2026年5月2日に発売された『将棋世界2026年6月号』(発行=日本将棋連盟、販売=マイナビ出版)は、プロ棋士が厳選した2025年度のベストバウト10「熱局プレイバック」を収録しています。本稿では当記事より、一部を抜粋してお送りします。


○第73期王座戦五番勝負第5局 伊藤匠vs 藤井聡太「藤井聡太を二度倒した男」

現役棋士が選ぶ2025年度ベスト対局の第1位は、伊藤匠が二冠の栄誉に輝いた王座戦第5局である。
この将棋は終盤が圧巻だった。藤井が8八にと金を動かしたのだが、伊藤はそれを手抜いて後手陣に迫ったのだ。対して藤井もと金で金駒を取らず、お互いにしばらく放置するという異例の光景が現れた。
「(と金の手抜きが)話題になったのは知っていますが、不自然という感じではない」と伊藤が淡々と話していたのも印象深い。新時代の将棋で、藤井から再びタイトルを奪った。藤井も次は負けられない。同学年のライバル対決は、ますますヒートアップするだろう。

「シンプルな形で☖8八とを放置が最善とは驚き。将棋の深淵さを感じた一局」(深浦康市九段)
「伊藤王座誕生の一局。形勢がよくなってからの見切りが凄かった」(三浦弘行九段)
「現地で観戦しておりました。☖8八とを手抜いた伊藤の☗8四桂もですが、そのあと8八のと金を両者とも放置した攻防も何もかも異次元でした。
これが『令和のタイトル戦』なのですね」(勝又清和七段)
○第75期王将戦七番勝負第5局 藤井聡太vs 永瀬拓矢「これぞターニングポイント」

最強棋士が絶体絶命の危機を迎えていた。王将戦七番勝負では1勝3敗、棋王戦五番勝負では1勝2敗。並行していた2つのタイトル戦で、いずれも王者の藤井がカド番に追い込まれていたのだ。
だが7位に入賞した王将戦第5局から藤井は両棋戦合わせて怒濤の5連勝を見せ、両タイトルを防衛した。一時は不調説も流れたが、それを吹き飛ばす勝ちっぷりで、改めて藤井が最強であることを思い知らされたのである。
とはいえこの将棋も決してラクではなかった。永瀬の先手角換わりを受けずに、力戦系を志向する。中盤の入り口でいきなり見どころが訪れた。永瀬が9筋を突き、いきなり香損する驚愕の仕掛けを敢行したのである。藤井はうまくとがめることができずに苦戦に陥った。
しかし、である。永瀬は飛車を奪って藤井玉に迫るも、形勢の針は藤井側に触れた。
自然な攻めが疑問というツキのなさもあったが、藤井が終盤で見せた受けの自陣飛車はあまりに冴えていた。永瀬の攻めを完封し、勝負を決めたのだ。

「斬新な仕掛けから、思いもよらない展開となり、将棋の可能性を改めて感じさせられた」(森内俊之九段)
「現地で観戦していました。王将戦1勝3敗、棋王戦1勝2敗というダブルカド番を救ったのは絶妙手☖4二飛の自陣飛車でした。この手を見て自陣飛車の受けを得意とする大山康晴十五世名人を思い出しました」(勝又清和七段)
「藤井さんのカド番の対局。作戦面も含めて藤井さんの底力を垣間見た一局。この勝利が王将戦と棋王戦のダブル防衛につながった」(及川拓馬七段)

○第84期順位戦B級2組9回戦 渡辺和史vs 斎藤明日斗「リアル盤駒で並べましょう」

この将棋はすごい。
通常、この企画でランク入りする対局は、内容と同時にタイトル獲得などの背景が加味されるものだ。本局は順位戦B級2組の「ラス前」で、斎藤は3番手だったので勝てば昇級圏内をキープできた。ただ敗れても可能性が消えるわけではない。つまり本局は将棋の内容だけで評価を勝ち取ったと言ってもいいだろう。
棋士のコメントでも連呼されているが、本局の最大の魅力は終盤戦にある。
先手の斎藤が勝勢になったが、渡辺は決め手を与えずに踏ん張る。それでも斎藤が押しきったかに見えたが、渡辺玉はしぶとかった。斎藤玉に王手ラッシュをかけてから先手の急所の角を奪った局面は一見して渡辺玉が詰んでいるのだが、際どく耐えている。それからも手は続いたが、盤上は見たことがない駒の配置になり、最後は渡辺が制した。

「両者の玉の生命力の強さに感嘆の大激闘」(佐藤康光九段)
「順位戦の怖さを改めて思い知らされた逆転劇でした」(広瀬章人九段)
「後手が絶望的な局面から唯一の逆転筋を手繰り寄せました。執念が生み出した奇跡のような耐え方でした」(井田明宏五段)
「気持ちの入った将棋とはこのこと。次の日は対局でしたが、最後まで見入ってしまった」(宮嶋健太四段)

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ほかにも、
・内山あや女流二段の特選自戦記「春の訪れは棒金と共に」
・戦術特集「プロが判定 ゴキ中への特効薬」
・逸木裕氏による将棋小説「王と指先」前編
といった記事もあり、指す将・観る将はもちろん、全ての将棋ファンの方々に楽しんでいただける一冊になっています!

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