どうも、“X”という小さな芸能プロダクションでタレントのマネージャーをしている芸能吉之助と申します。
さて、これまで数回にわたって「アイドル」「ドラマ」「映画」と、芸能界にまつわるお金の話をしてきましたが、今回は芸能プロダクションにとって“オイシイ仕事”ともいわれている、「CM」のギャラについてお話ししていきたいと思います。
これまで話してきたように、ドラマや映画って、拘束時間や労力のわりにはギャラがめちゃくちゃ高いわけではないんですよね。もちろん、役者の場合はそうした仕事こそ“本業”なわけで、そのためのキャリアを積めたり知名度を上げられたり、タレントにとってはギャラ以外のメリットがたくさんあるのはいうまでもないのですが……。
それに対してCMは、1本で数千万円単位の仕事になることも多いし、対して撮影その他の制作にかかる時間はドラマや映画に比べれば短いので、僕ら芸能プロダクションにとっては、ものすごーくオイシイ仕事なんです! ただ、契約期間中に出演タレントが不祥事を起こした場合、それなりの額の損害賠償や違約金が発生する可能性もあるので、ただただオイシイだけともいえないのですが。
●auのシリーズものCMは、回が重なるたびにギャラも増える!
CMのおカネがどのような仕組みになっているのかをザックリ説明すると、まず最初に「年間契約料」というものが決まります。よく雑誌の「CMギャラランキング」なんかで取り上げられているのは、この金額であることが多いですね。年間でなく、1クール(3カ月間)、2クールという期間での契約もあります。
で、そのあとにムービー(動画)撮影、WEBや販促物に使用するスチール(静止画)撮影でさらに出演料が発生します。このムービー撮影とスチール撮影とで料金が違ってて、ムービーがだいたい年間契約料の10%、スチールが5%とか、そんな感じだったかな。まあケースバイケースですけど。
そんな感じでなんとなく大枠は決まってるんですが、年間契約料に初回撮影料が含まれている場合も多いですね。例えば、2000万円の契約料が決まって、初回の撮影料はコミコミです、という場合、「契約が決まりました→ムービーとスチールを2日間くらいかけて撮影します→これで2000万円! 以上!」という感じでサクッと終わります(笑)。
ただ、CMがすごく好評なので第2弾を作りましょう、という話になると、そこでまた、別途撮影料が発生します。
そんなふうに撮影回数が多いCMって、ほんとオイシイんですよ! 松田翔太くん、桐谷健太くん、濱田岳くん、有村架純ちゃん、菅田将暉くんたちが出演している「au三太郎」シリーズなんかは、その典型ですね。あれはたぶん初回撮影料コミの契約になっているとは思うけど、シリーズものになっていて撮影回数がものすごく多いでしょうから、撮影料もどんどん上乗せされていってるはず。
たとえば3000万円の契約で年間に5回撮影があるとしたら、ムービー300万円(契約料の10%)+スチール150万円(契約料の5%)で450万円。それが5回あるとして、撮影料だけで2000万円以上。3000万円の契約料に2000万円以上乗っかってくるわけです。しつこいですけど、ほんとにオイシイ(笑)。
最初からシリーズものになることが決定していて、CM10本分の映像を1回の撮影で撮っちゃおう、みたいなケースももちろんあるんだけど、携帯電話会社のCMって、なかなかそういうわけにはいかないんですよ。というのは、料金プランの発表やキャンペーンって、けっこうギリギリに決定されるんです。それに応じてCMを作り変えないといけないから、その都度撮影が必要になって、回数も多くなってくる。携帯電話会社のCMにシリーズものが多いのは、そういう理由もあるんです。毎回イチからCMを作るのは大変だし、シリーズものにしたほうがお茶の間に浸透しやすいですからね。
●ひと昔前なら高倉健さん&吉永小百合がトップオブトップ
で、気になる具体的な年間契約料の金額ですが……ちょっと前だと高倉健さん、吉永小百合さんクラスが“トップオブトップ”で1億円くらいだったかな。今だともうちょっと高くて、1億円超えをする芸能人もけっこう多いと聞きます。明石家さんまさん、タモリさん、ダウンタウンのお2人、中居正広さんなどなど。山﨑賢人くん、斎藤工さん、高橋一生さんあたりで、5000~6000万円か、あるいはそれ以下……といったところでしょうか。
あと、2020年末をもって活動休止することを先日発表した嵐は、単独でのギャラは1億円前後、グループでは1億5000万円といわれています。意外と“お買い得”な印象ですよね。
CMって、ただ人気があるからギャラが高いというわけではなく、老若男女、広範囲で名前を知られていることが大事なんです。たとえば今でいえば星野源くんなんかは、曲もヒットして役者もやっていて、ある層にはすごく人気があるんだけど、すべての年代にわたってものすごく有名……というわけではないですよね。だから、彼のギャラがものすごく高いかというと、おそらくそこまででもないと思います。やっぱり、はやりの俳優やミュージシャンよりも、長くバラエティー番組に出ているタレントのほうが認知度も高く、その結果ギャラも高めという傾向がありますね。
そういう意味で、日本国民みんなが知っていてギャラが高い……といえば、やっぱり有名アスリートでしょうか。スポーツは、男女や世代を問わず、みんな興味がありますからね。
スポーツ選手に関しては、これから東京五輪までの間に開催される世界大会の結果や五輪でのメダル獲得など、東京五輪に向けての盛り上がりに比例して、彼らの“起用バブル”が起こる可能性もあるかもしれませんよね。だから最近は、いろんな芸能事務所がアスリートの争奪戦を繰り広げているのかな(笑)。
(構成/白井月子)
●芸能吉之助(げいのう・きちのすけ)
弱小芸能プロダクション“X”の代表を務める、30代後半の芸能マネージャー。趣味は食べ歩きで、出没エリアは四谷・荒木町。座右の銘は「転がる石には苔が生えぬ」。