチるまで 決め手は航続距離と乗り心地

筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。モバイルとソーシャルにテクノロジー、ライフスタイル、イノベーションについて取材活動を展開。2011年より8年間、米国カリフォルニア州バークレーに住み、シリコンバレー、サンフランシスコのテックシーンを直接取材。帰国後、情報経営イノベーション専門職大学(iU)専任教員として教鞭を執る。


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Twitterアカウント @taromatsumura