【写真】舞台『美しく青く』で主演を務める向井理
本作は、気鋭の劇作家で映画監督や俳優としても活動する赤堀雅秋が描く、人間ドラマ。向井は、集落を悩ませる猿害対策のために住民らが参加する自警団のリーダーを演じる。
久しぶりの舞台、しかも濃厚な人間関係をじっくりと見せる重厚な作品なだけに、インタビュー冒頭から「できることならやりたくない。こんなに緊張することないですよ」と苦笑いで語っていた向井。「舞台は修行だと思ってやっていますので、いつもきつい。怖いです」と意外とも思える本音を吐露する。そこには、「板の上に立っている人が苦労しないと観ている人は面白くならないと勝手に思っているんです。舞台上で(役者が)傷ついている姿を観るのが面白い。必死に何かをやっている人は滑稽で、だからこそ面白いものなんだと思います」という向井の舞台に対する信念がある。
それだけの強い思いを持って臨む本作。
「主役をやったことがないときには、すごく意識してましたし、主役というものに対するこだわりもありました。でも、主役をやらせていただく機会が増えて、番手は関係ないと感じるようになりました。2番手でも3番手でも主役よりも注目されることもありますし、面白い役を演じることに意味があると思うようになりました。それは、主役をやってみなければ分からなかったことですね。もちろん、主役はセリフや出番が多いから評価されがちではありますが、でも、少ないシーンでも良い芝居ができればそれでいい。今は(番手は)意識してないです」。 それはもちろん舞台だけでなく、映画、ドラマに対しても同じだ。『きみが心に棲みついた』『わたし、定時で帰ります。』などその演技力と存在感に注目が集まった作品も、主演作ではなかった。
「自分の芝居が評価されたという意味ではうれしいです。
プライベートでは2児の父親になったことで、役への思いも変わった。本作では、娘を亡くしたというバックグラウンドが垣間見える役でもある。
「子どもを亡くすということは、想像するのも嫌なくらい恐怖感があります。そんなことを考えたら泣きそうになるし、生きていけない。独身の頃から子どもがいる役は何度も演じていますが、父親になった今だからこそ、その心情が想像しやすいし、怖くてたまりません」。
自身の心の痛みをさらけ出すからこそ「面白いものができる」と断言する向井。傷つきながら魅せる父親役に期待が高まる。(取材・文:嶋田真己 写真:高野広美)
Bunkamura30周年記念 シアターコクーン・オンレパートリー2019『美しく青く』は7月11日~28日に東京・Bunkamuraシアターコクーン、8月1日~3日に大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演。