その立役者である医薬品ネット通販大手で楽天子会社のケンコーコム・後藤玄利社長が、10月下旬に開催予定の臨時株主総会で退任する。後任は、楽天マートの橘田尚彦社長(47)を迎える。10月30日付でケンコーコムの社長に就く。橘田氏は東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)出身で、12年に楽天マートの社長になったばかりだ。創立20周年を間近に控え、医薬品ネット販売解禁を実現した直後の突然の辞任劇となったが、背景には何があったのか。
後藤氏の実家は、痛み止め薬「後藤散」で知られるうすき製薬。同社商品「霊芝飲料」を通信販売するために1994年11月、ヘルシーネット(現・ケンコーコム)を設立。2000年に医薬品のネット販売を開始し、04年6月に東証マザーズへ上場した。09年6月に施行された改正薬事法が誤算だった。厚生労働省の省令により、それまで事実上認められていた一般医薬品のネット販売が、ビタミン剤などリスクが低い第3類医薬品に限定されたのだ。同社はネット販売を規制した厚生省令は違法だとして、国を相手取り、訴訟を起こした。
そこに参戦してきたのが楽天だった。ケンコーコムと共闘するために12年6月、楽天はケンコーコムが実施した第三者割当増資を引き受けて、同社株式の40.0%を握った。楽天の投資子会社、RSエンパワメントが保有する分と合わせて出資比率は50.8%に達し、ケンコーコムを子会社に組み入れた。こうした両社の取り組みが功を奏し13年1月、最高裁は国側の上告を棄却する判決を言い渡し、販売を認めた二審・高裁の判決が確定。市販薬のネット販売は解禁された。●楽天から譲渡された事業が赤字要因に
そんな両社の間に亀裂が走り始めたのは14年1月、楽天からケンコーコムに移管された「楽天24」事業が原因だった。楽天24は楽天市場の各店舗が販売する水や酒、食品、洗剤など日用品をまとめて配送するサービスを行っている。楽天市場で弱かった日用品販売を強化するために、10年10月に始めた配送サービス。だが、アマゾンジャパンやアスクルの個人向けサービス「ロハコ」など競合が多く、伸び悩んでいた。
楽天24はケンコーコムの業績の足を引っ張った。14年上半期(1~6月)の連結売上高は前年同期比6.5%増の101億円、営業利益は1億5500万円の赤字だった(前年同期は4300万円の黒字)。1月に楽天から移管された楽天24の売り上げは7億9900万円だったのに対して、営業損益段階で1億6100万円の赤字。
さらに楽天24をケンコーコムが譲り受けた結果、商品の配送を委託していた通販業者が離反し、極度の不振に陥った。
EC(電子商取引)専門の13年12月19日付日本ネット経済新聞は、楽天市場に出店している通販業者の話をこう報じた。
「これまで中立的な立場の楽天が、仕切っていたので参加できた。ただ、事業権限がケンコーコムに移ると、当社の販売データなども全て競合であるケンコーコムのもとに管理されることになる。そのような状況では参加できない」
参加企業が大量離反したことが、楽天24が惨敗した要因である。一方、医薬品や健康食品のネット販売であるケンコーコム事業は、売上高83億円、営業利益1億2400万円の黒字であり、この黒字を楽天24が食い潰した格好だ。
ケンコーコムが本来注力したいのは本業の医薬品ネット販売であり、同社にとって楽天24の移譲は思わぬ誤算となった。しかし、医薬品ネット販売の革命児とも呼ばれる後藤氏は「黙って引き下がるような男ではない」(業界関係者)との声も多く、今後後藤氏がどのような挑戦に打って出るのか、その動向に注目が集まっている。
(文=編集部)