201万台もの大規模リコール(回収・無償修理)につながる新車の検査不正が発覚したスズキは6月27日、本社がある浜松市中区のグランドホテル浜松・鳳の間で定時株主総会を開いた。検査不正問題は関心が高く、午前10時に始まった総会には過去2番目に多い634人(18年比14%増)の株主が出席した。

 議長を務める鈴木俊宏社長は冒頭、検査不正について謝罪した上で「経営陣と全従業員が一丸となって徹底的、永続的に再発防止策を実行する」と述べると、鈴木修会長ら経営陣が立ち上がり、一斉に頭を下げた。

 株主からは検査不正問題に関する質問が相次いだ。10人の株主が質問に立った。

「3年前にも大きな不祥事があった。なぜ、また、さらに大きな不祥事が起きたのか」。スズキでは2016年に燃費データの測定不正が発覚している。そのため、「不正が起きる体質を変えられていないのではないか」との厳しい声が飛んだ。

 俊宏社長は「全部門に当事者意識を持って取り組むよう徹底できていなかった。チェック体制が十分ではなく、私も含めた経営陣が問題を早期に把握できなかった」と釈明した。

 修会長は検査不正について「経営の最高責任者として重く受け止めている。社長が陣頭指揮に立って対策を進めると(再発防止策を勧告した)国土交通相のもとで誓った。私がバックアップしていく」と述べた。

修会長は「担当者が適法で大丈夫だと言うのを鵜呑みにし、間違いをしでかした」と発言したが、これは部下に責任を押し付けるもので、本当に反省し、不正を繰り返してきた企業文化と決別できるのか、と疑う声が上がる。

 総会では修会長、俊宏社長の再任など取締役8人の選任議案など3件が承認・可決された。総会は、ほぼ例年通り、およそ2時間で終了した。

 修会長への賛成比率は66%で、前年の93%から27ポイント大幅に下がった。俊宏社長への賛成比率も70%と前年の94%から大きく下落した。ほかの取締役の選任には8割以上が賛成している。

 創業家に対する株主の目は厳しい状況にある。

過去最大の1億9650万円の過料か

 スズキは湖西工場(静岡県湖西市)など県内3工場での出荷前の完成検査で、不合格なブレーキなどを「合格」としたほか、無資格の従業員が有資格者の判子を使うなどしていた不正が判明。4月19日から国内過去最大規模の201万台のリコールを国土交通省に届け出た。

 国交省は6月7日、完成車検査で国の基準を逸脱した試験をしていたスズキに対し、意識改革や組織風土の改善を求める勧告書を交付。不正が長年放置されていたとして当分の間、重点的な監視対象とすることを通告した。自動車の“心臓部”であるブレーキで検査の不正が行われていたことを重視した。

 道路運送車両法違反による過料の適用も静岡地裁に通知した。金額は裁判所が決めるが、過去最大の1億9650万円になる可能性がある。

 過料は行政罰の一種で、1台当たり30万円以下と定められている。今回は、特に重大な違反が確認された650台を対象とした。過料の適用を求めた台数では過去最大という。これまでのケースでは、18年12月に過料適用が申請された日産自動車の454台が最大・最悪だった。

 国交省は立ち入り検査などの結果も公表した。日産自動車とSUBARUで検査不正が発覚した際、スズキでは完成車検査のチェックシートに不在の検査員の押印があったと、工場の管理職から本社の製造本部長に報告されていた。しかし、重要性を認識せず、経営陣への報告や現場への改善指示を怠っていたと指摘した。こうした姿勢が、現場による不正の隠蔽を招いたと結論づけた。

 石井啓一国交相は鈴木俊宏社長に勧告書を手渡し「コンプライアンス(法令順守)意識の低さ、自浄能力の欠如、不正事案が報告されない不健全な組織風土の結果だ」と批判した。俊宏社長は「重く、厳粛に受け止める」と述べた。

 スズキは5月28日、無資格者による完成車検査問題に伴う経営陣および関係者の処分を発表した。

 修会長と俊宏社長ら代表取締役と取締役は18年度の賞与を辞退する。7月分以降の報酬額は会長が1年間無報酬、社長は半年間半減とするほか、副会長や取締役、生産担当執行役員などもそれぞれ3~6カ月間、10~40%減額する。生産本部長を務めていた松浦浩明取締役が今回の定時株主総会で退任したほか、不正に関与した管理職を処分した。

 17年に完成車不正が発覚したSUBARUでは、18年6月に代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO)に就任する予定だった吉永泰之前社長が代表権とCEO職を返上した。

 スズキの修会長と俊宏社長は、役員報酬を返上するものの現職にとどまる。SUBARUと比べて大甘な処分だ。

 創業家出身の鈴木親子を引責辞任させることは、スズキ社内の最大のタブーとされてきたが、今回の株主総会でこれが覆ったことになりはしないか。

鈴木修会長がとどまることも辞めることもリスク

 スズキの不健全な組織風土は、創業家支配の中で醸成されたものであり、「容易に改善できるものではない」(関係者)。

 独フォルクスワーゲンVW)の排ガス規制逃れが明らかになり、自動車メーカーのモノづくりの姿勢に厳しい目が注がれる最中、スズキの燃費測定への不正が発覚した。

 当時の経営トップの発言を再検証してみよう。「(現時点では燃費不正の問題は)ない」。

修会長は16年5月10日、決算発表の席上で燃費不正の存在を否定した。だが、それからわずか1週間後の5月18日、一転して謝罪会見に追い込まれた。

「スズキの社風が影を落している」と指摘された。スズキの経営の真骨頂は、コストを徹底的に削る「ケチケチ作戦」。これが不正の温床になったとの、アナリストの分析もある。

 この時も、不正の実態が経営陣に上がってこない風通しの悪さが最大の問題点と指摘された。不正が発覚した際に、修会長がCEO職を俊宏社長に譲ったが、その後、CEOそのものを廃止した。つまり、修会長が今でも実質的な最高経営責任者なのである。

 不正検査の背景にあるのは、企業風土の問題だ。企業風土の改革には89歳の修会長が引退して自ら範を示す必要があるが、首に鈴をつける人がいない。

 6月27日の株主総会では「修会長の大ファンだ」と前置きして質問に立った男性株主は、「修会長は以前から危機管理に力を入れていた。もっと会長を見倣うべきだ」と、ほかの役員を叱責した。

「スズキ=鈴木修会長」となっている。「修氏は生涯現役(経営者)だろう」との見方も多く、そうなると企業風土の改革は絶望的なのかもしれない。

 一方で、修氏が辞めることには大きなリスクが伴う。株価も下がる可能性ある。とはいえ、企業の存続を考えるなら、もっと大きなリスクに目を向けなければならない。

 19年の株主総会における修会長の支持率の急落は、俊宏社長に「親離れ」を促しているといえる。今決断しなければ、俊宏社長のほうが先に株主から不信任される恐れもある。
(文=編集部)

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