自動車業界で孤高を貫いてきたホンダが、米ゼネラルモーターズ(GM)に急接近している。新たに北米市場向け自動車のガソリンエンジンやプラットフォームなどの共同開発を検討することで合意した。
ダイムラー・ベンツとクライスラーが合併してダイムラークライスラー(現在は分離)が誕生するなど、2000年代初頭、世界中で自動車メーカーが合従連衡を繰り返していた時も、ホンダは焦って提携相手を探すことなく、単独での自前主義を貫いてきた。特徴的な独自技術で、町工場を世界的な自動車メーカーに発展させた創業者・本田宗一郎氏の教えを引き継ぎ、技術屋集団を標ぼうするホンダは、独立心が強い自動車メーカーとして有名だ。
過去、他社との業務提携を結んだり、英国ローバーに出資したこともあったが、ほぼ自主独立路線を貫いてきた。そのホンダが、ここにきてGMと結びつきを強めている。
GMとホンダは、新たに北米市場でそれぞれが販売するブランドの複数セグメントのモデルについて、ガソリンエンジンや電動パワートレーンを含めたプラットフォームの共通化を検討していくことで合意した。今後詳細を詰めて、2021年初めに共同作業の開始を目指す。また、北米市場向けモデルの研究開発や共同購買、コネクテッドサービス領域でも協業の可能性を検討する。
両社はこれまでも一部事業で提携していた。13年に燃料電池車向けシステムの共同開発で合意したのを皮切りに、燃料電池車の基幹部品の生産、EV用次世代リチウムイオン電池の共同開発でも合意。
大きく踏み込んだのが今年4月。ホンダはGMが開発・生産する北米市場向けEV2車種を、OEM(相手先ブランドによる生産)車の供給を受けることで合意した。これには業界から「環境対応車の本命と見られているEVを、他社からの供給にするほど、ホンダのEV関連技術は遅れている」との見方が広がった。ただ、ホンダのエンジニアはエンジンなどのパワートレーンにこだわりが強いだけに「内燃機関を搭載しないEVは他社製であっても気にしないのでは」と見る向きもあった。
それから5カ月。ホンダはGMとの協業を、北米市場向けモデル限定ながら、ガソリンエンジンなどのパワートレーンやプラットフォームといった「本丸」にまで広げることで合意した。これによって開発投資の分散や量産効果、先進技術の活用などのメリットが得られる見込みだが、その半面「ホンダらしさ」を打ち出すことが難しくなる。
ホンダにとって北米事業は営業利益全体の5割を稼ぎ出す柱だ。その北米事業でGMと主力事業を共通化に踏み切るほど、ホンダは追い込まれている。
一つは収益力の弱さだ。
将来に対するもう一つの不安材料が、技術開発の遅れだ。今年4月に移管するまでホンダの四輪車の開発は、子会社の本田技術研究所が担ってきた。研究所の中でも「エンジン屋」の発言力が強く、新型車の開発でもパワートレーンに比重が置かれていた。
しかし、今後の自動車のトレンドは先進運転支援システム(ADAS)や自動運転技術、EV車両などだ。多くの自動車メーカーが、これら先進技術の不足を補うため、他社との提携や、技術を持つスタートアップに投資しているが、ホンダは自前主義の意識が強いこともあって、これら先進技術の開発では遅れているのが実情だ。
自動車メーカーが対応を迫られているEVや自動運転などの技術は、開発する領域が広く、多額の研究開発投資が必要になる。
弱い収益力と、遅れている先進技術という危機感から、「ホンダらしさ」のこだわりを捨てて、GMとの提携拡大という道を選んだホンダ。ただ、GMが資本提携していないホンダと、どこまで踏み込んで技術をオープンにするかは見通せない。さらに、ホンダでは、独りよがりになりがちだった量産車の開発部門を、研究所からホンダ本体に4月に移したばかりだが、独立心の強いエンジニアがGMとの基幹部門の開発に前向きになれるのかについては疑問が残る。
両社の緩やかな提携が実を結ばなければ、ホンダの経営は厳しくなる可能性がある。独立路線を貫いてきたホンダが、GMの資本を受け入れる日はそう遠くないかもしれない。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)