●『多重露光』で演じるカメラマン役に共感
「舞台は一番自分らしくいられる居心地のいい場所」。そう語る俳優の稲垣吾郎の新たな主演舞台『多重露光』が10月6日~22日に東京・日本青年館ホールにて上演されることが先日発表された。
この舞台で「見たことない自分に出会えるような予感がしている」と期待を寄せている稲垣にインタビューし、演じる主人公への共感や舞台の魅力を聞くとともに、49歳の今の思いや最近の変化、さらに草なぎ剛と香取慎吾という仲間の存在の大切さなど語ってもらった。

○■40代後半になっても解決できてないことや悩みはある

劇作家・横山拓也氏が脚本を手掛け、読売演劇大賞演出家賞を受賞の眞鍋卓嗣氏が演出を務める『多重露光』は、町の写真館を細々と営むカメラマンの物語。写真館の2代目店主・山田純九郎(やまだ・すみくろう)を稲垣が演じる。

ABEMA『7.2 新しい別の窓』に出演した際、カメラを150台持ち、自宅に暗室があると明かしていた稲垣。『多重露光』への出演が決定した際、「僕は最近、写真に興味を持っています。オフでも身近にカメラのある生活をしているので、この企画を伺い、『多重露光』という作品に縁を感じました」とコメントしていた。


年齢は稲垣と同世代。戦場カメラマンだった父には会ったことがなく、町の写真館の店主として人気のあった母からは理不尽な期待を背負わされていた純九郎は、家族の言葉に苦しみ、家族の愛に飢えている人物だが、稲垣は「これぐらいの年齢になっても、解決できていないことは誰しもあると思う」と語る。

「若い頃は、40代後半にもなったら達観していて、安心感を持って生きているだろうと思っていたけど、人生そううまくいかないもので、純九郎とテーマは違いますが自分の中にもまだまだ解決できてないことや悩みはあります。言えないですけど(笑)」

だからこそ純九郎に共感する部分があるようで、「40代後半になっても悩みがあるというのは同じなので、自分の内側にあるものと向き合いながらキャラクターを作っていくことができる気がしています」と、自分の感情を生かして役作りするつもりだ。

悩みはあるとはいえ、自身の人生について「とても穏やかでとても満たされた幸せな人生を過ごせていて、いい時間を積み重ねられていると思います」と満足している。

○■スローワークに変わり、冷静に自分のことが見えるように

年齢を重ねてきての変化を尋ねると、「以前はスピードがあって刺激のある、本当にめくるめく時間を過ごしてきましたが、もう少しゆったりと向き合えるスローライフというか、スローワークに変わってきて、冷静に自分のことが見えるようになったと思います」と答えた。


そして、自分と向き合う中で「まだやっていないことがたくさんある」という気づきがあったという。

「例えば僕は、まだそんなに世界を知らないなと。そこまで海外に行ってきたわけではないので、異文化や違う人種など、世界で見てきたものは少ないと思いました。この間共演した若い俳優さんが、語学に自信がないのに1人でインドに旅行に行ってきたというのを聞くと、自分はそんなことしてないなと思ったり。年々時間が過ぎていくのが早く感じるので、まだ会ってない人や体験したことがないこと、行ったことない場所、そういったものに対してもう少し貪欲になりたいと思うようになりました」

さらに、「僕らの年齢だと、子供がいると違うと思う。それによって新しい風が吹き、知らない世界に出会ったり、自分も若返ったり。
だからといって家族が欲しいとか、子供が欲しいという具体的なことではないですが、せっかく昔よりは余裕があるので、もうちょっと貪欲に何かしていけたら。そういう欲が出てきました」と話した。

とはいえ、「今抱えているもので十分満たされていて、幸せだなと感じている自分もいます」と自己分析。「満たされている」「幸せ」と繰り返し口にする稲垣だが、そう思うようにしようという意識もあるという。

「もちろん本当にそう思っていますが、言霊というか、口に出すことは大事だと思うので、自分は満たされていると思うようにしています。自己肯定感は昔から高いですが、よりその大切さを感じるように。
やらされていると思ったらどんなこともつまらなくなりますし、何でも自分の考え方次第で変わってくる。だからこそ常に前向きでいたいと思います」

居心地がいいと感じる舞台の魅力を語る

○■人と時間を共有できるし、1人にもなれるというのが好き

今年4月に行われた『サンソン -ルイ16世の首を刎ねた男-』の取材会で、舞台について「一番自分らしくいられる場所」「とても素直に自由でいられる、自分の場所」と表現していた稲垣。それぐらい舞台は大切なものになっていると言い、「やっていないときは舞台のことは忘れてほかのことに切り替えていますが、始まるとやはり居心地のいい場所だなと感じます」と語る。

そして、そう感じる舞台の魅力について、「人と時間を共有できるし、1人にもなれるというのが好きなのだと思います」と説明する。

「僕は人と時間を共有したり、人と一緒にいることがすごく好きだけれど、1人の時間も大事。舞台は大勢の人たちと時間を共有できるのに、どこか孤独でもある。
芝居は相手がいても、やはり1人で立ち向かわないといけないので。自分の表現をしながら共演者やお客さんと時間を共有でき、その両方が味わえるから好きなのかなと思います」

舞台に限らずそういうものが好きだそうで、「スポーツだとゴルフがすごく好きですね。キャディさんや同伴競技者もいるけど、最終的にはやはり自分1人。舞台はそんな感覚に近いのだと思います」と語った。
○■草なぎ&香取から常に刺激「ずっと近くにいてもらいたい」

『No.9 -不滅の旋律-』ではベートーヴェンに扮し、『サンソン -ルイ16世の首を刎ねた男-』では死刑執行人を熱演、『恋のすべて』では大人の恋を表現するなど、舞台でさまざまな人物を演じてきた稲垣。今回の『多重露光』も新たな挑戦になるという。


「父と子の関係などを描く家族の話で、僕はこういったヒューマンを描いた家族の話は舞台であまりやったことがない。登場人物も限られていて、スケール感も含めて今までにないなと思っています。映像的な作品でもあるので、横山さんの脚本を演出の眞鍋さんがどう作っていってくれるのか、すごく楽しみです」

共演には、純九郎が憧れていた一家の“お嬢様”であった麗華役の真飛聖、町の写真館の店主として人気のあった純九郎の母役の石橋けい、戦場カメラマンだった父役の相島一之らが名を連ねる。

「真飛さんは何度も共演していますし、相島さんもご一緒したことがあります。初めての方もいらっしゃいますが、このメンバーでしかできない舞台、そういう空間が生まれるのではないかなと思っています」

この舞台で「見たことない自分に出会えるような予感がしている」と新たな挑戦に期待感を高めている稲垣だが、新しい地図としてともに活動している草なぎ剛と香取慎吾もさまざまな挑戦を続けており、2人の活躍について「刺激になっています」と語る。

「僕はずっとグループでやってきて、今はメンバーという言い方はしないのかもしれませんが、すぐ隣に一緒に仕事している仲間の存在を感じながらずっとやってきていて、そういう癖がついているんですよね。1人で生きていけないわけではないけれど、やはり仲間がいることによって自分自身を見ることができるので、本当に大きな存在として常に刺激になっています」と述べ、「これからもそういう存在としてずっと近くにいてもらいたいです」と2人への思いを語っていた。

■稲垣吾郎
1973年12月8日生まれ、東京都出身。1991年CDデビュー。2017年9月に稲垣吾郎、香取慎吾と「新しい地図」を立ち上げた。映画『十三人の刺客』(10)の演技で第23回日刊スポーツ映画大賞・助演男優賞、第65回毎日映画コンクール男優助演賞、映画『半世界』(19)にて第31回東京国際映画祭で観客賞、第34回高崎映画祭で最優秀主演男優賞を受賞。映画『窓辺にて』(22)でも第35回東京国際映画祭を受賞した。そのほか近年は、映画『海辺の映画館─キネマの玉手箱』(20)、『ばるぼら』(20)、ドラマ『きれいのくに』(21)、『風よ あらしよ』(22)、舞台『No.9─不滅の旋律─』(15・18・20~21)、『サンソン─ルイ16世の首を刎ねた男─』(21・23)、『恋のすべて』(22)などに出演。また、『7.2新しい別の窓』(ABEMA)、『ワルイコあつまれ』(NHK Eテレ)などにレギュラー出演中。映画『正欲』が11月10日公開予定。