開業資金の融資を受けたい方で、自己資金がないことが気になる方も多いでしょう。かつては一定の資金が求められるケースが多く見られましたが、現在は自己資金がなくても借りられる制度も多く見られます。
本記事では資金なしで申し込める融資制度、融資を受けるための重要ポイントについて解説します。

公庫の「新規開業資金」自己資金要件撤廃の真実

開業資金を融資してもらうため、多くの方が利用するのが日本政策金融公庫です。こちらの「新創業融資制度」の制度がリニューアルされ、自己資金1/10という縛りがなくなりました。

なぜ門戸を広げたのか、それは スタートアップ支援と経済活性化への期待と考えられます。ただし、注意点として 「要件がない」=「誰でも借りられる」ではありません。
自己資金なしでも申し込める融資制度

資金なしでも申し込み可能な融資制度を紹介します。
○【公庫】新規開業・スタートアップ支援資金

日本政策金融公庫が運営する、新規で事業を開始する方を支援するための融資制度です。新たに事業を始める方、事業開始からおおむね7年以内の方が対象となっています。

融資限度額は最大7,200万円で、返済期間は設備資金の場合が20年以内、運転資金では10年以内となっています。

日本政策金融公庫は金融機関より低利子で融資を受けられるのがメリットですが、女性・若者/シニア起業家に該当する場合、通常よりさらに低金利が適用されます。
○【公庫】生活衛生新企業育成資金(特例貸付)

生活衛生関連の事業を創業する方を対象にした制度です。具体的にはクリーニング、美容業や飲食業などが対象となっています。


融資限度額は、一般の場合は設備資金が8,700万円~4億9,500万円です。振興計画認定組合の組合員の方の場合、さらに限度額が高くなります。
○地方自治体・金融機関・信用保証協会の「制度融資」

制度融資とは、中小企業や個人事業主が低金利で融資を受けられるよう、3つの団体が連携して運営している制度です。自治体が制度を準備し、信用保証協会が保証をしたうえで、金融機関が融資を実行する流れです。

金融公庫と同じく、一般的なプロパー融資より低金利で、長期の借り入れもしやすいです。さらに、一部の自治体では利子や保証料を補助する仕組みもあり、実質的な負担がさらに減るメリットも。

3者の審査があるため、時間はややかかりますが、自己資金なしで融資を受けられる制度として魅力的な選択肢といえます。

東京都の場合、公式ホームページの中小企業支援のコーナーに情報が掲載されています。お住まいの地域の自治体のホームページを調べてみましょう。
それでも「自己資金」が重要視される3つの理由

資金なしで融資を受けることは可能ですが、現実的にはやはり自己資金はいくらか用意したほうが良いです。その理由は主に3つあります。
○信用を得られるから

コツコツ貯めた自己資金は、準備そのものが信用になります。
この経営者は着実に準備できる人物だとみなされ、融資を受けやすくなります。
○生存率が高まるから

事業資金の全額を借り入れするよりも、いくらかを自己資金として用意したほうが、ビジネスでの生存率は高くなります。全額借入をすると、初月から返済プレッシャーの重荷を背負うことになります。
○金利の優遇を受けられるから

自己資金があることで、有利な条件で融資を受けやすくなります。資金なしの場合よりも低い金利が適用され、返済の負担が軽くなります。
自己資金として認められるもの

手元にある現金・預金が少なくても、自己資金として認められるケースが複数あります。
○現物資産

不動産や車・機械などは、現物資産として申告すると自己資金として扱えるケースがあります。現物資産も寺領に利用可能な資産とみなせるため、自己資金となるのです。

現物資産の評価額は、時価相場の価格です。購入時の価格ではないことに注意しましょう。
○家族・親族からの贈与

家族や親族から贈与されたものは、自己資金として扱えます。家族・親族から借り入れたお金は自己資金とはできませんが、贈与であれば自己資金に含められます。


贈与された財産を自己資金に含める場合、出所を説明できるようにする必要があります。贈与契約書などを用意しておきましょう。
○自己資金として認められないものにも注意

一方で、自己資金に含められない資産もチェックしておきましょう。

融資直前の大きな入金
返済義務のある借入金
タンス預金

融資直前に多額のお金が一括で入金されていると、「見せ金」と判断されるケースが多いです。この場合、自己資金として認められません。

借入金は本人が所有するお金とはみなされないため、自己資金として扱うことができません。

タンス預金は通帳に記帳されず、金融機関を経由していない現金です。出所が不明なため、自己資金には含められない場合がありますので、必ず金融機関に預けて記録を残しましょう。
自己資金なしで融資を受けるポイント

自己資金なしというハンデがありながらも、融資を受けたい場合に重要なポイントを解説します。
○質の高い事業計画書を提出する

公庫の融資制度でも、自治体が行う制度融資でも、事業計画書の提出が求められます。事業計画の説得力が高いほど、融資の審査で有利になる傾向です。

事業計画書の質を高めるには、次のような点が重要になります。


市場のニーズ
競合の調査
ターゲットとする顧客像
提供する商品・サービスの特徴
顧客にとって受容性のある価格設定
他社との差別化
売上・返済の計画

○業界経験・スキルの「深さ」をアピールする

現在や過去に働いた業種と同業で独立・開業する場合、経験に基づいたアピールが効果的です。培った専門性・スキルを積極的にアピールしましょう。

業界での実績、保有資格、顧客・関連先とのネットワークも、事業成功につながる重要な要素です。
○確実な「売上見込み(エビデンス)」を提示する

融資を申し込む時点ですでに決定している契約、大口の取引先がある場合、積極的に明示しましょう。実現可能な売上見込みを提示すると、返済能力があるとみなされ、審査で有利に働きます。
自己資金なしで融資を受けるときに気を付けたいこと

自己資金なしの融資には、次のような要注意点もあります。
○金額の制限が厳しい

自己資金なしの場合、融資される額が希望より減らされる可能性が高いです。通常の融資では自己資金の3倍~4倍程度が目安とされるため、ゼロの場合は融資額が少なくなる可能性があります。
○金利や条件で不利になりやすい

自己資金がない場合、借りる条件もやや不利になります。通常よりも金利が高くなったり、返済期間が短く設定されたりするケースがあるため、返済できるかどうかを慎重に判断しましょう。

また、場合によっては担保や保証人を用意するよう求められることもあります。
○返済負担は重い

自己資金がない分、返済する資金は売上などから用意しなくてはなりません。
ビジネスが軌道に乗るまでは、返済負担が重くなる可能性があります。

公庫の融資などでは、返済の猶予期間を設定してもらえるケースもあります。半年や1年などは返済する必要がないため、資金繰りが楽になります。
融資以外で開業資金を調達する方法

資金調達には、融資以外にもさまざまな方法があります。利用できるものを探してみましょう。
○助成金・補助金

国や地方自治体では、融資以外も中小企業・個人事業主を支援する制度が多数あります。助成金や補助金の制度は、融資と違って返済不要なため、積極的に利用する価値があります。

ただし融資と比較して、審査が厳しくなる点に注意が必要です。事業計画が甘いなど、支援先として相応しくないと判断されると審査落ちになります。

さらに、資金を調達してそれで完了ではなく、その後も事業の状況の説明を求められるケースも多いです。
○クラウドファンディング

クラウドファンディングは、インターネットで不特定多数の人々から出資してもらう方法です。プロジェクトを公開することで、自社の知名度アップなどマーケティング効果も期待できます。


購入型クラウドファンディングは、商品・サービスを購入してもらうことで支援を募ります。開発資金の調達ができると同時に、顧客のニーズや要望を確認できる効果も。

寄付型クラウドファンディングは、商品・サービスなど出資者側にリターンのない調達方法です。社会貢献の意味合いが強いプロジェクトに実施されることが多く、NPOや地域活性事業で利用されています。
○ビジネスコンテスト

起業のアイデアに自信がある場合、ビジネスコンテストに参加するのもおすすめです。ビジネスのアイデアを競い合い、入賞すると資金調達ができます。

事業計画書をブラッシュアップできたり、ビジネス人脈を形成できたり、実践的なアドバイスがもらえるなど他にもメリットが多数あります。

まずは、事業計画をまとめて書類選考に応募することになります。書類選考に通過した後は、審査員や投資家の前でプレゼンを行い、事業の社会性・実現性などをアピールして入賞を狙います。
○ファクタリング

ファクタリングとは、自社が保有する売掛債権(売掛金)をファクタリング会社へ売却することで、手数料を差し引いた現金を受け取れるサービスです。売掛金を早期に現金化する金融サービスで、担保や保証人なしで利用できます。

銀行より審査が速く、借り入れでないため、負債として計上されないメリットがあります。赤字や債務超過でも利用可能で、自社の経営状況はほぼ問われません。

ただし、融資に比べて手数料が高く、売掛債権の額面以上の現金を手に入れることはできません。ファクタリングを装った高金利の貸付を行う、闇金のような業者も存在するため、注意が必要です。

安藤真一郎 あんどうしんいちろう マーケティング会社に勤務した後、フリーランスのライターに転身。 多種多様なジャンルの記事を執筆するなかで、金融リテラシーを高めることや情報発信の重要性に気づき、現在はマネー系ジャンルを中心に執筆している。 ライターとして、知識のない人でも理解しやすいよう、かみくだいた文章にすることが信条。 ファイナンシャルプランニング技能士2級、日商簿記検定2級取得。 この著者の記事一覧はこちら
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