工作機械大手のDMG森精機(プライム上場、森雅彦社長)がロシア事業から撤退した。ロシア西部ウリヤノフスクの組み立て工場を閉鎖し、従業員200人を解雇した。
ロシアによるウクライナ侵攻を受けて3月、ロシアでの生産を休止した。日本や欧州からロシア向けの輸出もストップ。ウクライナやロシアの顧客に交換用部品を届けることができない状態だという。
工作機械は兵器生産に転用される恐れがある。対ロシア経済制裁でも厳しく監視されているし、国際的にはココム(対共産圏輸出統制委員会)などで輸出管理の対象となった。ココムとは共産圏諸国に対する戦略物資の輸出規制で、1987年、東芝機械のココム違反事件が起きた。ソ連崩壊後、規制緩和が行われ、現在は半導体、コンピューター、新素材などの最先端分野に限られている。
「米国やEUなど各国政府の意向通りにしないといけない。一企業としてはルールに従うしかない」(森社長)との立場だ。
DMG森精機は工作機械の世界的メーカー。前身の森精機が2016年、同業の独ギルデマイスター(DMG)と経営統合した。ロシアの工場建設は12年にDMGが開始。DMGと森精機が統合したDMG森精機が、工作機械工場を17年に稼働させた。
顧客はロシアの航空機、機械、自動車分野の工場。主な提携先は航空機会社やエンジン製造会社。ロシア国内で販売する製品は6割強を現地生産で、残り4割弱を日本や欧州からの輸入で賄っている。ロシアの工場が戦争やそれに伴う稼働停止など損害を受けた場合、ドイツ政府による保険で最大140億円弱の損失補償が受けられるといい、保険金請求も検討している。
マクドナルドやルノーはロシアから完全撤退欧米の主要企業では米外食大手マクドナルドや仏自動車メーカー、ルノーがロシアからの撤退を決めている。
マクドナルドは5月16日、ロシア事業を売却すると発表した。仏ルノーもロシアの自動車大手アフトワズの保有株を売却すると表明した。米エール大学の調査によると、ロシアからの事業撤退を決めた企業は310社を超えた。
「当社は地域経済に深く根差してきた歴史があるが、国際社会に対し、揺るぎない価値観を示す必要がある」。マクドナルドのクリス・ケンプチンスキー最高経営責任者(CEO)は5月16日に公表した声明でこう述べた。
マクドナルドは3月からロシア事業を一時停止してきたが、今回、現地の企業に事業を売り、事実上撤退する。ロシア国内に850店を展開している。撤退に伴い、最大14億ドル(1800億円)の損失を計上する。東西冷戦終結の象徴だったマクドナルドの撤退はロシア事業を展開する他の米国企業に影響を及ぼしそうだ。
マックのロシアの店で働いている人は6万2000人に達する。
マクドナルドの決定でアップル、スターバックス、ナイキなどロシア事業を一時停止している企業や、コカ・コーラ、マイクロソフト、ゼネラルエレクトリック(GE)が撤退を早めることもあり得るという。
ルノーはアフトワズ株式(67.69%)をロシア国営の中央自動車エンジン科学研究所に売却すると発表した。モスクワ工場の運営会社(ルノーロシア)の株式もモスクワ市に売る。ロシア事業は2022年1~6月期にルノーの連結対象から外れる見通しだ。ルノーの場合、6年間、アフトワズ株を買い戻す権利を有するとしており、ロシア事業を将来的に再開する選択肢は残す。
この結果、ルノーはフランスに次ぐ重要市場を失うことになる。ルノーの2021年のロシアでの販売実績は48万台で世界販売の18%を占める。ルノーのデメオCEOは「決断は簡単ではなかった。経済制裁で他の選択肢はなかった。破綻すれば4万5000人のロシアの従業員が仕事を失っていた」と述べた。
ロシアからの撤退によって発生する損失を穴埋めするため、「ルノーは保有している日産株の一部の売却を検討している」との報道が海外でなされている。アフトワズには日産自動車も出資している。カルロス・ゴーン元CEOがモスクワを訪問し、プーチン大統領と握手をしてアフトワズ株を買い取った。ルノー・日産の対ロシア損失はどのくらいになるのかが注視される。
英石油大手シェルは5月12日、ロシアの小売事業をロシアの石油大手ルクオイルに売却することで合意したと発表した。22年1~3月期に減損など撤退関連費用で約42億ドルを計上した。独シーメンスも5月12日、ロシア事業からの撤退関連費用で22年1~3月期に6億ユーロ(約800億円)の損失を計上した。
従来通りロシアでビジネスを続けている企業は210社を超える。中国企業が目立つが、日欧米の企業も名前を連ねている。
(文=Business Journal編集部)