【写真】前を見据える桂小五郎(玉山鉄二)
「“逃げの小五郎”が町人や太鼓持ちなどの変装で表現されていて、面白い登場の仕方だなと思いました。物乞いの扮装をしたシーンでは岩倉具視(笑福亭鶴瓶)が開いた賭場場に吉之助(鈴木亮平)と大久保(瑛太)が訪ねてきて、その奥に僕が密かにいるという、後に日本を大きく動かす人間たちが“実は集まっていた”という場面に思わず身震いしましたね」
薩長同盟までの流れを描く上で、薩摩と長州の対立模様は必須。「長州の薩摩に対する思いを表現できるのが僕しかいなかったので、そこはちょっと卑屈さが増してでも強めにやらないといけないなと思いました」と話す玉山だが、その演技に至るまでには、実は複雑な心情が渦巻いていたという。
「今回、最初に桂小五郎役だと聞いた時は正直『あっ、そっちなんだ』と思ったんです。なぜなら僕は『八重の桜』(2013年放送の大河ドラマ)で会津側(会津藩士・山川浩)を演じていたので」
『八重の桜』で描かれたのは幕末の戊辰戦争。薩摩藩と長州藩を中心とした明治新政府軍と会津藩ら徳川旧幕府軍との戦いで、主戦場は会津だった。結果は歴史が示す通り、明治新政府軍の勝利。会津の人々は長らく苦境を強いられることになった。
「長州と会津の間柄はとても複雑で根が深い。
「それでも多分、会津の人たちは、僕が桂で出てきたときに完全に“裏切り者”として見るだろうなとは思って躊躇しました。僕も頭の中の整理が難しいタイプ。今まで自分が積み上げてきた役に対しての責任感を大事にしたい方なので、もしかしたらこの役を僕は断っていたかもしれません」。
それでも受けた理由は、今作のプロデューサーに以前、玉山が主演を務めた2014年の連続テレビ小説『マッサン』で一緒だったスタッフが関わっているから。
「今でも街を歩いていたら『マッサンだ!』って言われるくらい、僕の中にも大きく残っている作品。巡り会えたことにとても感謝していますし、今回はその恩返しというか、4年経った僕の成長を見てほしかった。同じスタッフさんの依頼でなければ、桂のことを調べる気にもならなかったと思います」。
そして「こういうことはきっと僕たち役者の宿命」と語る。「長州側の苦境やそれによる卑屈さや、さまざまなことを成し遂げる部分を、ほかでもない(会津藩士を演じた)僕がちゃんと見せれば見せるほど、きっと『八重の桜』を見てくださっていた方々の心にも、いい意味での“傷”を付け、癒やしにつなげることができるのではないかなと思っています」。
玉山の言う“傷”とは、きっと長らく固定化されてきた心中や視点の何かが切り替わる“きっかけ”だ。
「薩長同盟シーンのリハーサルで『キレイにハマりすぎるのは嫌だよね』という話をしました。それが行われるという事実は皆さんもちろんご存知。その上で楽しめるポイントはプロセスがどういうラインのたどり方をするのか、ということ。持っているコップを上からただ落とすだけではなく、揺さぶりながら作りたいねという話をしていました」
坂本龍馬役の小栗旬、岩倉具視役の笑福亭鶴瓶らへの信頼も厚い。
「旬の華やかな部分や人を引きつける部分が坂本龍馬にすごくハマっていると思います。セクシーだし、愛嬌もある。ちょっと現代的な発想も持っていて何をしでかすか分からないような部分も彼の魅力じゃないかなと。坂本龍馬が来れば何かが起こる、みたいな雰囲気を彼は本当にうまく作り上げているなと感心しています」。
小栗と玉山の付き合いは長く、デビュー間もないころからだという。
一方、鶴瓶に関しては「本当に鶴瓶さんのその存在だけで現場が和やかになるというか、鶴瓶さんがいらっしゃるだけでその疲れが取れる感じがします。本当に人がお好きなんでしょうね。僕はすごく人見知りで、群れたりすることを怖がってしまうところがあるので、鶴瓶さんみたいな人と過ごしていると人として本来あるべき姿はこういうことなんだろうな…って、すごく感じさせられます」。
スタッフ・キャストともに確かな関係性の上で桂小五郎という役にひたむきに向き合っている玉山。間もなく薩長同盟の佳境を迎える中で彼が魅せる桂小五郎像は果たしてどんなふうに輝き、視聴者に、そして会津の人々に届くのか。楽しみで仕方ない。(取材・文:松木智慧)
NHK大河ドラマ『西郷どん』はNHK BSプレミアムにて毎週日曜18時、総合テレビにて20時放送。