昨年12月、安倍晋三首相と文在寅大統領による日韓首脳会談が1年3カ月ぶりに開かれたが、元徴用工や従軍慰安婦をめぐる問題は、いまだ解決の道筋が見えていない。一方で、民間では反日と嫌韓を超えて活発な交流が行われており、昨年9月には11回目を数えた「日韓交流おまつり」が開催された。

 その日韓交流おまつり事務局長を務める権鎔大(ゴン・ヨンデ)氏は『あなたは本当に「韓国」を知ってる!?』(駿河台出版社)の著者で、日韓双方の事情に詳しい人物だ。長引く日韓対立や韓国社会の実情について、権氏に話を聞いた。

日本の「割る」文化と韓国の「混ぜる」文化

――『あなたは本当に「韓国」を知ってる!?』では、韓国人と日本人の違いが詳細に描かれています。

権鎔大氏(以下、権) 韓国人と日本人は一見すごく似ています。そのため、自分の感覚で相手に接しますが、期待する対応が返ってこないと不信感を抱き、失望してしまいます。まずは、双方の違う点について理解し合うことが重要です。

 たとえば、韓流ドラマは日本よりも情緒的で家族的です。そこが日本社会に受け入れられ、韓流ブームを生み出しました。しかし、言い換えれば韓国人は情に流されやすいという性質があるわけです。

 また、日本は湿気が多い国なので人々はより清潔に努め、それが「割る」ことにつながります。「割る」=「正確」に物事を対処する習慣ができたといえます。消費税を8%、10%に分け、本体価格と税を分けて表示するのも「割る」文化です。

 韓国の場合、消費税は10%一律で本体価格に含まれています。これは、韓国が「混ぜる」文化だからです。「ビビンバ」のように、混ぜると個々の味はわかりませんが、それぞれに混じり合い化学反応が起き、集中力が高まります。

 その例がスポーツに表れています。野球、マラソン、フィギュアスケートにしても、その競技人口は日本が圧倒的です。高校野球部数は日本が韓国の約100倍、駅伝は韓国にはありません。

それでも、オリンピックなどの国際大会で韓国が日本と互角に闘っているのは、割らずに「混ぜる」ことによる集中力があるからだと思われます。

――アシアナ航空では日本地域本部長・中国本部長を務め、日本人、韓国人、中国人の社員たちと一緒に働いた経験もありますね。

権 日本人は手堅く指示通りに働く一方で、韓国人は指示通りではないですが、いざというときに集中力を高めて実行する能力が高い。そのあたりでも、感覚のずれがあることは否めません。

 昨今の元徴用工や慰安婦問題に対して、日本人は「韓国は約束を守らない」と指摘し、韓国人は「日本はあまりにも情がなさすぎるのではないか」と、議論は平行線をたどっています。お互いの主張を押し付けあっているから、うまくいかないのかもしれません。

お互いの違いを理解することから始めるのが肝要であり、今の対立は、日韓がより親しくなるチャンスになる可能性も秘めているのです。

検事、記者、税務署員の誰が食事代を払ったか?

――日韓対立を鎮めるために、日本からはどのようなアプローチをすればいいのでしょうか。

権 安倍政権は「国際法では解決済み」の一本槍で、韓国人の心情をくんでいるとはいえません。元徴用工や慰安婦の問題を本気で解決するのであれば、それらの人々の気持ちをくんだ対応を取ることが大事です。そうすれば、韓国側も「我々の心情をわかってくれた」と軟化するかもしれません。

 私は、「韓国人の心情や立場は理解できるが、国際法上の約束を破るのは恥ずかしいことだから、韓国側で解決しなさい」と伝えています。

いくら主張しても、日本とは論理が異なるわけですから。韓国人の研究者らが執筆した『反日種族主義 日韓危機の根源』は韓国でベストセラーになり、日本でも発売されています。一昔前の韓国では考えられない現象ですが、韓国も成熟した社会に変わりつつあるということです。

――昨年、韓国では曺国前法相のスキャンダルが文政権を揺るがしました。結局、曺法相は辞任し、文大統領の検察改革は失敗したとの見方が広がっています。

権 これは、韓国の権力構造が大きくかかわってくる話です。

韓国で流行したなぞなぞがあります。検事、新聞記者、税務署員の3人がレストランで食事をした後、誰が食事代を払ったか? というものです。検事は法の番人で、新聞記者は権力の濫用を監視する役割で、税務署員は脱税に目を光らせている……日本であれば割り勘になるのでしょうが、実はレストランの主人が払ったというのが答えです。

 この3者に恩を売っておけば何かのときにお目こぼしがあるので、先行投資をしたというわけです。これは、3者がそれぞれ権力を持ち、プライドが高いことを皮肉った小話です。

 実際、韓国人はすごくしたたかな面があり、絶対的な権力者に対しては従う一方で、不義があればひっくり返すこともします。それは、曺前法相の件や朴槿恵前大統領の失脚を見れば明らかです。韓国では憲法の上に「国民情緒法」と「ゴネ得法」の2つの概念があるといわれます。前者は国民世論によって政治や司法の判断が揺れることで、後者は法的には無理でもゴネればなんとかなるという意味です。

――韓国人は日本人よりも政治への関心が高いですね。

権 韓国ではタクシー運転手が影のオピニオンリーダーといわれていて、実際に彼らを抱き込むような政党もあります。また、最近の韓国で流行している言葉に「うちの女房は政治評論家になったよ」というものがありますが、朴前大統領を失脚させた「ろうそく革命」も女性たちの怒りが出発点でした。保守もリベラルも、デモの先頭には乳母車を転がす女性たちがいることが多いです。韓国の女性たちは美容院で政治談義に花を咲かせていることも多く、時に政権を揺るがすほどの力を持っています。

韓国女性が巻き起こす「スカートの風」とは

――日韓のカップルについてはいかがでしょうか。統計上は、日本人の男性と韓国人の女性で夫婦になるケースが多いようです。

権 その場合、主導権は妻側にあるでしょうね。朝鮮王朝時代に女性は7つの足かせをつけられたとされており、そのひとつが嫉妬です。それほど、韓国の女性は独占欲が強いのです。

 また、以前の韓国は激しいインフレで住宅価格が高騰していたのですが、お金を銀行に預けるより住宅投資に回す女性も多くいました。夫の給料をシードマネーにして、土地転がしならぬ家転がしで財産を生んでいたのです。そうした動きは「スカートの風」と呼ばれました。スカートを穿いた韓国の女性たち5人くらいがアパートの前で家転がしの相談をすれば、それが大きな旋風を生むという意味です。今はそれほどの影響力はありませんが、いまだスカートの風は韓国に内在しています。

(構成=長井雄一朗/ライター)