2026年5月、水原で行われたアジア女子クラブ王者決定戦後の記者会見が、思わぬ“言葉の地雷”で吹き飛んだ。優勝した北朝鮮の女子サッカークラブ「ネゴヒャン女子サッカー団」を率いたリ・ユイル監督が、韓国記者の質問に激高し、会見を途中退席したのである。

引き金は、記者が口にした「北側」という一言だった。監督側は通訳を通じて「国号をちゃんと呼べ」と反発し、主将キム・ギョンヨン選手も「私たちは朝鮮民主主義人民共和国」と言い切った。

韓国人から見れば、記者はむしろ配慮したつもりだったのかもしれない。韓国社会で一般的なのは「北韓」だが、スポーツや南北交流の場では、政治色を薄めるため「北側」「南側」という表現が長く使われてきた。対立を和らげる“中立語”として機能してきたのである。

だが、問題はその前提がすでに崩れていることだ。

金正恩総書記は近年、「韓国は統一の対象ではない」と明言し、敵対的な二国家関係を打ち出した。北朝鮮は統一路線を事実上放棄し、韓国を「同族」ではなく敵対国家として扱う方向へ急旋回している。そうなると、「北側」「南側」という呼び方自体が成立しにくい。なぜなら、それはもともと「ひとつの民族国家の南北」という前提の上に成り立つ概念だからだ。

北朝鮮側から見れば、「北側」とは“統一国家の北半分”を意味する古い語彙であり、今や政治的に受け入れ難い表現になった可能性が高い。海外遠征に出る監督や選手らが本国からの監視の目にさらされていることを考えれば、質問に答えず席を立った対応は、彼ら個人にとってやむを得ないことだった。

では韓国記者は何と呼べばよいのか。

「朝鮮」あるいは「朝鮮民主主義人民共和国」と言えば済む話のようにも見える。しかし、韓国国内ではそれも簡単ではない。「朝鮮」という呼称は北側の自己認識に近く、保守層からは「北朝鮮の論理を受け入れるのか」との批判を招きかねない。現に近年、韓国政府内で「朝鮮」呼称を検討すべきだとの議論が出ただけでも論争になった。

結局、当面の現場的な解決策は、国家呼称を避けるしかないのかもしれない。「皆さんのチーム」「今回のサッカー」といった言い回しで質問を組み立てる――。記者としては不自然極まりないが、相手に配慮すれば怒られ、正式名称を使えば国内で叩かれる以上、苦肉の策としては現実的だ。

皮肉なのは、南北融和のために韓国社会が長年育ててきた「北側」という曖昧な言葉を、統一放棄を宣言した北朝鮮自身が真っ先に壊してしまったことである。言葉は政治を映す鏡だとすれば、この退席騒動ほど、朝鮮半島の変化を象徴する場面も少ない。

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