興行収入250億円を超えたアニメ映画『君の名は。』(東宝)から3年、新海誠監督の新作『天気の子』(同)が7月19日より全国公開された。

前作がメガヒットとなっただけに、アニメファンのみならず多くの人から注目を浴び、公開3日間の興行収入は16億円突破となった。この数字は『君の名は。』の公開3日間の興行収入を上回る。

 話題作としてこの上ない好スタートを切ったが、肝心の内容はどうだろうか。実際に映画を観た人によるインターネット上の書き込みでは、「『君の名は。』よりも面白かった!」「エンタメしながら新海らしさもあるし、絵の美しさは相変わらず最高」といった肯定的な意見がある一方で、「凡作。

正直期待外れ」や「『君の名は。』以上にストーリーがガバガバだった」といった批判も少なくない。公開前より新海監督が「賛否分かれる作品になる」と語っていたが、まさしくその通りの評判となったといってよさそうだ。

 そこで、本作を観賞した映画業界関係者3人に『天気の子』の感想、解説を語ってもらった。

【『天気の子』座談会、中編・後編はこちら】
・なぜ『天気の子』は泣けないのか?ラストで提示された“救い”、“描かれない”ことの意味
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※以下、一部に映画の内容に関する記述があるため、閲覧にご注意ください。

お彼岸の伏線はどこへ行った?

A まず一番最初に出てくる感想としては、「『君の名は。

』と一緒だったな」って感じかな。

B 一緒というと?

A ストーリーが大味、力技なんだよね。

B 確かに『君の名は。』肯定派の私も、今回のはよくわからない部分が多かった。

A 前回はハネる要素が多かったけど、今回はスケールとか設定がちょっと地味めだから、その分大味さが目立ったのかもしれない。

C 「隕石」と「大雨」、「入れ替わり」と「晴れ女」だとやっぱりスケールダウンしちゃいますよね。

A それに、投げっぱなしな設定も多かったかな。“死後の世界”とか“お彼岸”が重要なテーマとして出てきているのに、それが途中でどっかに行って、何も回収せずに「彼女(陽菜)に会いたい」の一点張りで終わってた。配置した設定はどうなったんだよって。

B なるほど。死後の世界を絡めるなら鈴木清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』みたいなベタな展開でいいんだよね。

C 鳥居の脇の精霊馬へ意味深にアップしたり、夫の初盆だというおばあちゃんも空は彼岸とつながってると解説してましたからね。

しかも、陽菜のお母さんや須賀圭介の奥さんといったキーとなりそうな人もすでに亡くなっていたし。

A そうそう。クライマックスは帆高が陽菜を彼岸から連れ戻したってとらえることもできるわけでしょ。だったら空の上には陽菜のお母さんや須賀の奥さんとか、死んじゃった人がいてもいいよね。須賀が奥さんのことを思い出して泣いてるシーンもあったけど、あそこまでして、なぜ奥さんのことを回収しないんだ……。廃ビルに須賀が現れたのも、自分の大切な奥さんと会うために帆高の前に立ちふさがったのかと思ったのに。

新海監督は長編ではなく短編向き

C 須賀の奥さんも実は天気の巫女だった、みたいなほうが面白みはありますね。わけがわからなかったといえば、オープニングとかでちょこちょこドバーって雨が降ってきたりしてたじゃないですか。あれは意味不明でしたね。

B エキストラの少年たちまで登場させてあれを見せといて、結局特に回収しなかったからね。

A 家出少年が不思議な少女に出会う設定とか、序盤の展開はかなり乗れたんだけど、銃の拾い方といい、彼岸のこと、水の塊が降ってくること、雨に魚が混じってるとことか全然説明がない。全体的に展開が力押しだったから、なんかモヤッとする。

B 『君の名は。』ではちゃんと説明してたけど、今回はそれがなかったね。

A 『君の名は。』では説明してた、といっても解決の仕方が強引だったし、勢いで突破してる部分も多い。やっぱり新海監督ってそういうセンスの人なんだよなぁ。

B 今回観るにあたって(新海監督のデビュー作の)『ほしのこえ』(02年公開、上映時間25分)を見直してみたんだけど、絵なんか今と比べものにならないのに、めちゃくちゃ面白いんだよね。

A だから短編向きなんじゃない? 短編ならテーマをひとつに絞ればいいからハッタリがきくけど、長編だとごまかしがきかない。それが『君の名は。』に比べて設定とか展開にダイナミックさが足りない『天気の子』では粗が目立ってしまったと。結局、人柱にもなってないわけだしさ。
(構成=編集部)

※中編に続く

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