江戸時代、僧侶は妻帯を禁じられていた。遊里で遊ぶことも厳禁である。
文化十三年(1816)のこと。牛込のあたりに天徳院という裕福な寺があった。天徳院は裏で金貸しをしており、ひそかに幕府の寺社奉行にも金を貸し付けているほどだった。住職は吉原で遊ぶうち、遊女のひとりが気に入って身請けした。しかし、寺に置いておくわけにはいかないので、町屋に家を借りてそこに住まわせておいた。
天徳院に金があることを知っている無頼漢が、住職が吉原の元遊女を妾にしているのをかぎつけ、
「寺社お奉行所に訴え出れば、どうなるでしょうな。女犯の罪でおそらく遠島……」
と、ゆすりにやってきた。住職は富安九八郎という旗本に頼み、いくばくかの金でカタをつけさせようとした。だが、無頼漢は、
「そんな、はした金なんぞ」
と、納得しない。
土蔵に閉じ込めていた無頼漢は金網を破って逃げ出し、寺社奉行に天徳院の住職の女犯を訴え出た。当時、五人の寺社奉行がいた。どの寺社奉行も天徳院に金を借りている弱みがあるため、訴えを受け付けなかった。ただ、青山大膳亮だけは金を借りていなかったため、訴えを受け付けた。ところが、この青山が急死してしまった。天徳院は安堵したが、そうは問屋がおろさなかった。当時の幕府には官僚主義がはびこっていた。すべて、仕事は前例にもとづかなければならない。役人は、
「いったん受け付けた以上、吟味をする」
と、調べをおこなった。結果、天徳院の住職は遠島(島流し)になり、旗本の富安九八郎は謹慎をおおせつけられた。
現代でも、有名なスポーツ選手などが、女性をめぐるスキャンダルをネタに大金をゆすられることは多い。
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