日本マクドナルドホールディングス(HD)は3月27日、東京・千代田区の東京国際フォーラムで定期株主総会を開催し、取締役に日色保氏を選任した。賛成率は97.43%だった。

株主総会後の取締役会を経て、日色氏は事業会社、日本マクドナルドの代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)に就任した。両社の社長を兼務していたサラ・カサノバ氏はマクドナルドHDの社長を続投し、マクドナルドでは空席だった会長に就いた。

 医療機器のジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)日本法人で社長を務めていた日色氏に外食業界での経験はない。日色氏を社長に選んだ理由をカサノバ氏は「人や組織の開発にスキルと経験を持つピープルリーダー」とした。

●人材の育て方をJ&Jで身につけた

 日色保氏は1965年、愛知県生まれ。88年、静岡大学人文学部法学科を卒業後、J&J日本法人に入社した。2018年4月17・24日付日本経済新聞のコラム「私の課長時代」で、日色氏は「ピープルリーダー」になった経緯を語っている。

 初任地の静岡県には営業所がなく、自宅に電話とファックスを置いて、手術用機材の営業マンとして病院を回った。当時、カテーテルや内視鏡を使って患者の負担を軽くする「低侵襲」手術が行われ始めていた。J&Jは大量採用で管理職が不足し、営業経験3年半の日色氏に白羽の矢が立った。26歳で8人の部下をもつ営業マネージャーに就いた。しかし、部下のマネジメントは、うまくいかなかったという。


<会社は経営体制の強化を目的に米国からプロジェクトマネージャーを呼び寄せました。後に私の恩人となるウディー・スタープです。(略)彼は私の世界観を変えてくれました。その上、94年に米国研修に出してくれました>(日経新聞より)

 米国研修ではマネージャーの育て方や欧米式の組織マネジメントを学んだという。帰国後、トレーニング部門を立ち上げトレーニングマネージャーとなった。しばらくして、幹部候補生として再び米国へ。1年後に帰国し、マーケティングマネージャーとなる。

 J&Jの人材登用のやり方に基づき、あらゆる部署を回り、2005年、グループ会社のオーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス社長に就き経営者を経験する。J&Jメディカルカンパニー成長戦略担当副社長を経て、12年1月、J&J日本法人社長に就任した。地方大学卒でMBA(経営学修士)も持たず、歴代最年少でグローバル企業の日本法人トップになったことで話題になった。

 社長時代に「ピープルリーダー」として実績を上げていく。日経新聞がまとめた2016年の「人を活かす会社」総合ランキングで、J&J日本法人は初の首位となった。
部長職以上は率先して連続2週間の有給休暇を取得するなど、社員のワークライフバランスに注力したことが評価された。また、雑誌「日経ウーマン」(日経BP社)による18年の「女性が活躍する会社ベスト100」で、J&J日本法人グループが初の1位に輝いた。ダイバーシテイ(人材多様性)尊重の文化を現場から根付かせ、20年に女性管理職比率30%を目指していることが評価された。

 18年9月、J&J日本法人社長を退任。同月、同じ外資系のマクドナルドHDのカサノバ社長に、マクドナルド上席執行役員チーフサポートオフィサー(CSO)として招かれた。そして19年3月27日、社長の椅子に座った。

●「夜マック」の成功

 マクドナルドHDの業績は好調だ。14年の鶏肉偽装事件による低迷からV字回復を果たした。18年12月期の連結売上高は前期比7%増の2722億円。1店舗当たりの売上高は過去最高。営業利益は32%増の250億円。純利益は繰り延べ税金資産の計上がなくなり9%減の219億円だった。
特殊要因を除くと20%強の増益になるという。

 今期に入っても好調を持続している。19年3月の既存店売上は前年同月比5.7%増。40カ月連続で前年の実績を上回った。100円追加すればハンバーガーのパティが2倍になる「夜マック」を1週間限定でランチタイムに導入したことが支持された。

 人件費や食材費が高騰する外食企業は、一律値上げで客足が遠のいた。「夜マック」は値上げを意識させずに、100円の追加料金がとれる。マーケティングが効を奏したといっていい。人手不足感が強まっている。消費者の低価格商品のニーズが強いことや10月の消費増税を控えて経営のカジ取りは難しさを増す。

 日色氏は就任会見で、J&Jで人材育成に注力したことをマクドナルドでも続けて「人への投資を積極的に進める」と抱負を語った。

 商品や技術を核に成長戦略を描く経営者は多い。
人材育成を軸に据えた経営手法で成長を加速させることができるのか。「ピープルリーダー」の手腕に注目だ。
(文=編集部)

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