ディズニープラスの新ブランド「スター」内で配信される日本発オリジナルドラマシリーズ『すべて忘れてしまうから』。本作で主演の阿部寛が演じる主人公・ミステリー作家“M”が足しげく通うBar 灯台の店主・カオルを演じるのが、映画『スワロウテイル』以来、26年ぶりの演技となるミュージシャンのCharaだ。

「そのままでいいです」という監督の言葉を信じて臨んだという本作は、Charaにとってどんな感情をもたらしたのだろうか―。

【写真】自然体で豊かな表情を次々に見せるChara

■「Charaさんのままでいいですから」という口説き文句で出演

 人気作家・燃え殻の同名エッセイをドラマ化した本作は、東京という街で何気ない日々を過ごす人たちが繰り広げるミステリアスなラブストーリー。阿部寛扮するミステリー作家“M”が、5年間付き合った恋人“F”の突然の失踪によって、その行方を捜すこととなる。監督・脚本を『あのこは貴族』などの岨手由貴子、『さかなのこ』などの沖田修一、『ドライブ・マイ・カー』の大江崇允というトップクリエイターたちが集い幻想的な物語を紡ぐ。

――久々の映像作品への俳優としての参加となります。どんな思いから出演してみようと思ったのでしょうか?

Chara:これまでいくつか話はあったと思いますが、音楽をちゃんとやっていると時間が限られてしまうので、なかなか他のことに手を出せなかったということがあります。今回はタイミング的に少し時間があったのと「Charaさんのままでいいです」と言われたので、割と気楽に参加できるのかなと思ったんです。あとは『スワロウテイル』も音楽がらみの役柄だったし、今回も音楽が作品に関係しているので、やってみようかなと思いました。

――映画『スワロウテイル』以来、26年ぶりなんですよね。しかもドラマは初出演でした。

Chara:そうなんですよね。ドラマが初だったので(『スワロウテイル』で共演した伊藤)歩が心配して「Chara、ドラマ初めてだし、本読み手伝おうか?」って言ってくれたんです。
でもドラマは初めてでしたが、フィルムで撮影されていて、映画的なことも多く、撮影の戸惑いみたいなものはなかったです。

――出演に対してためらいみたいなものはなかったのですか?

Chara:ないない(笑)。そんな気持ちだったらできませんからね。

――演じることとアーティスト活動ではどんな違いが?

Chara:私自身は音楽畑の人間なのですが、畑が違うとはいえ、クリエイティブな仕事という意味では同じですよね。特に今回は「そのままでいいです」と言われたので、Charaとして余計なことをやんないほうがいいと思ったので(笑)。私は自分で曲を作るので、歌う時は監督の目線の自分と演じている自分がいる。曲は映像作品より短いですが、あまり芝居をしているときと変わらない感じがします。

■経験豊富な俳優陣に「迷惑はかけられない」

――主人公“M”を演じる阿部寛さんや、Bar 灯台の料理人・フクオ役を演じる宮藤官九郎さんとのお芝居はいかがでしたか?

Chara:阿部さんは人気の作品にたくさん出演している俳優さんですよね。世代も近いのですが、格好いいという印象がありました。友達の女優にどんな人か聞いたら、みんな「ステキでいい人だよ」って言っていたので、安心して撮影に臨みました。宮藤さんはこれまで全くお会いしたことなかったと思うのですが、彼自身ミュージシャンでもあるので、話しやすかったですね。しかも監督とか演出する人じゃないですか。
そこも含めてすごく雰囲気のあるいい感じの方でした。皆さんプロだし経験も豊富な人なので、迷惑はかけられないなという思いはありましたね。こちらは新人に近いというか、本当に久しぶりの映像の現場だったので。

――燃え殻さんの原作はいかがでしたか?

Chara:最初少しだけ読み始めたのですが、ドラマと全然違う内容だと感じたので、そこでいったんやめました。全部撮影が終わったあとに読んだのですが、人が発する独特な言葉に注目し、男性的な脳の感じに落とし込んだりするところが、すごくチャーミングだなと。エッセイなので読みやすい部分もあるのですが、普段なかなか気付けないようなところが、強すぎないけれど強く、悪すぎないけれど悪くみたいなサジ加減でつづられている。そこは才能だなと。あとは「燃え殻」という名前は、元キリンジの堀込泰行さんの曲からとっているんですよね。その意味でも音楽が好きなのかなと思いました。

■『スワロウテイル』撮影時の大先輩との思い出

――阿部さん演じるミステリー作家“M”は、不慣れななかSNSを始める際「新しいことを始めるのに遅すぎることはない」という励ましがありました。Charaさんにとって本作に参加して、新しく得られたことはありましたか?

Chara:この作品に限ったことではないのですが、こうして取材を受けたりするのも新しい発見がありますよね。言葉って一度口から出たらひっこめることはできないけれど、残すことができるじゃないですか。
話すことで意識していなかったことが印象づけられて「こんなふうに思っていたんだ」と気づくこともあるでしょ。

――コロナ禍での撮影だと思いましたが、表現というものは変わってきたと感じますか?

Chara:歌の世界でいうなら、一番悲しいのはみんなマスクをしているので、お客さんの表情が分かりづらいということ。あとは声のレスポンスや一緒にメロディーを奏でることもやりづらいですよね。でも配信という新たなものも広がったのは大きいですよね。この作品もそうですが、お家にいて好きな時間にライブも映画も楽しむことができることに初めて手を出した人も多かったのかなと思うと、そういう部分では悪いことばかりではないのかなと。

――Charaさんの演じる姿を、これからも観たいと思っている人もたくさんいると思います。

Chara:そうですかね(笑)。まあミュージシャンというのは独特の間や雰囲気がありますからね。『スワロウテイル』も「Charaのままで」って、ある意味、シードで出演したようなもので。そこはやっぱり“俳優”とは違うと思うんです。『スワロウテイル』で、大女優の桃井かおりさんと共演させていただいたんです。桃井さんは記者の役で、私が演じたグリコの楽屋に来た時、ある証拠を隠すために私が口のなかに入れて食べて、そのまま笑っちゃったんです。
そうしたら桃井さんが「Chara坊、笑ってんだもん。女優だったらそんなことやらないよね」って(笑)。そういう部分では、ミュージシャンが作品に出ることで、なにかが生まれるかもしれませんね。

(取材・文:磯部正和 写真:高野広美)

 ドラマ『すべて忘れてしまうから』は、ディズニープラス「スター」にて9月14日より独占配信。

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