かんぽ生命保険の不正販売をめぐり、親会社の日本郵政と、子会社のゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の親子上場の問題点が浮上してきた。日本郵政に、どうやって稼ぐかのグランドデザインがないことによる悲劇だ。
かんぽ生命の保険の不適切販売で揺れる日本郵政グループが8月9日、2019年4~6月期連結決算を発表した。不適切販売が浮上したのは6月下旬で、この決算に影響は反映されていない。
郵政グループは保険販売を8月末まで自粛している。新しい契約の減少が見込まれるが、「不確定要素が多く、影響を合理的に算定するのは困難」として、20年3月期の業績予想を据え置いた。一般的な企業であれば「未定」とするところだ。
かんぽ生命の親会社である日本郵政の19年4~6月決算は、売上高に当たる経常収益は前年同期比5.5%減の2兆9851億円、純利益は同9.3%増の1350億円。
郵便局を運営する日本郵便の純利益は354億円(前年同期比54.5%増)、ゆうちょ銀行は778億円(同0.6%減)、かんぽ生命は337億円(同0.9%減)だった。
ゆうちょ銀行は低金利(マイナス金利)での運用難、かんぽ生命は新規契約の伸び悩みで、そろって減益。一方、郵便事業を担う日本郵便は小型宅配便の事業が好調で、大幅な増益となった。
日本郵便の収益改善が最大の課題かんぽ生命の顧客が保険を乗り換える際に、保険料を二重に徴収するなど、不適切な販売をしていた事案が多数発覚した。苦情を受けて、17年4月~19年1月に計1097件の保険料を全額返金した。日本郵政グループはすでに、顧客の不利益が疑われる契約が約18万3000件あったと公表。
郵政グループの売上高は07年の民営化以降、減る傾向にある。電子メールなどの普及で郵便事業は大幅減。国内郵便物数は01年度の262億通から17年度は172億通にまで減った。このままだと、郵便事業は19年度以降に営業赤字になる見通しだ。
19年4~6月期決算でみると、郵政グループの純利益の82%は、かんぽ生命とゆうちょ銀行の金融2社が稼いでいる。だが、親会社の日本郵政は、金融2社の株式を今後売却する計画で、将来の完全民営化を目指す。もはや金融2社に頼るわけにはいかない。
日本郵便が展開する全国2万4000局の郵便局が、かんぽ生命の保険商品を委託販売している。郵便局では、ゆうちょ銀行の預金集めをしながら、投資信託と保険を一緒に売っていた。日本郵便が両社から受け取る業務手数料は年間1兆円に上る。
かんぽ生命と日本郵便が7月から始めている保険の営業自粛が解除されても、従来通りの営業成績を上げることは難しい。非上場で“金食い虫”の日本郵便が、どうやって稼ぐかが日本郵政の最優先課題である。
政府は保有株を高値で売るために親子上場を強行?政府は、保有する日本郵政株を高値で売却するために、日本郵政グループの親子上場を強行し、フルに活用した、と指摘されている。もともとは持ち株会社、日本郵政の単独上場を計画していた。だが、東日本大震災が発生し、大震災の復興財源として4兆円を日本郵政株の売却で確保する必要に迫られた。3社の親子同時上場は過去に例がない奇策だった。
「株式の売り出しの際に、金融2社の評価が日本郵政の株価にも反映される。これが、3社が適正に評価される最上の方法」と、政府は力説した。低収益の郵便事業を抱えているため、日本郵政の成長は期待薄だ。そのため株価は上がらない。政府が想定する価格を下回った水準で売却すれば、復興財源に穴があく。計画通りに日本郵政株を売却するには、株価を高値に保たなければならなくなる。
15年と17年の2回にわたり、日本郵政株を発行済み株式ベースで43%分をすでに売却し、2.8兆円を得た。郵政民営化法で義務付けられた「22年度までに4兆円」を調達するには、1.2兆円が絶対に必要となる。
政府は9月にも、保有する日本郵政株を追加売却する予定だった。保有比率を現在の57%から、郵政民営化法が定める下限となる3分の1超まで下げ、同法に基づく売却を完了することになっている。
保有する25億株余りの日本郵政株のうち、最大10.6億株を売り出す。1.2兆円を調達するには、売り出し株価1132円が最低ラインとなる。だが、8月13日に一時、994円の上場来安値に沈んだ。追加売却を発表した4月9日の株価(1286円)より23%安い水準。最低ラインの株価を大きく下回ったままだ。
財務省は第3次売却で「復興財源1.2兆円を確保したい」としてきた。
グループの経営を複眼的視点で見直し、成長戦略を立てなければ株価は反転しない。日本郵政の今のトップ、長門正貢社長は問題意識が希薄で動きも鈍い。年度内(2020年3月末まで)に日本郵政株を売り出せるのだろうか。
(文=編集部)