ここでお伝えしたいことはふたつあります。
ひとつは「子育てにおいても『生活保護』という選択肢があり、その選択は決して恥ずかしいものではない」ということ。そしてもうひとつは「生活保護や養子縁組という選択肢について知った上で決断することが大切だ」ということです。
子育てにかかるお金を懸念し「最低でも子どもが成人するまでは安定した職と収入を得て、ある程度の貯金を確保したい。結婚、出産はその見通しが立ってからにしたい」と考える人はとても多いと思います。
しかし、それらの要素が揃っていなければ絶対に子育ては不可能なのかというと、そうではありません。何らかの事情で経済的にかなり厳しい状況に置かれてしまったとしても、日本には「生活保護」という制度があります。
生活保護に関しては、名称こそ広まっていますが詳細についてはよく知らない人がとても多く、その結果「自分には関係がない」と考え、ひいては「生活保護を受けるような人はどうしようもない人だ」と軽蔑する傾向があるように感じます。
しかし生活保護は有用な制度であり、決して悪いものではありません。
詳しく解説します。これからの社会を生きていく上で、制度に関する理解が大切だと思うからです。
厚生労働省のホームページでは、生活保護の趣旨が次のように説明されています。
生活保護制度は、生活に困窮する方に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、自立を助長することを目的としています。
より具体的には、毎月の生活費や家賃、義務教育にかかるお金や出産があれば出産にかかるお金など、さまざまな場面において金銭面での補助を受けることができる制度です。
「健康で文化的な最低限度の生活」は日本国憲法で定められた、国民全員が持つ権利ですしたがって、「健康で文化的な最低限度の生活」が得られそうもない状況に陥ってしまった場合に生活保護を受けることは、極めて正当な権利だと言えます。何ら責められることはありません。国民全員に平等に与えられた権利をただ行使しているだけなのです。
そうは言っても、「国民の税金を使っているわけだし……」「周りの目が気になる」など、後ろめたい気持ちから制度の利用を避ける人も多いでしょう。
「生活保護に使われるのは税金」。それは確かに事実ですが、振り返ってみると保護を受ける側もこれまで税金を払ってきているわけです。ものを買う時には誰もが消費税を払い、社会人であれば所得税や社会保険料を支払っています。ならば「他人のお金をもらって生きている」というよりは、「自分も支払っている税金の一部が返ってきている」と考えるのが適切なのではないでしょうか。
ちなみに、厚生労働省が今年3月に発表した資料(生活保護制度の概要等について)によると、実際にこの20年間で生活保護を受給する母子世帯はほぼ倍増しています。実数で約10万世帯の母子世帯が、実際に生活保護を受けている状況です。
私たちは事故や災害に備えて保険に入り、定期的に保険料を支払います。火災保険であれば家が火災に遭ってしまった時のために、自動車保険であれば自動車事故などの時のために、保険に加入し保険料を支払います。
ならば生活保護もそれと同じように、人生の保険のようなものだと考えても良いでしょう。自分が払った税金が直接自分の生活保護費に充あ てられるわけではないので、間接的ではありますが、人生に掛けた保険が支払われているようなものです。
生活保護を受けている他人を見ると、あたかも自分のお金を使われているような気がしてしまうかもしれませんが、保険のシステムと比べれば納得できるのではないでしょうか。
火災や自動車事故は、日頃から気を付けていたとしても、いつ起きてしまうかわかりません。同じように人生においても、予期せず苦しい状況を迎える可能性は常に、誰にでもあります。
そもそも人生そのものが誰にとっても初めての経験ですから、失敗する人がいて当然です。初めての人生を一人一人が果敢に生きているのですから、つらい時はみんなで助け合い、そこからの人生を応援したいものです。
■受給資格を確認する扶養照会の現状「周りの目が気になる」という点についても同様に、人生ではさまざまなトラブルが突然起こり得るのですから、受給はまったく恥ずかしいことではありません。このような認識を少しでも広めていくことが大切だと思います。
一方で、中には「親や親族に、生活保護を受給することを知られたくない」という人もいるでしょう。
ただ、この「扶養照会」は実は例外が広く、生活保護法が改正を重ねる中で現在では次のような運用になっています。(以下「平成25年度全国厚生労働関係部局長会議〈厚生分科会〉資料」より引用)
扶養の照会は現在でも行っているが、この通知および報告徴収の対象となり得るのは、福祉事務所が家庭裁判所の審判等を経た費用徴収を行うこととなる蓋然性が高いと判断するなど、明らかに扶養が可能と思われるにもかかわらず扶養を履行していないと認められる場合に限る。
つまり、扶養できるかの調査自体は行っているものの、明らかな場合を除けばそのことを扶養するべき人(親など)に伝えることはしていない、ということです。したがって、親や親族の目をほとんど気にすることなく、まして知られることなく生活保護を受給することができます。
繰り返しますが、生活保護の受給は恥ずかしいことではありませんし、怖いものでもありません。あくまでも社会の仕組みのひとつです。
私たちが主張したいのは
「経済的に苦しければ生活保護があり、実際に制度を利用しながら立派に子育てを行っている人がいる。精神的な問題も含めてすべてにおいて子育てが厳しくなってしまったとしても、養子縁組という選択肢がある。何よりも優先されるべき大事なものは子どもに注ぐ無限の愛情と、心から子どもの幸せを願う気持ちに他ならない」
ということなのです。