その瞬間、神宮の杜にブーイングが響きました。
ヤクルトと巨人にとって今季のレギュラーシーズン最終戦となった9月28日のナイトゲームでのワンシーンです。
ところが…
オレンジ色に染まったレフトスタンドだけでなく、ヤクルトファンも含めた球場全体が興奮のるつぼと化します。すでに今季限りでの現役引退を表明している阿部は前日の東京ドームで「ありがとう慎之助」と銘打たれたメモリアルマッチに臨み、「4番・捕手」でスタメン出場すると、久しぶりのマスク姿を披露。打っては有終のアーチを放ち、笑顔にあふれる「阿部劇場」の主役を演じたからです。
この日、神宮に足を運んだファンは口々に「慎之助、見たいけど、さすがに今夜は出ないかなあ」と噂していました。それが、出てきた。
しかも勝ち越しの絶好機。阿部にとって、神宮は中大時代に東都大学野球リーグで熱戦を繰り広げた思い出の地。すべてお膳立てはそろいました。
ところが-。
この日がラストタクトとなるヤクルトの小川監督がベンチを出ます。
えっ?
マジかよ!?
ブーイングとため息が交錯する中、慎之助はゆっくりと一塁へ歩いたのでした。
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史上初の球史に残る、偉大な記録?
サプライズはここでも…。なんと代走に起用されたのは17年のドラフト1位右腕・鍬原ではありませんか。原監督は試合後、阿部の申告敬遠について「コメントできないね」と話しましたが、なんだかザワザワする展開でした。
試合は小川監督の執念が実り、延長10回に太田のサヨナラ打でヤクルトが勝利。自身最後の指揮を白星で飾りました。小川監督の試合後の談話は、このようなものでした。
「敬意を表さないといけないけど、選手たちの頑張りにしっかり応えないといけないと思った」
最下位はすでに確定している。しかし、チームを率いる立場にいる以上、消化試合といえども最後まで全力を尽くして、白星をもぎ取りに行くんだ-。そんな野球哲学が伝わってきました。
それでも世間の声は、ガチンコのタクトを称賛するものばかりではありませんでした。ネット上には「順位も決まっているのだから、阿部と正々堂々と勝負して、抑えればいいだけのこと。逃げていてはチームにとって、何のプラスにもならない」「プロ野球は興行でもある。
肝心の阿部本人はというと…。試合後のコメントは、これぞ慎之助というものでした。
「オレらしいっちゃオレらしい。史上初の球史に残る、偉大な記録なんじゃないかな」
確かに、長い野球人生においてレギュラーシーズン最後の試合が「申告敬遠」というのは、強打者のままユニホームを脱ぐということの証明でもあります。思えば小川監督は千葉県出身、中大出身と共通項がある、阿部にとっては尊敬すべき偉大な大先輩です。
恐れられたまま、現役を退く。そんな最高のリスペクトが、小川監督の指令には込められていたのかもしれません。
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[文/構成:ココカラネクスト編集部]