回転ずしチェーン「くら寿司」で不適切な動画を撮影・投稿し営業を妨害したとして、元アルバイトら少年3人を偽計業務妨害の疑いで、大阪府警は5月29日に書類送検した。

 店員が食材の魚をごみ箱に捨てた後、その魚をまな板に戻して調理しようとする様子が映った動画がインターネット上で拡散され、世間を震撼させた。

運営会社は、問題の魚はその場で廃棄処分されており、客には提供されていないと説明しているが、その説明を額面通りに受け取ることができなかった人は少なくないだろう。そのまま魚を調理して客に提供していたかもしれないと思うとゾッとする。

 この不適切動画問題が世間を賑わせたのは2月だが、同月のくら寿司の既存店売上高は前年同月比6.2%減と大きく落ち込んだ。前月の1月こそ大きく落ち込んでいたが、18年12月と11月はそれぞれ微減にとどまっていたし、その前の17年11月~18年10月の累計が前年同期比0.7%増だったことを考えると、不適切動画問題が大きく影響したといわざるを得ない。19年2月以降も不振は続き、3月が5.3%減、4月が4.3%減と大幅マイナスが続いている。

 くら寿司で不適切動画問題が起きた1月下旬から2月にかけては、飲食チェーンやコンビニエンスストアでアルバイト従業員による同様の問題が頻発し、「バイトテロ」などと呼ばれて問題化していた。

 飲食チェーンでは、牛丼チェーン「すき家」で調理器具のおたまを股間にあてがう動画、中華料理チェーン「バーミヤン」で調理中の鍋から上がった炎で口にくわえたタバコに火をつける動画、定食チェーン「大戸屋ごはん処」で配膳用のトレーで裸の下半身を覆う動画が拡散した。

 コンビニでは、「セブン-イレブン」でおでんのしらたきを口に入れて吐き出す動画、「ファミリーマート」で会計中の商品をなめる動画が拡散した。

 どれも不快だが、筆者の感覚ではくら寿司の動画がとりわけ不快に感じられた。多くの人がそう感じたのではないか。

 いずれにせよ、くら寿司は大幅な減収となったわけだが、不快の程度からか、バイトテロが起きたチェーンでくら寿司ほど既存店売上高が落ち込んだところはない。いずれのチェーンも2月が焦点となるが、大戸屋が前年同月比2.8%減と落ち込んだが、すき家は3.0%増、セブンは0.9%増、ファミマは1.5%増と前年超えのチェーンも多く、くら寿司の落ち込みが際立っている(バーミヤンは未公表)。


●イメージ管理に失敗したくら寿司

 くら寿司はこのバイトテロ騒動でイメージが悪化し、業績も合わせて悪化している。このことからもわかるが、同社はイメージの管理や従業員教育の面において適切な対応ができていなかったといわざるを得ない。

 くら寿司で起きた今回のバイトテロは、問題を起こした従業員の問題でもあるが、それ以上に同社の教育力の問題といえる。日頃から適切な従業員教育ができていれば、今回のバイトテロは起きなかったはずだ。従業員に問題があるとしても、そのような人物を採用した側にも責任がある。いずれにせよ、そういったことがイメージの低下につながり、それが業績悪化にもつながることを強く認識しておくべきだったといえるだろう。

 同様のことは、ほかにもある。2010年に起きた「内定取り消し騒動」がそうだ。同社の入社前研修で社訓を35秒ほどで言えなかった内定者に入社辞退を求め、内定辞退者の1人がくら寿司と裁判で争ったと毎日放送が報じ、のちにTBSもこのことをテレビ番組で紹介、それに対してくら寿司が反論するという騒動が起きた。

 事の真相は不明だ。だが、もし報道されたことが事実であるとすれば、くら寿司は採用した責任があり、入社前研修をもって辞めさせるのではなく、一定期間はしっかりと責任を持って教育するべきだったと非難されてしかるべきだろう。社訓を35秒ほどで言えない程度のことで教育をあきらめるというのは安易な考えで、同社の教育に対する姿勢に疑問を持たざるを得ない。


 報道が事実でないとしても、こういった騒動が起きてしまえば、事の真相にかかわらずイメージが悪化してしまうことは、事前に強く認識しておくべきだった。このような騒動を起こすような企業に就職したいと思う人はいないだろうし、そのような企業の店を利用したくないと思う消費者は少なくないはずだ。イメージ悪化は客離れにつながるので、イメージが悪化しないように事を穏便に済ませるべきだったのではないか。

 イメージ管理という点では「無添」騒動もそうだ。16年3月、ネット上の掲示板に、ひとりの匿名ユーザーが、屋号の「無添くら寿司」について「無添くらなどと標榜するが、何が無添なのか書かれていない。イカサマくさい。自分に都合のいいことしか書かれていない」と書き込んだところ、それに対してくら寿司が「社会的評価が低下し、株価に影響を与えかねない」としてプロバイダー業者に書き込みをした人物の個人情報の開示を要求したが、プロバイダー業者は「書き込みは意見・論評にすぎない上に真実だ」として開示を拒否、くら寿司がプロバイダー業者に開示を求めて東京地裁に訴訟を起こすという騒動が起きた。

 東京地裁は17年4月に「書き込みはくらコーポレーション(現くら寿司)の社会的評価を低下させるものではない。仮に低下がありうるとしても、書き込みには公益性があるため違法性はない」とし、くら寿司の訴えを退けた。また、「くらコーポレーションは4大添加物(化学調味料・人工甘味料・合成着色料・人工保存料)以外の添加物の使用の有無はホームページなどで表示しておらず、書き込みは重要な部分で真実だ」と東京地裁は断じている。

 これはメディアによって大きく報じられた。それにより、4大添加物以外の添加物がくら寿司で使われている可能性があるということが世間に知れ渡ることになった。
騒動化したこともあり、くら寿司のイメージは大きく悪化した。

 この騒動を機にくら寿司では客離れが目立つようになった。騒動前の14年11月~15年10月の既存店客数は前年同期比0.8%増とプラス、続く15年11月~16年4月も1.4%増とプラスで推移していたが、「イカサマくさい」との書き込みがあった後の16年5~10月は0.1%増にとどまり、判決が出た17年4月を含む16年11月~17年10月は1.6%減と一転してマイナスになってしまった。

●アニサキス騒動、くら寿司とスシローの違い

 もちろん、無添騒動以外の要因も影響しただろう。たとえば、魚介類を食べて寄生虫「アニサキス」による食中毒にかかったとの著名人による被害報告が17年に入って相次いだことが挙げられる。特に芸人の渡辺直美さんが同年4月にアニサキスによる食中毒にかかったとツイッターに投稿した影響も大きいだろう。以後、アニサキスに関する著名人の言及や報道が相次ぎ、世間に広く知れ渡るようになった。これにより、回転ずしチェーンが敬遠されるようになった面はある。

 競合の回転ずしチェーン「スシロー」の既存店客数の推移を見てみるとわかりやすい。16年10月~17年3月は前年同期比0.2%増と前年を上回ったが、続く17年4~9月は2.5%減と一転してマイナスとなった。アニサキス騒動が影響したとみられる。

 だが、その後の17年10月~18年3月は横ばいとなっており、アニサキス騒動の影響は感じられない。
さらに、続く18年4~9月が3.8%増となるなど、その後は好調が続いている。アニサキス騒動の影響は一時的なものだったといえるだろう。

 一方、くら寿司ではアニサキス騒動が沈静化した後も客離れが続いた。騒動前の15年11月~16年10月の客数は前期比0.8%増と、わずかながらもプラスだった。続く16年11月~17年4月は0.5%減だった。そして、アニサキス騒動が直撃した17年5~10月は2.7%減とマイナス幅は拡大した。

 問題なのは、スシローとは違い、その後も客離れが続いたことだ。17年11月~18年10月が2.0%減とマイナスだった。さらに、続く18年11月~19年4月は4.4%減となっている。アニサキス騒動以外の問題が影響したことがうかがえる。

 アニサキス騒動がひと段落した後もくら寿司で客離れが続いたのは、イメージが低下していたことが大きいだろう。無添騒動でイメージが悪化して客離れにつながり、そして不適切動画が追い打ちをかけたのではないか。


 昨今はSNSによって情報が瞬時に広がる時代だ。それにより、イメージの良し悪しが、いとも簡単に変わってしまう時代にもなった。イメージの悪化は客離れにつながる。SNSの発達が続くなか、イメージ管理の重要性は日を追うごとに増しているといえる。くら寿司で起きた「バイトテロ騒動」「無添騒動」「内定取り消し騒動」がそのことをよく表しているといえるだろう。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

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