映画『アイアンマン』(2008)からスタートしたマーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)は、この約15年で驚異的な成長を遂げた。フェーズ5に突入した現在のMCUは、映画のみならずドラマシリーズも展開中で、さらに宇宙、マルチバース、量子世界など、フィールドも大きく広がっている。
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■あのときニック役を引き受けたワケ
ーー『アベンジャーズ』が公開された2012年は、今ほどMCUが日本に浸透していない時代でした。当時の竹中さんは、なぜニック役を引き受けたのでしょうか?
竹中: 僕はスケジュールさえ合えば、いただいた仕事はすべて受けてきました。そこにどんな出会いがあるか分かりませんからね。それに声優という仕事はずっと憧れだったんです。ニックのオファーはとてもうれしかった。「大好きなサミュエル・L・ジャクソンを俺がやっていいんだ!」ってね。『パルプ・フィクション』『ヘイトフル・エイト』などサミュエルの作品をたくさん見てきましたが、その中でも1番好きだったのがニック・フューリーです。あのコスチュームデザインがたまらなかった!黒のロングコートとアイパッチ、そのスタイルがとてもクールでカッコよかったんです!まさかその吹き替えを自分ができるなんて思ってもいなかった。
ただ、実際のニックの声は高いですよね。僕の声質とは全く違う。不思議なんです、声優の仕事って。役者本人の声に近付けると、それはそれで違ってくることがある。吹き替えというのはとても難しい仕事です。オリジナルの役者が持つ本来のイメージを変えてしまう可能性もある。吹き替えという形でニックというキャラクターに新たな命を吹き込まなければならない。だから声のトーンのバランスをどう測っていくかという作業がとても難しくもあり、面白くもありました。
ーー10年以上もニックの吹き替えを担当されていますが、今回ついに主役になりました。これまでとの変化はありましたか?
竹中:今回の『シークレット・インベージョン』では、ニックと向き合うことができて、より深くニックに近付けた気がします。話の展開を知らずにドキドキしながら収録スタジオに行き、ニックの息遣いを感じて音色を探っていく。マリア・ヒルが死んでしまったときなど、実際のニックの泣き声を聞き、監督と話し合いながらテンションを探りつつ収録しました。
ーー作中、ロシア語も話されていました。
竹中:はい。ロシア語の先生までいらしてくださったのですが、意外なことに一発OKでした。「え、良いんですか!?」って感じで終わってしまった。
ーー(笑)。第1話から急展開の連続ですが、最後までサプライズがあるのでしょうか?
竹中:あり得ないことがたくさん起きます! え!そんな!?うそだろっ!というようなこともね。誰も信じられない。 見ている側も演じる側もどんどんどんどん追い詰められて、最後まで息が抜けない。
ーーそんな本作のニックは、S.H.I.E.L.D.長官時代と比べると威厳が失われつつあり、体力も衰えています。ヒーローと老いは切っても切り離せない関係で、これまでのMCUでも、キャプテン・アメリカ/スティーブ・ロジャースは老いることを選択し、ホークアイ/クリント・バートンは難聴になりながらも戦い続けると、ヒーローがさまざまな道を歩んできました。MCUに長く携わってきた竹中さんは“老いること”についてどう感じていますか?
■ハリソン・フォードは「本当にすごい」
竹中:切ないですよね。「老けたなぁ…」って言われたら深く傷つきますもん(笑)。
ハリソン・フォードは本当にすごいですよね。80歳を超えてもインディ・ジョーンズをやってるんですから!彼を見ると、老いるっていうことはある意味「セクシーだ」って思います。しかしそれはハリソン・フォードだからですね(笑)。ニックも『シークレット・インベージョン』で、「あなたはもう動けない」なんて言われちゃったりしますが、それも考え方によってはロマンチックです。枯れてゆく色気とでも言うのかな…。僕はこれから、老いること、それはとてもロマンチックなことなんだって思い込んで生きていこうと思います!思い込みの美学です。
ーーロマンチック…すてきな響きですね。
竹中:MCUの世界は、「ヒーローはヒーローでありながらも弱く、はかない人間なんだ」ということも表現していると思います。今回のニックも今までのコスチュームとは異なり、毛糸の帽子をかぶって、眼帯もつけず、服装も普通で、あまりに日常的です。
ーー竹中さんは今年で芸能生活40周年です。ここまで生き抜いてこられた秘けつはありますか?
竹中:たまたま生き残れただけですが、心許せる友だちに「もうダメだ…」って弱音を吐いてきたことかもしれないですね。ずっと人に支えられて生きてきました。だから大きなピンチからも逃れ、ふと気付いたらもう40年(?)です。数字にとらわれず、いろんなことを諦めて生きていくことが1番なんじゃないかな。諦めることで見えてくるものもたくさんありますからね!
(取材・文:阿部桜子 写真:高野広美)
ドラマシリーズ『シークレット・インベージョン』はディズニープラスにて独占配信中。