2月28日木曜日、焙煎機を備えた高級コーヒー店「スターバックス リザーブ ロースタリー 東京」が、東京・中目黒にオープンした。筆者は同日正午過ぎに同店を訪れたが、あいにくの雨にもかかわらず多くの人が訪れていた。

入店希望者が殺到したためすぐには入れず、筆者は約1000人待ちとなる整理券を受け取り、3時間後にようやく入店することができた。

 スターバックスが「リザーブ ロースタリー」と呼ぶ高級店は、世界でも数が少ない。中目黒の店舗はシアトル、ミラノ、上海、ニューヨークに続く世界5番目の出店で、日本では初となる。

 外装を隈研吾がデザインした中目黒の店舗は4階建てで、どの階も多くの人で賑わっていた。建物の吹き抜け部分には1階から4階まで貫く高さ17メートルの豆の貯蔵庫がある。1階には大型の焙煎機があり、コーヒー豆の焙煎から袋詰めまでの過程を見ることもできる。ここで袋詰めされたコーヒー豆は全国のスタバ店舗に送られる。

 提供する商品は、ほかのスタバ店舗にはないものばかりだ。飲料は100種類以上を取りそろえる。コーヒーは豆の産地や抽出方法を選んで注文できるものもある。フードメニューは伊ミラノ発の人気ベーカリー「プリンチ」が提供するパンなど個性豊かなものが多く並ぶ。デザートも厳選されたものをそろえる。
品ぞろえは通常店とは比べものにならないほど豊富だ。

 筆者は商品のいくつかを実際に試してみた。ウイスキーの樽の中で寝かせた豆を使ったコーヒー「バレルエイジド コールド ブリュー」(1200円/税抜き、以下同)と、ハムとチーズを挟んだサンドイッチ「ブリオッシュ サンドイッチ プロシュート クルード&パルミジャーノ」(680円)、ラズベリージャムが載ったチーズケーキ「チーズケーキ ランポーネ」(700円)を注文。いずれも価格は高いが、相応のおいしさがあり十分満足できた。

 建物の2階では、お茶のブランド「ティバーナ」を提供する。酒粕と1週間茶箱で寝かせて日本酒の香りをつけた玉露「さくらの小径」(1200円)など、個性豊かなお茶を取りそろえる。3階には、スタバとして日本初のバー「アリビアーモ」が設けられ、ラガービール「テラスラガー」(900円)や期間限定のカクテルなどを提供する。3階にはテラス席もあり、春には目黒川の桜並木のお花見が楽しめそうだ。4階には30~40人が集えるスペースがあり、イベントやバリスタらの教育施設として利用される。

 同店のコーヒーの最低価格は580円で、通常店に比べて高めだ。しかし、商品のクオリティが高いほか、コーヒー豆の焙煎の様子を眺めることができるなど体験型の店舗になっていることや、おしゃれな内装であることが価格の高さを忘れさせる。また、中目黒というおしゃれな街に立地していること、店舗のそばを流れる目黒川や桜並木を眺められるなど眺望が良いことなども付加価値となっている。
全体の完成度はかなり高く、価格が高くても十分受け入れられると感じた。

●スタバのブランドイメージ向上の起爆剤になるか

 スタバが同店をオープンしたのは、ブランドイメージを高めるほか、同店の商品や店舗デザインの価値をほかのスタバ店舗に移植するためだ。感度の高い中目黒でスタバのコアの価値となる「サードプレイス」(職場でも自宅でもない第三の居場所)に磨きをかけ、全体の底上げを図りたい考えだ。

 スタバは国内のコーヒー専門店の中でも圧倒的な強さを誇る。国内店舗数は約1400店でドトールコーヒーショップ(約1100店)やコメダ珈琲店(約830店)など並み居るライバルを抑え、業界最多を誇る。店舗数は増加傾向にあり、今後も積極的な出店を続けていくとみられる。勢いは衰えておらず、血気盛んで、しばらくは独走状態が続きそうだ。

 ただ、顧客満足度の低下が懸念材料となっている。日本生産性本部のブランド調査では、スタバの顧客満足度は2014年度にカフェ部門において1位だったが、15年度に3位に転落し、16年度は4位に後退、17年度は5位以下の圏外に消えた。18年度第1回調査でも圏外となっている。このように、同調査ではスタバの顧客満足度の低下が深刻となっているわけだが、理由として価格の高さが指摘されている。

 スタバは全国規模のコーヒーチェーンのなかでは価格が高めだ。
スタバはフローズン状の飲み物「フラペチーノ」を大ヒットさせ人気を獲得してきたが、フラペチーノは500円台、600円台と高額のものが多い。ほかの飲み物も総じて高めだ。2月15日に値上げを実施したことも、価格の高さに拍車をかけている。コーヒー豆を中心とした原材料費や人件費、物流費の高騰を理由に主力商品を10~20円程度引き上げた。商品改良などを伴わない幅広い価格改定は11年2月以来8年ぶりとなるが、この値上げにより割高感がさらに高まった。今後さらなる顧客満足度の低下が懸念される。

 価格が高くても、それ以上の価値があれば来店してもらえる。そうするためには商品や店舗空間の価値を高めていく必要がある。そういったことを実現させる上で重要な役割を果たすことになるのがロースタリーだ。

 スタバはフラペチーノを中心に若年層向けの商品に強みを持つ。一方で、年齢が上がれば上がるほど好まれる傾向にあるドリップコーヒーは必ずしも強みとはいえず、改善の余地が大きかった。中高年層を取り込むほか、客の高齢化に対応するためにもドリップコーヒーの強化は必須だ。
そうしたなか、ロースタリーで焙煎したコーヒー豆を全国の店舗に届けるなどして、ドリップコーヒーを強化したい考えだ。また、ロースタリーの利用客は通常店よりも年齢層が高めのため、そういった層に好まれる商品を見極める場にもなる。ロースタリーで人気が出た商品を通常店に広げることで、中高年層を取り込むほか、若年客の高齢化に対応できるようになることが期待できる。

 ロースタリーは店舗空間の面でも大きな役割を果たしそうだ。ロースタリーの内装やコンセプトを新規出店店舗などで生かすことができるだろう。スタバの「サードプレイス」としての価値をさらに高めることが期待できる。

 このように、ロースタリーが商品や店舗空間のハブの役割を担うことで、スタバ全体のブランドイメージを高めたい考えだ。ロースタリーの今後が期待される。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

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