自動車が、100年に1度の大変革期を迎えているのはご存じのとおりだろう。例えばメルセデス・ベンツが使用している“CASE”。

この言葉が、今後の自動車が実現したい未来をもっともわかりやすく表しているのではないか。

「C」はコネクテッド、通信を使ってクルマと社会が繋がること。「A」は自動運転で、自動車事故ゼロ社会の実現を目指した究極の理想。「S」はシェアリング&サービス、従来の所有という形態から、より柔軟にクルマを利用できるサービス。そして「E」はエレクトリックすなわち、パワートレインの電動化である。メルセデス・ベンツをはじめ自動車メーカー、そしてIT産業が、これらの4つのキーワードが示す新しい自動車社会を目指しているのだ。

 今回はその中の「S」、シェアリング&サービスについて注目してみたい。カーシェアリングは、手軽に自分の使いたい時だけクルマを使用できるというものだ。日本におけるそのパイオニアは、時間貸駐車場を運営しているタイムズ24による「タイムズカープラス」だが、最近では自動車メーカーも参入し、トヨタが24時間利用可能なカーシェアサービス「トヨタシェア」の実証実験を始め、また日産は電気自動車を使用した「e-シェアモビ」を展開している。

 これらのカーシェアは、運営会社が用意したクルマを不特定多数のユーザが利用するカーシェアリングだが、こうしたサービスとは一線を画しているのが、株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)が運営している「Anyca(エニカ)」だ。Anycaの特徴は個人間によるカーシェアリングサービスで、クルマを所有している人が、自分の使用しない時間に個人にクルマをシェアするというもの。個人がシェアに出しているから利用できる車種ラインアップが広いのが特徴で、軽自動車から高級輸入車、または年式の古いネオクラシックカーまでと多種多様だ。


 会員数20万人以上、登録台数7000台以上というこのAnycaを運営するDeNAが、2019年2月28日、いわゆる“3メガ損保”のひとつであるSOMPOホールディングスと業務提携し、個人間カーシェアリング事業の合弁会社「DeNA SOMPO Mobility」と、マイカーリース事業の合弁会社「DeNA SOMPO Carlife」という2つの会社設立に合意したというニュースが飛び込んできた。このことはいったい、何を意味するのだろうか? この疑問を解消するため、DeNAにおいて、オートモーティブ事業本部カーシェアリンググループAnyca事業責任者の立場にある馬場光氏に話を聞いた。

●カーシェアにおける「保険」を根本的に改善したい

ビジネスジャーナル編集部(以下、編集部) SOMPOホールディングスとの2社設立についての経緯と意図を教えてください。

DeNA馬場光氏(以下、DeNA馬場) DeNAは、2015年9月にAnycaのサービスを開始し、個人間カーシェアに本格参入しました。参入当初はまだ市場規模が小さかったこともあり、カーシェアリング専用の自動車保険というのは今に至るまでまだ存在しません。そこで、もともと損害保険会社が手がけておられた「1日保険」というジャンルの商品に着目し、これはCtoC(個人間)のカーシェアにはベストだと考え、Anycaではその保険を使用してきました。Anyca上で個人間のカーシェア契約が成立した場合、利用する側に強制的にこの保険に加入してもらうシステムになっており、事故などのトラブルに際しても問題ないよう備えているわけです。

 しかしこの1日保険は、本来カーシェア専用に開発された保険ではないので、利用するユーザの不安をすべて解決できるようなものではありませんでした。軽自動車から高級車まで車種によらず掛け金が一律だったり、あるいは利用者側が事故を起こしてオーナーの車両に損害を与えてしまった場合、車両保険を使うためには10万円の“免責金額”が設定されていたり……といった面ですね。

 なので、Anyca側で対応可能なトラブル時のサービス拡充などでいろいろとカバーしてきたのですが、やはり今後Anycaをさらに広く利用していただくためには、この保険の部分を根本的に改善しないとダメだとずっと思っていたのです。そこで、今回提携することになったSOMPOホールディングスさん含め、ほかの自動車保険会社に対しても、個人間カーシェア専用の保険を作ろうといろいろとアプローチしてきました。しかし、それなりの需要、規模がないと保険の監督官庁である金融庁の承認も下りませんし、“ギャンブル保険”のようないい加減な設計の保険商品など日本ではあり得ません。
しかし、そうしているうちにAnycaという事業が徐々に多くの人に知られるようになり、そのなかで同じ方向を向けるパートナーとして、SOMPOホールディングスさんが手を挙げてくださった、ということです。

●カーリースとカーシェアを“安心・安全”で結び付ける

編集部 もう一方の、「DeNA SOMPO Carlife」のほうは?

DeNA馬場 こちらでは、主にカーリース事業を行います。Anycaは、あくまでもすでに自動車を所有しているオーナーさんにAnycaのサービスに登録してもらい、その自動車を借りたいドライバーさんとオーナーさんとを結び付けるサービスです。一方「DeNA SOMPO Carlife」では、ユーザが自動車を新しく購入するかどうかというタイミングで、リースという選択肢もあることをご提案する、ということですね。

編集部 それは、DeNAがカーリースのための対面ないしウェブ上でのチャンネルを立ち上げて、それを展開していく、ということでしょうか?

DeNA馬場 いえ、イメージしているのは、自動車リースのオーガナイズを我々が手がける、という感じでしょうか。リース事業自体は、SOMPOホールディングスさんの代理店を通じて行います。SOMPOホールディングスさんに限らず一般に保険会社は、当然ながら膨大な顧客データをお持ちなわけです。SOMPOホールディングスさんに関していえば、全商品のうちの半分くらいが損害保険で、そのなかに数多くの自動車保険契約も含まれます。当然ながら、保険契約を結ぶ上で、契約者がどんな自動車にお乗りで、どのような家族構成でどんな年齢の方が主に運転されているか……といったデータを蓄積しておられるわけです。

 それらの契約者が、自動車保険の更新の際にSOMPOホールディングスさんの窓口においでになる。その際に、「こういう自動車の乗り方であれば、今後はカーリースという選択もアリではないですか?」という提案を今後はさせていただける。そして、さらに我々によってリースされたその自動車を、今度はAnyca上でカーシェアに回してもらえれば、「事実上、維持費ゼロ円でリース自動車を利用し続けることも可能だ」といった提案までできるのではないかと考えているわけです。


編集部 自動車メーカーも最近は、自動車購入の仕方として「残価設定ローン」や「個人カーリース」といったようなさまざまな選択肢を用意していますよね。コスモ石油なども最近は、ガソリンスタンドの実店舗においてカーリースを積極的に打ち出しています。

DeNA馬場 そうですね。それはやはりガソリンスタンドにおいて、自動車ユーザと実際の物理的な接点、アクセスがあるという強みがあるからだと思います。そこを我々は、SOMPOホールディングスさんの代理店で行っていこう、というわけです。保険の代理店というのは実際ものすごい数が展開されており、多くの販売員の方がかかわっておられます。そういった方々によってカーリースが提案され、メンテナンスも含めて自分のクルマの世話をしてくれるというのであれば、安心感は高まるのではないか。

 そして、個人間カーシェアリングのAnyca事業の規模もより大きくなり、安心・安全に自分のクルマをカーシェアに出せるという認識が顧客の側にできあがれば、結果としてAnycaユーザも増え、さらにユーザがクルマを所有するコストを抑えることができ、安心して好きなクルマに乗ることができる。そういう世界を目指しています。

●単独事業としては赤字だが、引き続き先行投資

編集部 今後のAnycaが行っていくサービスの具体的な展望について教えてください。これまでのAnycaサービスとはかなり違うものとなっていくのか、それともこれまでのものは継続しつつ……といった形になるのでしょうか?

DeNA馬場 おかげさまで、Anyca事業はどんどん伸びていますが、単独事業としてはまだ赤字という状況です。運営会社が変わってもAnycaの基本的なサービスは従来と変わりませんが、やはり現在の至上命題としては引き続き、先行投資して市場を取らないといけない。
基本的にカーシェアの第1戦略は、“密度ビジネス”。家の近所にシェアできる自動車が登録されていなければ、ユーザは利用したいとは思ってくれませんから。ゆえに、どれだけの台数、広い範囲でAnycaに登録された自動車を増やせるのか、そこに尽きると思っています。日本では、8000万台ともいわれる自家用車が保有されており、まだまだ伸びる余地はあるのではないかと。

 一方で、そういった“量”だけでなく、“質”の問題ですね。SOMPOホールディングスさんは、ただ「カーシェアに即した保険を提供しますよ」という提案だけでなく、やはり自動車トラブルにおける「予防」とか「事後対応」とかいったものに関しての膨大な過去データ、そしてそれに対する知見をお持ちなわけです。それらと、我々が2015年以降にAnycaサービスで蓄積してきた知見とをかけ合わせて、カーシェアリングという市場をより拡大させ、安心・安全をベースとした新しいライフスタイルを形成できればよいな、というふうに考えています。
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 ただ自動車のランニングコスト軽減のためだけにカーシェアを利用するのではなく、自動車を所有するオーナーがそのクルマのセールスマンのような気持ちになって、そのクルマに興味を抱く利用者に対してそのクルマの良さ、楽しさを伝えていくーーそんな楽しさを感じさせるAnycaの新しい理念。

 実際、「中古車としていかに高く売れるか」ではなく、「Anycaに登録した場合にいかに多くの利用者にシェアしてもらえるか」を念頭に新車を購入するAnycaユーザもいるのだという。また利用者にしても、自分が購入する予定の中古車の条件に近い自動車をAnycaでシェアしてみて“試乗”するという利用法も多く見られるのだとか。

 Anycaのようなシェアビジネスは今後、自動車業界では当たり前になっていくのかもしれない。
(文・構成=萩原文博/自動車ライター)

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