吉野家の店舗
大手牛丼チェーン「吉野家」で炎上が相次いでいる。役員が講演で自社のマーケティング戦略をめぐり不適切な発言をして解任されたことに続き、採用説明会に出席予約した大学生が外国籍であることを理由に内定した場合も入社できない可能性があるとして、一方的に予約をキャンセルしたことが差別的だと批判を受けた。
発端は今月3日、予約をキャンセルされた大学生がツイッター上で「ハーフだけど日本生まれ日本育ち国籍日本なのに向こうから急に説明会キャンセルされた」と発言したことだ。吉野家からのメールも公開し、7日現在で2.5万リツイートされるなどネット上で拡散された。吉野家は当サイト編集部の取材に対し、以下の回答を寄せた。
「当社は『ダイバーシティ』をキーワードとし、組織の活性化を目的に外国籍社員の積極的な登用を続けており、国籍を問わず、将来的な幹部候補として中長期的な教育に基づいた雇用を主としています。従って、当社のこの方針に最も沿うと考える技術・人文知識・国際業務によるビザの取得を前提とすることを採用対象の条件としております。
但し、技術・人文知識・国際業務によるビザの取得は非常に困難であり、内定取り消しをせざるを得なくなったことが一定程度ございました。ビザの取得をできず内定を取り消された方の心象を慮るあまり、外国籍の方は新卒の会社説明会のご応募をいただいても参加をやむなくお断りしておりました。
このような経緯があったものの、当社の外国籍の方の採用に関して説明が不足しておりました。また、参加申込情報から外国籍と思われる方へは本来、先ず連絡をすべきところ、連絡の過程において不備がございました。誠に申し訳ございませんでした。今後は応募者に対してわかりやすい採用活動に努めてまいります。
当社では国籍を問わず、新たな価値観や発想を取り込むことで、社内にさまざまな意識改革をもたらしてくれることを期待し、あらゆる社員が強みを活かせる取り組みを積極的に推進してまいります。
https://recruit.yoshinoya.com/workstyle/worker.html 」
吉野家「連絡に不備」と説明、「外国籍社員の積極的な登用」との公式見解との落差吉野家は「外国籍社員の積極的な登用を続けて」いるが、入社の前提となる「技術・人文知識・国際業務」によるビザの取得が「非常に困難」であり、過去に「内定取り消しをせざるを得なくなったことが一定程度」あったと説明。「ビザの取得をできず内定を取り消された方の心象を慮るあまり」、外国籍の学生は新卒の会社説明会に応募しても参加を断っていたと参加予約をキャンセルした経緯を説明した。
その上で、外国籍の社員登用方針についての周知が不足していたことを認め、「参加申込情報から外国籍と思われる方へは本来、先ず連絡をすべきところ、連絡の過程において不備」があったと認め、謝罪した。
日本企業の採用試験を受ける学生にはさまざまな背景があり、例えば永住権を持っている場合などは当然ビザの配慮などは必要ない。吉野家が不備を認めているとおり、まず外国籍と思われる学生本人に連絡して日本人と同様の採用試験を受ける要件を満たしているかを確認すべきだっただろう。
弁護士「吉野家の一方的な予約キャンセルに法的な問題はない」と見解外国籍というだけで会社説明会の予約を一方的にキャンセルすること自体の法的な問題はないのだろうか。山岸純法律事務所の山岸純弁護士は次のように解説する。
「かつて、安保闘争などの学生運動に参加していた者の採用が拒絶された、いわゆる三菱樹脂事件で最高裁は『賃金などの労働条件について、思想などを理由に差別することは違法だが、雇入れ時に思想などを理由に拒絶することは違法ではない』旨、判断しました。したがって、国籍を理由に『採用面接を受けさせない』、要するに採用しないという企業の態度がすぐに違法となることはありません。
例えば、内容が比較的革新的(左翼的)と言われる朝日新聞が、採用の段階において右翼的活動を行っている者を、それを理由に採用しないというのもあり得るでしょうし、日本の国防を扱う三菱重工業が外国人を採用しないというのもあり得るということです」
その上で、今回の「連絡の不備」が起こった背景について、こう推測する。
「察するに、採用側は、本当は『別な理由』で書類選考で落としていたところ、“お祈りメール”の『テンプレート』を用意した際に、例えば『名前』を見て外国人であるという意識が残り、誤って今回の『テンプレート』を使用してしまったのではないでしょうか。
筆者も、吉野家の採用担当者が名前などの表面的な情報から「外国籍なので、どうせ採用できない」と判断し、会社説明会の予約を短絡的にキャンセルした可能性が高いと考える。吉野家は前述の役員の問題発言が発覚すると即座に当該役員を解任して火消しを図ったが、企業に外国籍やジェンダーなどに対する配慮が強く求められるという風潮をよりしっかり理解した上で企業経営に励むべきではないだろうか。役員の問題発言で株価は下落し、新商品の発表も延期になるなど実害も出ており、商品に根強い人気があったとしても、こうした問題が続けばブランドが低下しかねない。
(文=竹谷栄哉/フリージャーナリスト、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)
●竹谷栄哉・フリージャーナリスト。食の安全保障、証券市場をはじめ、幅広い分野をカバー。Twitterアカウントは、@eiyatt.takeya 。
●山岸純/山岸純法律事務所・弁護士
時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。現在、神谷町にオフィスを構え、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。