宮藤官九郎が脚本を務めるドラマ『新宿野戦病院』(フジテレビ系/毎週水曜22時)。新宿・歌舞伎町にたたずむ「聖まごころ病院」を舞台に、ホストやキャバ嬢、ホームレス、トー横キッズ、外国人難民など“ワケあり”な登場人物たちを、“官九郎節”ともいえるユーモアを織り交ぜながら描く。
【写真】宮藤官九郎流の“歌舞伎町”とは? ドラマ『新宿野戦病院』場面写真
■社会問題を“コメディ”にすること「怒られるんだろうなって思いながら」
これまでさまざまなテーマのドラマを手掛け、ヒットさせてきた宮藤だが、今作では初の“医療もの”に挑む。初めての挑戦について「意気込んではいる」としつつ、「やったことのないジャンルなので分からないことだらけですが、今のところすごく順調に書けているような気がして」と手ごたえ十分の様子。「最終的に、聖まごころ病院(主人公らが働く、歌舞伎町に位置する病院)で働いている医者や患者のことを全員好きになってもらえるようなドラマだと思うんですよね。最初から全員のことを好きになってもらおうとは思ってないです。でも(視聴者には)キャラクターたちのことを好きになっていくっていうミッションが課せられているというか、そういう作品になるといいなって」と、『新宿野戦病院』の“見方”を説いてくれた。
1・2話の時点で、早くもトー横キッズがオーバードーズしていたり、不法滞在の外国人がヤクザに刺されたりと、「ザ・歌舞伎町」な出来事が次々に起きる本ドラマ。社会問題をコメディに昇華しつつ、“今”の時代にテレビドラマで描くということに関して、宮藤自身の本音を聞くと「……怒られるんだろうなって思いながらやってます(笑)」とおちゃめな笑顔を見せてくれた。「怒られるかもしれないな、でもなるべく怒られたくないなって思って、色々な人に(脚本を)チェックしてもらって、『大丈夫ですよ宮藤さん』って言われて、(視聴者に)怒られる。それはしょうがないですよね。今、そういう意見を怖がってたら何もできなくなっちゃうだろうな」。
「本当にあることを、ただ『本当にあるんだよ』って言いたいだけなんですけどね。それを中途半端にしないってことですかね、気を付けてるのは」宮藤には、“今の歌舞伎町”で生きる人のリアルを伝え、視聴者に考えてほしいという思いがあるという。「誰かをことさらに攻撃したり、片方だけを悪にはしたくはない。こっちにはこっちの事情があって、一方から見たら他方は間違ってて……と見えるかもしれないけど、実は言ってることお互いそんなに変わらないんじゃない? ということは思ってます。だから、良いところも悪いところも両方あるっていうままを提示して、見た人が考えてくれたらいいなと。なぜ家出した10代の女の子が歌舞伎町に集まってくるのかな、ということを、『ああ、トー横キッズたちね』とひと言で片付けて終わりにしないで、個人個人のことを考えてくれたらいいなと思いながら、1話2話は特に考えて書きました」。
■かつて「もっとグローバル」だった歌舞伎町の“今”に思うこと
歌舞伎町をテーマにしたドラマを制作するにあたり、「まるで僕のために用意されたようなワクワクする設定」と公式コメントにて語っていた宮藤。しかし、自身が歌舞伎町と親密だった20代の頃とはずいぶん違う街になっているという。「昔、歌舞伎町に住んでいる友達が居て。新宿で芝居やって、その人の家に行って、飲みに行って。その頃、海外の方がたくさん働いていたんです。タイ人の方がやっているディスコがあって、そこでかかっている音楽がめちゃめちゃかっこよくて。
「タイ人のディスコとコロンビア人のディスコと韓国人の飲み屋と台湾人の飲み屋を1日ではしごして、昨日まで働いてた人が強制送還されて居ないとか……90年代ですけどね。あの頃は今みたいにホストも居なかったし、キャバクラもそんなになかったんじゃないかな。もっと“外国人の街”ってイメージでした」と、今以上に“グローバル”だった当時の歌舞伎町の思い出を語ってくれた宮藤。「“発散する場所”でしたね、みんなでワーって。怖い目にもいっぱい遇ったし、ぼったくられたこともあるし……なんか嫌なこと思い出してきました、ぜんぜんワクワクしない(笑)」と、少々辛い思い出もあったようだが、当時と比べると現在の歌舞伎町は「一見、健全で安全な街に見える」と語る。「だから若い人が『歌舞伎町に居たら友達ができるかも』って集まってきて、逆に治安が悪くなっているのはあるかもしれません」。
90年代の歌舞伎町で過ごした宮藤官九郎は“今”の歌舞伎町をどう描いていくのか。
ドラマ『新宿野戦病院』は、フジテレビ系にて7月3日より毎週水曜22時放送(初回15分拡大)。