深刻な人口減少に直面する北朝鮮で、金正恩政権が「多産家庭」への食糧配給を打ち出し、出産奨励に乗り出していることが明らかになった。しかし、慢性的な生活苦と将来不安を抱える住民の反応は冷ややかだ。

「たくさん産んで国家に差し出せと言っているようなものだ」。現地では、そんな皮肉交じりの声すら上がっているという。

米政府系放送のラジオ・フリー・アジア(RFA)が北朝鮮内部消息筋の話として報じたところによると、当局は最近、「母性英雄」「共産主義母親」の称号を前面に押し出し、多産を称賛する宣伝を連日展開。さらに、子ども5人以上を育てる家庭に対し、地域単位で食糧を優先配給する制度を導入し、出産を促しているという。

北東部・咸鏡北道の消息筋はRFAに対し、「子ども5人以上の家庭には毎月一定量の食糧を支給する方針が示された」と説明。そのうえで、「配給は地域が独自に確保するが、あくまで党の多産政策に沿ったものだ」と証言した。

背景にあるのは、北朝鮮社会で静かに進む少子化への危機感とみられる。近年の経済停滞、物価高騰、食糧難の長期化により、結婚しても子どもを持たない、あるいは「一人だけ育てる」という家庭が増えているとの指摘は少なくない。

実際、住民の側には「数より質」という現実的な意識が広がっているようだ。別の平安北道消息筋はRFAに、「10人産んで食べさせられないなら、一人だけでもちゃんと育てたいという考え方が社会全体に広がっている」と語った。多産家庭はむしろ「食べ物に困る家庭」「計画性がない家庭」と見なされ、社会的評価も決して高くないという。

北朝鮮では伝統的に、子どもを多く育てた女性を「母性英雄」として表彰してきた。

今回も、12人の子どもを産んだ南浦市の女性が「共産主義母親」の称号を受け、全国の模範事例として宣伝されているとされる。しかし、そうした“英雄化”が住民感情と噛み合っているとは言い難い。

むしろ当局の出産奨励は、住民の間で別の不安を呼び起こしている。北朝鮮では近年、男女とも長期兵役が常態化し、17歳前後で入隊すれば約10年間の軍務を課される。除隊後も炭鉱や鉱山、農場、建設現場などへの配置が一般的だ。

そのため、一部住民の間では「子どもをたくさん産ませ、最終的に国家に差し出させようとしている」という見方まで広がっているという。咸鏡北道の消息筋は、「軍人さえ十分に食べさせられず栄養失調が問題になる状況なのに、多産家庭への食糧配給を始めたのは、それだけ人口問題が深刻なのだろうとの声もある」と伝えた。

もっとも、住民側の認識は単純だ。「安心して育てられる環境があれば、わざわざ愛国を強調しなくても子どもは増える」。消息筋はそう語り、食糧、衣類、生活必需品などを国家が安定的に保障できれば、多産家庭は自然に増えるはずだとの見方を示した。

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