元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな寄付は「ふるさと納税」です。
ある飲食店に、税務調査が入りました。その社長は二重帳簿を作成し、売り上げの一部を隠していたなどとして重加算税を賦課されましたが、一部納得がいかなかったようで、不服申立てを行いました。
この会社は、売り上げの除外以外にも、税務調査でさまざまなことが指摘されたようです。
会社は、飲食店の店舗ビルを賃借りしていました。毎月、きちんとオーナーに賃料を払っていましたが、ある日、契約内容を変更し、借り主をグループ会社にしました。
契約上は、オーナーからではなくこのグループ会社から借りることとなります。どうして、そんなことをするのでしょうか。毎月の賃料を今までの2倍に設定しましたが、きちんと払い続けていました。
このような、一見して合理的でない行動には、誰でも疑問に感じます。「なぜ支払い金額を2倍にしたのか」「そこに経済合理性はあるのか」「単純に利益を移転するためではないか」、そういったことが税務調査では問題になります。
社長によると、賃料にはホームページの管理、スタッフの手配、店舗の修繕、更新料の負担などが含まれているとのことでした。その分、賃料の支払いが今までより多いという主張です。
しかし、従業員の証言によると、社長の指示で、グループ会社の運転資金が不足した際には、売り上げの多い店舗の資金をグループ会社に送金していたそうです。
すると、高い賃料も資金不足を補うために設定されたものである可能性があります。不服審判所の調査によると、賃料差額は、その金額の算定根拠が不明確で、社長の言う各業務が具体的に行われたことを示す証拠はなかったそうです。つまり、サービスの対価であると認めることができません。何もしてもらっていないのに渡したお金として、寄附金に当たるとされました。
これは、会社にとって手痛い結果です。今まで賃料として計上していた費用のうち、半分が寄付金になるわけです。寄付金は一部しか損金にできないので、その分の法人税を支払わなければいけません。賃料が否認されても、家賃をもらっていたグループ会社の収入は減らないので、トータルでマイナスとなります。
社長の妻が個人的に乗っていた車は経費で落とせるか?また、会社は、およそ600万円で自動車を買っていました。
しかし、税務調査では、自動車は社長の妻が個人的に使用しており、そもそも個人使用の目的で購入したとして、購入代金の600万円は社長に対する給与であるとされました。これに対し会社側は、「費用は会社が負担している」「自動車は社長の妻が個人的に使用しており、それによる利益は当然受けているから、損金性が否認されることはやむを得ない」との見解を示しました。
つまり会社は、従業員でも役員でもない妻の使用は認めているわけです。通常であれば、この時点で、社長に対する役員給与とされてもおかしくないように思います。
さらに、事実関係を確認すると、自動車の納車場所と保管場所は、社長の妻の家だったそうです。ディーラーに伝えた連絡先は社長の妻のものでした。最初から、妻が使用する目的だったことは明白です。
しかし、審査した国税不服審査所長は、「社長の妻が自動車を個人的に利用しているといえるにとどまるのであって、会社から社長に対して自動車の贈与があった、経済的利益として会社が役員給与を支給したのと同様の効果をもたらしたとまでは認めることができない」として、役員給与には当たらないと判断しました。
社長の妻が乗っているだけなのに、会社の経費で自動車を買えてしまったのです。個人使用は認めているのに、納税者有利の判断がされた珍しい事件でした。
しかし、これは稀有な例です。税務調査に携わる人間なら一様に目を丸くするような判断といえます。どんな場合でも、家賃は合理的な金額を設定し、個人的な支出は会社の損金としないよう心がけるべきでしょう。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)
●さんきゅう倉田
大学卒業後、国税専門官試験を受けて合格し国税庁職員として東京国税局に入庁。
「ぼくの国税局時代の知識と経験、芸人になってからの自己研鑽をこの1冊に詰めました。会社員が社会をサバイバルするために必須の知識のみを厳選。たのしく学べます」