■新庄監督が使っていた薬物とは



 日本ハムのビックボスこと新庄剛志監督に激震が走っている。16年前の2006年に、禁止薬物を使用していたとスポーツライターの鷲田康氏と『文藝春秋』(文藝春秋)が共同で取材した記事を報じたからだ。

記事によると、新庄監督は、2006年の開幕直後に行われたドーピング検査で「覚醒剤成分の検出」がされたという。NPBはただちに警察に届け出をし、対応することになった。警察は新庄監督本人を呼んで聞き取りをし、詳しい分析を行った結果「問題なし」という判断に至った。



 当時の日本ハム球団代表小嶋武士氏は責任者として対応しており、新庄監督から聞き取りをしたところ「ナイトゲームの翌日にデイゲームがある際など、身体がだるい時に疲労回復のためにサプリメントを飲んでいたと。メジャー(リーグに)いた頃から時々使っていたそうで、中身に何が含まれているかは知らなかったそうです」と語った。ドーピングについても「彼と話をするなかで、意識的に(ドーピングを)やっていたという印象は一切、受けなかったです」と小嶋氏は証言している。



 新庄監督が当時接種していたのは覚醒剤と成分が近い「グリーニー」と呼ばれる薬物の可能性が高いという。グリーニーは、アンフェタミン系の興奮剤でグリーニーに含まれる神経物質が、脳内の中枢神経を刺激し、多量のドーパミン(快楽物質)を発生させるという。



 その結果として運動能力・身体機能の高まり、疲労回復、集中力の向上、食欲の減退、高揚感・幸福感といった効果が得られるという。アメリカでは医療用医薬品として存在しているが、2004年に世界アンチドーピング機構(WADA)は禁止薬物に指定した。



 通算755号本塁打を放ち、人格者としても知られたハンク・アーロンも服用していたことで有名で、当時のメジャーリーガーたちにとっては長く過酷なシーズンを乗り切るためのエナジードリンクのような存在だったそうだ。日本には外国人選手が持ち込みをして日本人選手へ使用を勧めていたという。



 覚醒剤取締法違反で逮捕起訴された清原和博氏も使用を告白しており、「最初は外国人選手にすすめられて使っていた」と語っていた。また清原氏と同じく覚醒剤取締法違反で逮捕された野村貴仁氏は暴露本でグリーニー使用者だと告白。外国人選手を通じて入手し、隠れることなく堂々と使用していたという。



 因みに合法だった頃、グリーニーはクラブハウスやベンチにチューイングガムやひまわりの種と並列して置かれており、一時は全体の85%の選手たちが使用したほど当たり前に使われていたそうだ。





■NPBと日ハムに責任はあるのか



 日本でも2004年と翌年に開いた講習会で「禁止薬物はWADA」に准すると通達を出している。当時の日本ハムでも高田繁GMが「使っているサプリメントがあれば全部提出して検査を受けなさい」と伝えていたが、新庄監督は提出していなかったという。

そのため2006年のドーピング検査でグリーニーの使用が発覚した形だ。



 この記事に対して新庄監督は一切コメントをせずペナントレースを戦っている。もう一方の当事者である北海道日本ハムファイターズは文藝春秋の問い合わせに対して以下のように回答している。



「NPBにおいて、過去からドーピング検査が実施されてきておりますが、現在に至るまで当球団から処分の対象となった選手はおりません」



 明らかな論点のすり替えをしてきた。鷲田氏は新庄監督と日本ハムに対して





1.スポーツパーソンとしての倫理違反



2.監督としての説明責任



3.薬物使用を知りながら監督就任を決めた日本ハムの責任





 以上、三つの問題があるとして説明を求めている。この記事が出てくるとネット上では激論となり、賛否両論それぞれの意見が投稿された。



 スポーツライターで近畿大学・大阪国際大学非常勤講師の菊地慶剛氏はYahoo!ニュースに「当時使用が許可された薬物使用が倫理違反なのか?」とし、メジャーリーグではどういった対応をしてきたのか事例を出して鷲田氏と文藝春秋側に疑問を投げかけた。



 WEBメディア「BusinessJournal」では薬剤師の小谷寿美子氏が「極度の緊張でガチガチになることなく、幸せな気持ちで、なおかつ気持ちアゲアゲで試合に臨めるのですから、持っている能力を最大限に発揮できます。これでは競技として公平性を保つことはできません。トレーニングをした結果の“すごいパフォーマンス”を見たくて私たちはプロスポーツにお金を払うので、プロスポーツへの信頼が崩れてしまいます」と新庄監督へ苦言を呈している。



 鷲田氏は文春オンラインで「新庄剛志氏が日本ハムの監督に就任しなければ取り上げることはなかった」と断言し、「指導者として、監督として、球界に戻るのであれば、ドーピング違反というスポーツパーソンとしての根幹にかかわる問題は、時が経っても決して見過ごしてはならないし、できない問題のはず」と自らの意見を述べた。



 まず2006年時点で日本ハムとNPB、新庄監督の対応に問題はなかったことははっきりしておきたい。

しかし、2005年に高田繁GM(当時)から「禁止薬物があるから全選手使用しているサプリメントをトレーナーに提出し、検査を受けなさい」という通達を新庄監督は無視をした点だ。これは大いに問題である。NPBは2006年から非公式でドーピング検査をするのは全球団に連絡しており、日本ハムも対応するために選手へ通達をしたのだから、その時に提出しておけばあのような騒ぎは起きなかったし、痛くもない腹を探られずに済んだからだ。



 なぜ2005年の時点で使用しているサプリメントを提出しなかったのか?



 この点が一番の疑問である。当時新庄監督は首から肩周り、太ももが不自然に発達していたことから一部で薬物使用の噂が上がっていたという。あくまでも噂であるので事実ではない。

しかし説明しないことであらぬ疑惑ができてしまう。恐らく鷲田氏はその点も考慮して新庄監督へ今回の記事ついて説明を求めたと思われる。



 アメリカでは2022年に殿堂入りとなったデビッド・オルティス氏は2003年のキャンプ中に行われた一斉薬物検査で陽性反応が出た選手の1人であった。MLBでは2004年から薬物検査が正式採用されているが、試験的に行った検査で陽性が出た格好だ。この件は2009年にメデイアに報じられた。その時にオルティス氏は釈明会見(薬物使用を否定している)をし、2016年まで現役を続けた。レッドソックス時代に背負った背番号34は永久欠番となり、チームの殿堂にも入っている。



 反対に、通算762本塁打のメジャー記録を持つバリーボンズ氏と通算354勝で7回のサイ・ヤング賞を受賞したロジャー・クレメンス氏は、双方とも殿堂入りの資格を得ながら毎年得票率が足りず今年資格を失った。多くの投票者は「支援するのは難しい。なぜなら彼らは、ボンズらが殿堂入りするために求められる品格、スポーツマンシップの基準を満たしているとは感じていないからだ」と、得票が集まらないと説明をしている。その理由は両者が運動能力強化薬物のPEDを使用した疑いが残っているからだ。



 1998年に当時のメジャー記録となる70本塁打を放ったマーク・マグワイア氏は現役引退後に現役時代の薬物使用疑惑で批判の矢面に立たされた。2005年にはMLBのドーピング問題を調べる議会に証人として呼び出しをされるも証言を拒否していた。しかし2010年にセントルイス・カージナルスの打撃コーチとして復帰が決まると「愚かな過ちだった」とステロイド使用を告白。謝罪をした上で現場復帰を果たしている。ボンズ氏が「誇りに思う」とマグワイア氏を称えたのは皮肉でしかないが、新庄監督も同じ立場だというのを忘れないでほしい。



 Instagramに自分の追っかけをしていた記者の顔写真と名刺を投稿して物議を醸したが、交際相手についてよりも自身の疑惑について説明をしたほうがすっきりするのでは? 新庄監督が本当の意味でビッグボスになるためにも選手へ示しを見せるべきだろう。





文:篁五郎