女優、歌手、創作あーちすと、さらには映画監督とさまざまな分野で輝きを放つ、のん。この夏、『あまちゃん』(NHK総合)以来、8年ぶりとなる宮藤官九郎とタッグを成し、人気シリーズ“大パルコ人”の新作に挑む。

「ぶっ飛んだ設定にびっくりした」という本作への思いや、のんにとっての“宮藤官九郎という存在”について話を聞いた。

【写真】28歳を迎え、大人の女性の表情も見せるのん

◆8年ぶりにコンビ結成 宮藤官九郎からのオファーに「思ったより早かった」

 マジロックオペラ『愛が世界を救います(ただし屁が出ます)』は、大人計画とパルコが共同プロデュースする、 宮藤官九郎作・演出のオリジナルロックオペラシリーズ“大パルコ人”の第4弾。11年前の戦争(2009年上演の第1弾作品『R2C2~サイボーグなのでバンド辞めます!~』で描かれた世界)で一度崩壊した2055年の渋谷を舞台に、特殊な能力と共通の悩みを持つ浮浪児たちが個性あふれるキャラクターとの出会いの中で成長し、やがて“世界を救う”という壮大なテーマを背負い、能力と羞恥心のはざまで葛藤する姿が描かれる。

 のんが演じるのは、超能力を持つ少女・NON。Wi‐Fiが飛んでいる場所に限り、言葉を発さずテレパシーで、相手に意志を伝えることができるが、その声はなぜかダミ声のおっさんという役どころだ。「設定がすごいですよね。『愛が世界を救います』っていうストレートなタイトルに、屁がついてくるんだ…って衝撃を受けました。超能力を使うときに変な声になるというのも、ただの超能力ものじゃなく、絶対に笑えるところをつけてくるところが、宮藤さん節なのかな」と語る。顔合わせでは宮藤から「大丈夫ですか?」と声を掛けられたそうで、「なんの“大丈夫”なのかな?って思ったら、その後にタイトルを聞いて、あぁ、こういう心配だったんだなって。最初はビックリしましたが、面白そうだなってワクワクしました」。

 8年ぶりの宮藤とのコンビ。オファーを聞いた時は「やったー!」と思ったという。
宮藤は取材で「重い感じでオファーしたら、割と軽い感じで引き受けてくれた」と明かしていたが…。「そうなのかな?(笑) 『あまちゃん』の打ち上げで、宮藤さんから『次はのんさんが50歳になったときに、泉ピン子さんと橋田壽賀子さんみたいな感じでできたらいいなと思います』って言われた記憶がずっとあって。今回お話しを頂いた時は、“あ、思ったより早かった”って思いました」と笑う。

◆宮藤官九郎は“小学生のような天才”

 今回、演出家&共演者の宮藤官九郎は初体験。「前回ご一緒した時は、宮藤さんはずっと本を書いていて、遠い存在だったので、本読みでは宮藤さんがセリフしゃべってる!って不思議な感覚でした(笑)」。のんにとって、宮藤官九郎という存在はどんな存在なのだろう?「自分がたくさんの人に見ていただけるきっかけとなった作品で、ものすごい脚本を書いていただいていたので、すごく大きな存在っていうのはあります。あとは、みんなのイメージにもあると思うんですけど、“天才”っていう…。尊敬の念を込めて“小学生のような天才”。小学生の頃ってみんな発想が柔軟で、天才だと思うんですけど、そのまんま天才を積み重ねてオトナになったみたいな方。そこがめちゃくちゃすてきで憧れます」。

 共演者にも個性あふれるメンバーが顔をそろえる。「村上虹郎さんは、鋭い存在感ですね。
才能の塊みたいなオーラを発していらしていいなーと思います。藤井隆さんは『ナンダカンダ』が大好きで! 稽古場でも毎日面白すぎて笑いをこらえてます。三宅弘城さんも最高に面白くて、楽しいです」。ほかにも『あまちゃん』以来の顔合わせとなる共演者も。「伊勢志摩さんは、私の初舞台に見に来てくれて少年役仲間なんです! 荒川良々さんは、独特なセリフ回しと間で、唯一な存在。あと、宮藤さんもそうですが、お会いするたびに思ったより身長が大きいなって思います(笑)」。

 宮藤作品の魅力を「すごく笑えるばかばかしい設定や、掛け合いの流れで、突然心臓に突き刺さってくるすてきなセリフが散りばめられている。笑いながら心がほぐれているところに突き刺さってくるので、素直な心で宮藤さんの描かれているメッセージを受け止められるというか…。明るいところがすてきだなって思います」と語るのん。「NONのキャラクターがすでに面白くて、どれだけ体現できるかってところだと思うんですけど、すごく生きるエネルギーに満ちている役だと思うんで、自由な生命力が舞台で見えるように頑張りたいです。私が頑張ればどんどん面白くなる役だと思うので、頑張ってついていかなきゃ」と決意を新たにしていた。◆初舞台で感じた演劇の楽しさと怖さ

 のんにとって本作は2回目の舞台出演。
2年前の初舞台『私の恋人』では、渡辺えり小日向文世という大ベテランに胸を借りた。「日々稽古で、1ヵ月間みっちりと皆さんと演技を交えながらシーンを作っていくので、それがすごく刺激的でした。本読みから始まって立ち稽古、リハーサルと、こうやってどんどん練られていくんだっていう過程が面白かったですね。映像の色合いとかカット割りのムードとかで空気を作るのではなく、自分自身からその空間を作っていかなきゃいけないというのがすごく大変なんだけど、楽しいなって思いました」と振り返る。

 また、「ずっと全身を見られているのでそれがすごく怖かったです。身体表現として、素になっているように見えないようにしていなきゃいけないのが、こんなに難しいんだなって打ちのめされました。それが怖くもあり、楽しい部分でもありましたね」とも。

 舞台や音楽活動など、ライブ活動にも積極的なのん。その魅力を尋ねると「別々の人間が集まっているんだけど、今みんなで一緒に笑ったよねとか、みんなで一緒にグッときたよねっていうのを肌で感じられるというところ。おのおのの解釈で観ているかもしれないけど、演じている側、ステージに立っている側でお客さんと同じ空間を共有できるというのが、生の舞台や音楽ライブにしかない楽しさだと思います」ときっぱり。

 今回初登場となるPARCO劇場は、「パルコさんのプロデュースで絵の展覧会をしたりとつながりもあったので、出たいなって」と憧れがあった。PARCO劇場も作品の舞台も両方渋谷となるが、のんにとって渋谷という街は、「10代で東京に出てきたころは、人が多いなってすごく圧倒されたり、“こんな感じなのか”と思っていたのとギャップがあったりしました。
のんになってからは、展覧会やNON THE CORNERというカフェのコラボ、渋谷のライブハウスでの初のワンマンライブとか、ゆかりができてきて。渋谷の街には、自分が表現するときに、一番最初に助けてくれているところみたいな、仲間みたいなイメージがありますね」と語る。

◆60歳になっても子ども心を失わず、創作意欲が止まらない大人になりたい

 今回の役では超能力が使えるという設定だが、もし何か超能力が使えるとしたら、どんな超能力が欲しいか尋ねてみた。「う~ん。人の心が読める超能力が欲しい。悪いこと考えてるなら悪いこと考えてるで、それが分かりたいなって思いますね。役者として役のことを考えたり、物語の中の人物について読み解いたりするのはすごく発想が湧くんですけど、普段対話するときに、話下手っていうのもあって、人の顔色見てないのか、どう思ったんだろう…っていうのをすごく考えちゃうほうなので…。役者のためっていうよりは普段の会話のために読めるようになりたいと思います」と照れくさそうに笑う。

 本作の舞台となる2055年にのんは62歳。「それこそ、宮藤さんとか、宮藤さんは60歳じゃないですけど(笑)、渡辺えりさんみたいに60歳になっても、子ども心が消えていなくて、ばりばり創作したりとか、創作意欲が止まっていない大人になっていたらいいなって思います」。そう目を輝かせて答えるのん。今回の舞台でも、さまざまなことを吸収して、その憧れの姿にまた一歩近づいていくにちがいない。
(取材:編集部 写真:高野広美)

 大パルコ人(4)マジロックオペラ『愛が世界を救います(ただし屁が出ます)』東京公演はPARCO劇場にて8月9日~31日、大阪公演はCOOL JAPAN PARK OSAKA WWホールにて9月4日~12日、仙台公演は電力ホールにて9月15日~17日上演。

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