2020年の映画興行収入ベスト10(2020年12月20日現在の推計概算)が興行通信社より発表された。新型コロナウイルスの影響で激動の1年となったが、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』を筆頭にヒット作も多数生まれた日本映画界を、ランキングと共に総括していく。



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■『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』歴史的ヒットの理由

 第1位は、現在も公開中で数字を伸ばし続けている『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が、興収311.7億円を記録し、ダントツの首位。2001年7月公開の『千と千尋の神隠し』の持つ316.8億円(2020年リバイバル上映分8.8億円を含む)を塗り替えることは確実視されている。

 本作の劇場公開は10月16日。初日からの3日間で、動員342万人、興収46億円という圧倒的なオープニング興収の記録を打ち立てた。この数字だけで本作を除いた2020年の興収ランキングで5位に相当すると考えると、これがどれだけすごいことなのかよく分かる。

 このスタートダッシュには“作品の質の高さ”という大前提はあるが、コロナ禍で上映作品が少なかったことにより、大手シネコンが大胆なスクリーン数を本作に割けたという状況もある。1日20回以上も上映するシネコンも珍しくはなく、混雑を避けたいと思っている人が映画館に足を運びやすくなったことも追い風になった。

 オープニング興収がセンセーショナルだったことにより、普段映画を取り扱わないメディアがこぞって特集などを展開した結果、これまで作品に触れたことがなかった人にまでリーチすることができたのも大きい。さらに映画のクオリティの高さから、作品の潜在的なファンのリピート率も非常に高く、歴史的な数字を叩き出した要因になったのだろう。

 2位は昨年11月に公開された『アナと雪の女王2』。133.5億円という数字は、例年なら十分トップの数字と言えるが、今年は相手が悪かったか。2014年に公開された前作『アナと雪の女王』の最終興収255億円(歴代4位)と比べるとややもの足りない印象を受けるが、社会現象となった前作から、音楽を含め“置きにいっていない”攻めの姿勢が感じられる作品だっただけに大いなる健闘と言えるだろう。


 「スカイウォーカー・サーガ」の完結編という触れ込みで注目を集めた『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』が、興収72.7億円で3位。時系列的に旧3部作の続編第1弾となる『フォースの覚醒』が116.3億円、第2弾となる『最後のジェダイ』が75.1億円、そして第3弾の本作が72.7億円と徐々に数字を落としてしまう結果となった。

■劇場のイメージを変えた『今日から俺は!!劇場版』

 4位は、テレビドラマを経て映画化された『今日から俺は!!劇場版』。興収は53.7億円だったが、ある意味でこの数字は、今後の日本の映画シーンを語るうえで非常に重要な役割を果たした。新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言発令により、全国の映画館が一時休業という未曽有の事態に陥ったことは記憶に新しいが、少しずつ劇場が営業を再開し、東宝の夏休み映画として大規模公開の最初となった本作が、7月17日に封切られた。

 当時はまだ客席も全体の半分強しか売れない状況で、どんな結果となるのか不安視する人も多かったが、蓋を開ければ公開初日から3日間のオープニング興収で動員60万人、興収7.8億円という、平時でも大ヒットスタートと言える数字を叩き出した。

 テレビドラマのヒットという知名度の高さも大きなアドバンテージとなったが、この時期も『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』と同様に劇場公開作品が少なく、大手シネコンが多くのスクリーン数を本作に割けたために、安心感があったのは事実だろう。劇場も優れた空調設備や徹底した感染対策を講じてはいたが、まだまだ不安に思う人が多かった時期。本作のヒットが“映画館は危険”というイメージの払しょくにひと役買ったことは間違いない。■スマッシュヒットが続出 光が刺した映画界

 この『今日から俺は!!劇場版』のスタートダッシュを皮切りに、翌週に公開された6位『コンフィデンスマンJP プリンセス編』は前作29.7億円を超える38.4億円を、8月に公開された9位『事故物件 恐い間取り』、10位『糸』は共に邦画実写ではスマッシュヒットと言える20億円を突破。しっかりした作品を公開すれば、コロナ禍以前と比較してもそん色ない興収を得られることが証明され、映画界にも明るい兆しを見せた。

 コロナ禍により、軒並みメジャースタジオの洋画公開が延期されるなか、日本でもファンの多いクリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET テネット』が9月に公開。
27.3億円という興収を記録し、8位にランクインした。ノーランの監督作品では、2010年公開の『インセプション』の35.0億円に次ぐ好成績を残した。

 2019年の年間興収2611億8000万円と、2000年に興収が発表されるようになってから最高の興行収入を挙げた映画業界。その勢いさながらに迎えた2020年だったが、新型コロナウイルスというこれまで経験したことのないような逆風に見舞われた。観賞する側の生活様式も一変したが、製作現場も感染症対策のため、普段の何倍もの労力と時間を要し、その分コストも余計にかかるなど、先行きはまだ不透明だ。

 一方で、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が歴代興収の記録更新を間近に控えるなど、明るいニュースもある。また、一度遠のいてしまった客足を再び劇場に向けるきっかけを作った『今日から俺は!!劇場版』の功績も大きい。多くのものを失った2020年だったが、劇場に足を運ぶ人々にとって劇場で映画を観ることのありがたみが身にしみた年でもある。

 まだまだ予断を許さない状況ではあるが、2021年も多くの作品が劇場公開されることを切に願う。

■2020年映画興収ベスト10 <興行通信社調べ>

1位:311.7億円『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(10月16日公開)
2位:133.5億円『アナと雪の女王2』(2019年11月22日公開)
3位:72.7億円『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(2019年12月20日公開)
4位:53.7億円『今日から俺は!!劇場版』(7月17日公開)
5位:47.4億円『パラサイト 半地下の家族』(2019年12月27日公開)
6位:38.4億円『コンフィデンスマンJP プリンセス編』(7月23日公開)
7位:33.5億円『映画ドラえもん のび太の新恐竜』(8月7日公開)
8位:27.3億円『TENET テネット』(9月18日公開)
9位:23.4億円『事故物件 恐い間取り』(8月28日公開)
10位:22.5億円『糸』(8月21日公開)
※対象:2020年正月映画~11月公開映画
※興収値は2020年12月20日現在の推計概算
※『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』『TENET テネット』『事故物件 恐い間取り』『糸』は現在も上映中

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