拳銃を携え無法の西部を旅する無頼の牧師ジュビダイア・メーサー。彼の行動原理は神への献身でも福音宣教でもなく、魔物たちの殲滅だ。

ひたすら狩りまくる。

「キング・オブ・パルプ」と異名を取るランズデールの連作集。西部劇とホラーをみごとに融合し、密造酒のごとき荒々しさで差しだす。この作家の心意気は、序文「牧師の旅は果てしなく、果てしなく続く」でうかがえる。



 この本にあらためて収録するにあたり、できるかぎり不必要なセミコロンは外し、登場人物にはつぶやかせたりせず、「彼は言った」「彼女は言った」というふうに戻した。パルプ小説にも他の小説と同じように良い文章と悪い文章があって、「言った」のかわりに他の言葉を入れると、ごたついてすっきりしなくなる。



 収録されている作品は五篇。巻頭を飾る「死屍(しかばね)の町」では、主人公ジェビダイアは、まだそれなりに信仰心を残している若者だ。物語はジョージ・A・ロメロ『ゾンビ』をそのまま1870年代のテキサスへ移植した展開。生ける屍に追いつめられ、残り少ない生存者が必死の抵抗をする。いくつかの人間関係がアクセントになっているが、ランズデールはそれをダラダラと引き延ばさない。ジェビダイアと情緒的なつながりを持ち、終わりのほうまで出番がありそうに思えた登場人物が、あっけなく殺されたりする。

描写も素っ気ない。そう、ここには特別な死などないのだ。人はただ死ぬ。

 これにつづく「死人街道」では、ジェビダイアは老いて白髪まじりになり、敬虔さのかけらもなくなっている。



 神の御使いになることなど、悪人のジェビダイアは望んでもいなかったが、その役目を負ったのは己(おの)が罪ゆえにであり、すでにそれは捨ても逃れもできない使命になっていた。それは神の呪いで、放棄すれば地獄で業火に焼かれるので、自分の意思にかかわりなく、主の定めたままに従うほかなかった。

主は寛容ではなく、報いるに愛をもってすることはない。服従と隷属には屈辱をもって報いた。神はそのために人類を創造した。そう、玩具だ。



 そんな殺伐たる心境で、憑かれたように殲滅すべき魔物を追い求める。まさに人生の荒野だ。

 ジェビダイアの前にあらわれる魔物も凄まじい。動きまわる腐乱死体で、身中におびただしい蜂が巣くっている。生前はギメットという名の男で、殺人や強姦を平然とおこなっていた。娘を嬲り殺されたインディアンの母親が、自分の命と引き換えの呪術でギメットを魔物に変えたのだ。

 非常にデリケートな問題にかかわりそうな設定だが、ランズデールは過去の西部という異質の世界観とパルプ小説のモードをトップギアに入れて駆けぬける。

 ほかの三篇、「亡霊ホテル」「凶兆の空」「人喰い坑道」も、舞台となる場所や魔物の来歴・能力はそれぞれだが、躊躇も容赦もないストーリーテリングは変わらない。

そして、ジュビダイアの孤独もまた。

(牧眞司)