北朝鮮で梅雨入りを前にした「災害との戦い」が例年以上に緊迫感を増している。背景にあるのは単なる自然災害への警戒ではない。
失敗すれば政治責任を問われ、場合によっては命すら危うくなる――。北朝鮮の地方幹部たちは今、「豪雨」と「金正恩の怒り」という二重の恐怖にさらされている。 デイリーNKの現地消息筋によれば、北朝鮮・平安北道では今夏の長雨に備え、河川や山腹の危険区域に対する事前調査と大規模補修工事が急ピッチで進められている。堤防補修、排水路整備、河床整理に工場や企業所の労働者が大量動員され、検閲も強化されたという。 注目すべきは、その切迫感である。単なる「季節行事」の治水ではなく、危険区域を事前調査し、中機械まで動員して補強する“実戦型”に変わりつつあるとされる。背景には、近年の大規模水害後に責任者が厳しく処罰された前例がある。 北朝鮮は自然災害に極めて脆弱な国家だ。慢性的な森林破壊、老朽化したインフラ、劣悪な排水設備、予算不足による堤防管理の遅れ――。ひとたび集中豪雨が起これば河川氾濫や土砂崩れが広範囲に及ぶ。特に山間部が多く、河川沿いに住宅や農地が密集する地方では被害が拡大しやすい。 さらに問題なのは、「災害対策」が科学や行政の問題というより、政治忠誠の問題として扱われる点だ。
象徴的だったのが2024年夏の平安北道・慈江道などで発生した大規模洪水である。住宅や農地が流失し、多数の被災民が発生した中、金正恩総書記は現地を視察し、幹部らを公然と厳しく叱責した。被害を「防げたはずの災害」と位置づけ、地方行政や党機関の責任を強く追及したのである。 この時、韓国メディアでは衝撃的な観測まで浮上した。韓国テレビ局TV朝鮮は2024年9月、「洪水対応に失敗した幹部20~30人が銃殺された可能性がある」と報道した。情報源や真偽には慎重な検証が必要だが、北朝鮮体制において重大事故や失政後に責任幹部が苛烈な処罰を受けること自体は珍しい話ではない。 実際、デイリーNKによれば平安北道では過去の水害地域の責任幹部が「予防対策不備」を理由に処罰された事例が党的に通達されているという。地方幹部にとって、水害は単なる行政失敗ではなく、自身の政治生命、時に肉体的生命に直結する問題となっている。
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