ネスレは昨年9月、主力商品の「ネスカフェ ゴールドブレンド」などで新製法を採用。
小売り店などの店頭で販売されるコーヒーには、消費者を混乱させないため、コーヒー豆から直接つくるレギュラーか、抽出液を乾燥させた粉末を使うインスタントかを表示するという業界ルールがある。コーヒー豆から直接つくるレギュラーか、抽出液を乾燥させた粉末を使うインスタントかの違いだ。ソリュブルはどう分類すべきか、結論を出せずにいた中で、ネスレは主力のゴールドブレンドなど、もともとインスタントだった全商品をレギュラーソリュブルに変えた。ネスレはこれを「インスタントとは違う新製法だ」と主張してきたが、協議会は「基本的には抽出液を乾燥させたインスタント」と結論づけ、表示を認めず、今回の脱退騒動に発展したのである。関係者によると、「業界団体側は『ソリュブルという表記なら認める』と歩み寄ったが、ネスレ側がレギュラーソリュブルにこだわり、話し合いは決裂した」という。●縮小するインスタントコーヒー市場
ネスレ日本はスイスの世界最大の食品メーカー、ネスレの日本法人で、日本ではコーヒーが主力。名称変更にこだわる背景に、インスタントコーヒー市場の縮小がある。
しかし今、インスタントコーヒー市場の縮小が進む。全日本コーヒー協会の統計によると、インスタントコーヒーの国内消費量は生豆換算で2010年は9.9万トンだったが、13年は9.2万トンに減った。14年1~5月は3.6万トンと前年同期より5%の減少。今年1年間で9万トン割れは必至だ。
逆に大きく伸びているのがレギュラーコーヒーである。13年は前年比6%増の35.3万トンと過去最高の消費量を記録し、14年1~5月は15.4万トンで前年同期より5%の増加。今年1年間では36万トン台と過去最高を更新するのは確実だ。
コーヒー市場を劇的に塗り替えたのがコンビニエンスストアである。13年1月、最大手のセブン-イレブンが店内でセルフ式ドリップコーヒー「セブンカフェ」を導入。1杯100円というお手軽価格が受けて1年強で5億杯を売り上げる大ヒット商品となった。大手コンビニ5社の合計で14年度は13億杯を見込んでおり、前年度の7億杯からほぼ倍増するという。
インスタントコーヒーそのものにも変化が起きている。スーパーやコンビニの棚はインスタントコーヒーの瓶に代わってスティックコーヒーが占拠するようになった。スティックコーヒーとはインスタントコーヒーに砂糖や粉末のミルクを加えて、1杯分ずつ小分けし、スティック状に包装された商品。カップに入れてお湯を注ぐだけでカフェオレやカプチーノが楽しめる。スティックコーヒーのシェアトップは味の素ゼネラルフーヅの「ブレンディスティック」。ネスレの瓶入りネスカフェをしのぐ勢いで伸びている。●進む「レギュラー志向」
インスタントコーヒーで家庭を制圧したネスレが次に打った手が、家庭でも本格コーヒーを味わえるようにすることだ。カプチーノやカフェラテ、エスプレッソといった専門店顔負けのコーヒーを、ボタンを押すだけで1杯ずつ抽出してくれるコーヒー専用マシンを投入した。同社の世界初の家庭用コーヒー専用マシン「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」は09年4月に日本で発売以来、販売台数は年々増加し、14年5月には累計で200万台を突破した。10月からはレギュラーソリュブル専用マシンの価格を9000円から5980円に値下げする予定であり、オフィス向けのマシンの無償貸し出しでは、運輸業界や高齢者施設などへの設置も始めた。
かつてインスタントコーヒーは家庭、レギュラーコーヒーは喫茶店とすみ分けがあったが、今はファーストフード店やコンビニでは100円でレギュラーコーヒーが飲める。
ネスレがレギュラーソリュブルコーヒーに呼び名を変えたのは、インスタントコーヒーという名称はすでに時代遅れで、消費者に訴える力を失ったと判断したためであり、「レギュラー」という呼称にこだわるのは「おいしい」という印象を消費者に与えるためだとみられている。
(文=編集部)