そこで、すこし日本にゆかりのある外国人に「日本の印象」を聞くことで、我々が忘れかけていた日本の素晴らしさに改めて気づくことができるかもしれない。
訪日外国人のインバウンド消費といえば、寿司や天ぷらなどの高級日本食、あるいは賑やかな居酒屋での一杯、というイメージが定着している。円安も追い風となり、外国人旅行者が少々値の張る飲食店に足を運び、日本食に舌鼓を打つ光景は今や珍しくない。インドネシア・バリ島在住のバリ舞踊家、通称デドさん(本名:イ・マデ・マハルディカ)も、そんな大の日本食ファンの一人だ。
日本食通が、8回目の来日で初めて感動したもの
デドさんは「バロンダンス(バリ版の獅子舞ともいうべき伝統芸能)」の踊り手として、長年にわたり国内外で活躍している。妻が日本人であることや、日本での舞踊公演への出演をきっかけに来日を重ね、1998年の初来日から数えると訪日回数は実に8回にのぼる。妻の作る家庭料理や招聘先の接待でさまざまな日本食を口にし、その美味しさに魅了されてきた彼は、多くの外国人が敬遠しがちな刺身も難なく口にする。そんな日本食通のデドさんが、2025年に日本のガムラン(バリ島伝統の音楽)グループとの共演のために来日した際にどハマりした日本食がある。
その話を聞いた時、「えっ? そんなものが?」と筆者は少々拍子抜けしてしまった。では、デドさんが初めて虜になった日本食とは、一体何だったのか。
感動は意外にも近所のスーパーにあった
「お弁当、おにぎり、唐揚げなどのお惣菜が1000円以下なのに、どれもおいしい。
数ある弁当の中で、デドさんが選ぶ「Best of Bento」トップ3は以下の通りだ。
1位:鶏の唐揚げ弁当
2位:鶏の照り焼き弁当
3位:鯖の塩焼き弁当
「インドネシア人も日常的に鶏肉を揚げて食べるけれど、クオリティが全然違う。あの薄づきの衣と、ジューシーで下味の旨さが詰まった肉。そしてなんと言っても肉の柔らかさ!!口の中でほどけていくようなあの食感に感動するよ。あの繊細さは日本料理ならではだね」と、1位に選んだ唐揚げを絶賛する。
「鶏の唐揚げって日本食の繊細さが反映されている料理だっけ?」と思わなくもないが、確かにインドネシアの鶏の唐揚げは野性味のある肉そのものの旨さは感じるが、柔らかさはなく、たまに「噛みちぎる」という表現がふさわしいと感じる時もある。 それを思うと、日本の唐揚げの「柔らかさ」はかなり感動ポイントが高いと推測する。子供の頃からあのハードな歯応えを当たり前として生きてきたなら、尚更かもしれない。そんな感動的な鶏の唐揚げ弁当が650円という現地の日本食レストランでは手に入らない価格で売られていることに衝撃を受けたようだ。
もうひとつのお楽しみ。ホテルの朝食バイキング
「毎日少しずつ取るものを変えるから飽きない。あんなに豪華な朝食が宿泊代込みだなんて信じられないよ」と、まるでキラキラの別世界に足を踏み入れたかのような驚きがあったようだ。デドさんは皿に山盛りによそって食べるのが日課になっていた。
連日深夜に及ぶ練習で、他の来日メンバーが誰も起きてこない中、一人毎朝7時きっかりにバイキング会場入りしていたデドさん。「こんなに素晴らしい朝食が用意されているのに、なんでみんな来ないんだ? と不思議だったね。食べなきゃ準備してくれた人に申し訳ない。しかも無料なのにもったいないでしょ?私だけ毎朝、動けないほど満腹になっていたよ(笑)」
インタビュー後に見えた、次回来日の宿題とは?
安くて美味しい日本食を毎日食して大満足だったデドさんだが、実はちょっとした失敗談もある。 スーパー閉店前の弁当のディスカウントシールを見て、「半額になるなんて、きっと昨日作った古い弁当に違いない」と思い込み、公演前に体調を崩すことを恐れて買うのを避けていたのだ。インドネシアでは一般的に、閉店前だからといって値段が下がることはない。
「当たり前」の中にある日本の凄さ
訪日旅行者には高価な日本食と共にコンビニ弁当も人気だと聞くが、スーパーの弁当に魅力を感じたデドさんの言葉を聞いていると、私たち日本人が気づきにくい「当たり前」の凄さが浮かび上がってくる。「インドネシアでもどこの国でも当たり前だけど、安い食べ物には安い理由がある。見た目が悪かったり、味がいまいちだったりと、値段と質は比例しているものだ。でも、日本のスーパーの弁当は安いのに味のクオリティが高い。配色にも気を配り、さまざまなおかずが彩りよく詰められていて見た目にも美しい。おまけに種類も多種多様にある。こんな国は日本だけだと思う」
確かに日本のスーパーの弁当コーナーには、彩り豊かな和風弁当から、寿司、パスタやピザ、さらに健康に留意した弁当、少量パックや惣菜のみのパックなど選択肢が豊富に用意されている。その上、それらが比較的安価で手に入る。私たちにとって見慣れたスーパーの弁当には、ただ食事を提供するのではなく、買い手のニーズを意識した味や献立に飽きのこない工夫が凝らされているのだ、と私自身この取材を通して改めて気付かされた。
日本で暮らす私たちにとっては「当たり前」のサービスでも、外国人の目には驚異的に映り感動を呼ぶのではないか?
たとえ安価でも手を抜かず創意工夫をする姿勢に、日本人の細やかさや美意識を感じる外国人はデドさんだけではないのだろう。
そんな何気ない日常に日本の凄さがあるということをデドさんが教えてくれた。
<取材・文/くにさだ美彩子(海外書き人クラブ/バリ島在住ライター>
【くにさだ美彩子(海外書き人クラブ)】
東京で音楽活動を行うかたわらバリ芸能に出会い2018年から移住。現地の芸能家と共に寺院での奉納演奏などの活動を共にし研鑽を積み、自身の作品も創作する。これまでにファッション誌や地方紙でエッセイの連載を持つなど、ライターとしても人の「体温」が伝わる執筆活動を展開している。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員
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