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Text by SYO
Text by 服部桃子
Text by 上村窓



「終わりたいわけではない。でも、終われない」——大きな絶望があるわけではない。

けれど、どこか停滞したまま日常が続いていく。そんな時代の空気をコンビニという舞台で描いた映画『チルド』が、7月17日に公開される。



『第76回ベルリン国際映画祭』フォーラム部門で、「現代日本の若者が抱えるリアルなプレッシャーとそれに対峙する姿を、鋭い風刺で描かれた点」が評価され、FIPRESCI賞(国際映画批評家連盟賞)を受賞した『チルド』。人間の内面に潜む不安・停滞・逸脱を静謐かつ鋭くとらえた本作は、「怖いのは人間ではなくシステムそのもの」という視点で、ジャンルホラーを社会批評へと反転させてみせる。



本インタビューでは、主人公・堺を演じた染谷将太、新人アルバイト・小河役の唐田えりか、そして自身も「コンビニ店長のせがれ」だと語る岩崎裕介監督の3名が集結。撮影現場の空気から、本作が現代社会へ投げかける問いまでを語り合った。



染谷将太×唐田えりか×岩崎裕介が語る同時代性。ベルリンが認めた社会批評ホラー『チルド』

左から、岩崎裕介監督、染谷将太、唐田えりか



—『チルド』は思考停止状態のまま日常が漫然と続いていく恐怖、システムに取り込まれていく恐怖を描いた作品だと感じました。染谷さん・唐田さんは本作の「恐怖」をどう見ましたか?



染谷将太(以下、染谷):自分のなかでは、恐怖の対象はオーナーかと思います。と同時に、あの大きな恐怖を目の前にした堺が平穏を保てていることに「最強だなこいつ」とも感じました。恐ろしいことでもありますが、恐怖に干渉せずにそこにい続けられること、それしかできないことをやり続けながら自分を保てる彼は、生き物として絶対的に強いなと。オーナーのように暴れている人に対する恐怖と、そことの距離をうまく取っている人に対する恐怖をダブルで感じられて面白かったです。



染谷将太×唐田えりか×岩崎裕介が語る同時代性。ベルリンが認めた社会批評ホラー『チルド』



唐田えりか(以下、唐田):私も同じ気持ちです。

かつ、何が起こるのかわからないのが日常だと思いますが、まさにそんなことが潜んでいる作品でした。



—岩崎監督は脚本執筆が最も大変だったとおっしゃっていましたが、具体的に何に苦労されたのでしょう?



岩崎:やりたくないことが多かったんですよね。僕自身ホラーがめちゃくちゃ好きで大量に観ていますが、生理的な恐怖にあまり魅力を感じられないのです。そうではなく「こういう摂理があって、その影響を受けて人が崩壊していく」という論理的な恐怖をやりたいと考えていました。



また、「結局怖いのは人間だ」という結論はよくあると思いますが、それにも懐疑的で。『チルド』にもその要素はありますが、一人の人間というより「システムそのものが怖い」ことを表現したかったんです。それと、物語における起承転結——主人公が何か変化して再出発しようとするが失敗して——という映画のセオリーに対しても「人生ってそんなに劇的に変わらないだろう」と思っていて。



映画が好きすぎるあまり、あれもやりたくない、これもやりたくない状態になってしまいました。でも、そうした方法論が流通しているのは、有効だからなんですよね。その手札を切らないことがこんなに難しいのか、と苦心しながら脚本執筆をした覚えがあります。



あとは僕自身、親がコンビニのオーナーをしていて。 実体験を乗せながらも自分の「辛かった過去」を供養したいから作っているわけじゃない、面白いものを作りたいからなんだという想いをどう反映させていくかにも腐心しました。



また、僕はベルリン国際映画祭で、 「24時間営業しているコンビニは、生きているのか、死んでいるのかわからない人間が交差する 場所」とお話しました。映画でもそれを描写していますが、 あくまで社会の縮図のひとつとしてコンビニをテーマに描いているつもりで、どこかしらや誰かしらに偏って筆圧が強くならないよう注意することにエネルギーを割きました。



染谷将太×唐田えりか×岩崎裕介が語る同時代性。ベルリンが認めた社会批評ホラー『チルド』



—本作に漂うムードに、同時代性を感じる方も多いかと思います。いまの時代や日常が纏っている空気感といいますか。これらは意識されたものだったのでしょうか?



岩崎:書いているときは意識していなかったのですが、実はこのかたちに落ち着くまで2つプロットがありました。3つ目に決まったのは、やはり時代性が大きかったのかなと思います。あえて言語化するとしたら、それはきっと「終わることができない、続いてしまうつらさ」。



作中では殺人も自死もキャラクター自身が意志を持ってやり遂げていますが、それもできない「満ちている」状態の人はこの世の中に結構いるのではないかと思います。満ちているといっても1ではなく0といいますか、「なんかちょっと違うけどマイナスではないし充分か、まぁこんなもんかな」くらいの空気感はたしかに時代とマッチしているように感じます。



僕もCMの分野で賞をいただいたり、憧れていた仕事をできたりはしてきましたが、妙にピンとこない感じがあって。そしてきっと、その感覚を抱いている人はいまの時代に少なくないようにも思うんです。そういった部分で『チルド』に共感していただけるのかもしれません。



染谷:わかります。僕は岩崎監督とほぼ同年代ですし、「それ以上も以下もない」という感覚は、自分が生まれ育ってきた時代にとても感じます。でも、諦めや無情じゃないんですよね。はじめて台本をいただいたときに「この人は信用できる」と思った理由は、そこでした。無の先は空(くう)というらしいのですが、その境地にとても近いなと共感してしまいました。



—染谷さん・唐田さんが演じられたキャラクターは、書き進めていくなかで変化などありましたか?



岩崎:堺においては大きな変動はなく、小河は結構変わっていきました。堺は僕自身でもありますが、別にいまの生活で楽しいし何の問題もないという人物のため、行動を起こす必然性がないんです。彼が物語に貢献しなさすぎるから、小河がどんどん精神的主人公として物語をドライブさせていく存在になっていきました。最初はもっと気弱で脆弱な自我の持ち主だったんですけどね。



そういった意味では構造ありきのキャラクターでしたが、そこは唐田えりかさんなので、彼女が演じた瞬間にきっちりと像を結んで存在感のある人物になっていきました。感謝しています。



染谷:脚本を読ませていただいたとき、何もしないことをしようとしている主人公がとても新しく感じて、面白かったです。

岩崎監督とはお会いする前でしたが、読んだときに「この人とは価値観が合うに違いない」と感じられました。



唐田:私は岩崎さんとプライベートで一度お会いしたことがありますが、今回は岩崎さんの作品と知らずに脚本を読み、面白さに興奮しました。読み終えたあとで岩崎さんが書かれたと知り、「あのときお会いしたあの方はこんな考え方を持っていたのか!」とバチッとご本人の像とつながりました。脚本の時点で絶対面白いことがどんどん起こっていくだろうなとワクワクさせてくれる作品でした。



染谷将太×唐田えりか×岩崎裕介が語る同時代性。ベルリンが認めた社会批評ホラー『チルド』



—最初から皆さんの相性が良かったのですね。



岩崎:おふたりがベストと思ってキャスティングしていますし、衣装合わせと企画説明をさせていただいたときには内容のインプットは完了していたので撮影現場でディスカッションすることはありませんでした。実際問題、撮影が6日間しかなかったので悠長にセッションするというよりもう戦(いくさ)状態で。染谷さんも唐田さんもこれというNGはなく、スムーズに演じて下さいました。



一つあるとしたら、西村まさ彦さん演じるオーナーの「捨てといて」とか「机拭く紙のやつ、なくなりそうだから補充しといてください」というセリフが唐田さんのツボにハマって爆笑していたくらいです。



—撮影期間が1週間弱なのは相当タイトなスケジュールですよね。スタートからキャスト・スタッフの連携がないと乗り切れないようにも思います。



岩崎:そうなんですよ。

スタッフはいつも一緒に動いているチームなので揉めることはなく、もし停滞してしまうとしたらお芝居のほうだと考えていました。でも、そこが滞りなく進行できたので不測の事態もなくポンポンポンと最後まで到達できました。



僕自身が昔芝居をやっていたこともあり、かなり具体的なイメージがある状態で書くタイプではありますが、自分が全部決めちゃうと想定内のものしかできませんよね。そのため芝居においても演出しすぎないようにしようと努めていましたが、第一線で俳優をされている方々は「うわ、そっちか、たしかに」と思わせてくれるクリティカルヒットをどんどん出してくれて嬉しかったです。ものすごく勉強になり、自分自身の幅も広げていただいた気持ちです。



染谷:岩崎監督は現場で実際に演じてみせて下さるのですが、それがとても面白いんです。それをいただいた状態でただ立てば成立するような演出をしてくれていました。かつ、現場では本当に皆の士気を上げ続けていましたね。



染谷将太×唐田えりか×岩崎裕介が語る同時代性。ベルリンが認めた社会批評ホラー『チルド』



—お話をうかがっていても皆さんのツーカー具合が伝わってきますが、お好きな作品なども共通するのでしょうか。



岩崎:僕はロイ・アンダーソン(『さよなら、人類』ほか)やジャック・タチ(『ぼくの伯父さん』ほか)の影響を受けていて、高校時代に出会った山下敦弘監督の『リアリズムの宿』が生涯ベスト級に好きです。



染谷:僕も好きですし、今回の撮影方式が作品にぴったり合っていて、撮られる側としても心地よかったです。カメラが近くにいても遠くに感じるような冷たい撮り方をされていて、良い意味で突き放されるような、寄りのカットでもポツンと取り残されている感覚になりました。



—本作はFIX(固定)をメインにする撮影方式を多用されていて、画面の隅々まで見ることができました。特にバックヤードのシーンは、監視カメラごしに私たちが観ているような気持ちにもなりました。



岩崎:監視カメラっぽさは意識したところです。そもそも、僕自身が作家として演出とカメラがあまり前に出るべきじゃないというマインドが影響しているとも思います。カメラマンの存在を意識せずに演じるのがプロかと思いますが、とはいえ存在そのものがノイズとして生じるだろうな、とも思ってしまうのです。



唐田:撮影時はカメラを意識していなかったので、いまおふたりのお話をうかがってそうだったんだ、という気持ちです。



染谷:でも、ファミレスのシーンだけ距離感やとらえ方、切り取り方を変えていますよね。僕自身もぬくもりを感じましたし、完全にモードを切り替えていて驚きました。



染谷将太×唐田えりか×岩崎裕介が語る同時代性。ベルリンが認めた社会批評ホラー『チルド』



—コンビニのレジに佇む堺を見つめるファーストカットから、何も説明がないのに人物のバックボーンが匂い立ってくる感覚になりました。人物設定など、監督はキャストへ事前に共有されていたのでしょうか。



岩崎:設定はありますが、やりすぎないほうが良いと思い口頭で伝える程度に留めました。今回は「ヒューマニティをいかにはく奪するか」が肝でしたから。伝えているとしたら「高校からずっとこのコンビニでバイトしていて、それ以外と交流がない人です」といったくらいでしょうか。



—唐田さんは先ほどお話にあったように、精神的主人公という存在です。作品の世界観と相反する存在とも感じますが、どのようなスタンスで現場に臨まれたのでしょうか。



唐田:とにかく対面した人のことを見ていようと思っていました。見て感じたことを感じたままにやろう、と。「この人に自分の言葉は伝わっているのか?」「どう言ったら伝わるんだろう?」と探りながら芝居をしているときもありました。そうした疑問や違和感を抱えながら演じている時間が多かったように思います。



染谷将太×唐田えりか×岩崎裕介が語る同時代性。ベルリンが認めた社会批評ホラー『チルド』



岩崎:大体みんな死んでいるから、一生懸命伝えても何にも返ってこないんですよね。会話が成立しないんです。フィナンシェのくだりくらいですよね、会話しているのは。



—でも、ルーティン化されたり、自動化されたりしているからなんとかなるという。



岩崎:でも、唐田さんはセルフレジを使わない派だからそうなってほしくはないんでしょ?



唐田:そうなんですよね。



染谷:僕と岩崎監督は便利だからセルフレジを使う派。唐田さんは人と接したいから有人レジ派だそうなんです。



—その選択にも、それぞれが日常や他者との距離をどう考えているかが表れているのかもしれません。



唐田:たしかに、心を交わさなくても生きていける瞬間が日常のなかに実際にあります。『チルド』は、その延長線上にある作品なのかもしれませんね。



染谷将太×唐田えりか×岩崎裕介が語る同時代性。ベルリンが認めた社会批評ホラー『チルド』

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