人間は本来、120歳まで生きられる。そんな説を聞いたことはないだろうか。
実は、その寿命の鍵を握っているのが、細胞の中に存在する「テロメア」と呼ばれる構造だ。
 ノーベル賞にもつながった研究によって、細胞分裂の回数や老化のメカニズムは、少しずつ解き明かされつつある。

 世界的な幹細胞研究の第一人者として、再生医療の最前線を見続けてきた上田実氏が、「なぜ細胞は“寿命”を迎えるのか」、そして「幹細胞やがん細胞だけが、その限界を超えられるのはなぜなのか」を解説する。

 細胞の奥深くで進む、「命のカウントダウン」の正体に迫る。

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※本記事は、『最新版驚異の再生医療~培養上清という人類の希望~』(扶桑社)より一部抜粋、再構成してお届けしています。

人間は本来、120歳まで生きられる!?

人間は本来「120歳」まで生きられる?ノーベル賞研究が明かした“命のろうそく”テロメアの正体
※画像はイメージです(以下同)
 細胞ごとに寿命の長さが違う根本的な理由は、まだわかっていません。しかし、細胞の寿命がどのように決められているのかは解明されています。

 幹細胞を深く理解するために、細胞の寿命を決めているシステムについてお話ししておきましょう。

 幹細胞からつくられた機能細胞(成熟細胞)は、細胞分裂を繰り返します。しかし、それぞれの細胞には、寿命、言い換えれば細胞分裂する回数が決められているのです。

 日本人の平均寿命は、男性が81.64歳、女性が87.74歳(令和2年「簡易生命表」厚生労働省)で、過去最高を更新しています。

 ちなみに、日本人の100歳以上の高齢者は8万6510人います(厚生労働省調べ、2021年9月現在)。そのうち女性が7万6450人と、100歳以上の88%を占めています。
寿命に関しては、女性が圧倒的に優位にあるといえます。

 そして、女性の最高齢者が118歳、男性は111歳です(厚生労働省調べ、同前)。

 なぜ、最高齢についてお話ししたかといいますと、人間は本来、がんや脳卒中、心筋梗塞などの命にかかわるような大病にならなかったり、交通事故などの不慮の事故に遭わなかったりすれば、理論的には120歳までの寿命があるといわれているからです。

 この寿命を決めているのが、幹細胞の寿命なのです。逆に考えると、大病や不慮の事故に遭わなくても、細胞分裂は120年で最期を迎えるということです。

親から子どもに引き継がれる遺伝子情報

 人間に限らず、生物の寿命はどのように決められているのでしょうか。その謎を解明したのが、エリザベス・ブラックバーン博士らの研究グループです。

 ブラックバーン博士、キャロル・グライダー博士、ジャック・ショスタク博士の三人は、「テロメアとテロメラーゼ酵素が染色体を保護する仕組みの発見」で2009年にノーベル医学・生理学賞を受賞しています。

 ブラックバーン博士らがノーベル医学・生理学賞を受賞する理由となったテロメアこそが、それぞれの細胞の寿命を決めているのです。

 テロメアとは、いったい何者なのでしょうか。テロメアを理解するために、「染色体」や「遺伝子(DNA)」のお話をします。

 私たちは、両親や兄弟、祖父母など近親者に体型や顔の特徴などが似ています。親子や兄弟なのだから当然といえば当然のことです。


 このように、体質や血液型、性格、顔などの生物学的特徴が、親から子どもへと受け継がれることを遺伝(遺伝形質)といいます。

 遺伝のもととなっている因子が遺伝子です。この遺伝子は、細胞の中心に存在する核の中にある染色体の上に並んでいます。

 遺伝子の正体は、4種類の塩基とリン酸、糖からできているDNA(デオキシリボ核酸)で、遺伝の設計図に相当します。

 ちなみに、1953年、ジェームズ・デューイ・ワトソン博士とフランシス・クリック博士、モーリス・ウィルキンス博士らの研究によって、DNAは「二重らせん構造」になっており、細胞が分裂するときに遺伝子情報(DNAの塩基配列)が正確にコピーされ、親から子どもに受け継がれることを発見しました。

 親子の間で生物学的特徴が受け継がれるカギは、DNAの二重らせん構造にあったのです。

染色体の端にあるテロメアの役割とはいったい何なのか?

人間は本来「120歳」まで生きられる?ノーベル賞研究が明かした“命のろうそく”テロメアの正体
テロメア
 細胞の寿命を決めているテロメアの話に戻りましょう。テロメアはどこに存在するのでしょうか。

 テロメアの「テロ」はギリシャ語で「端」という意味です。一方、「メア」は「部分」を意味しています。

 つまり、テロメアは「端の部分」ということになります。それでは、テロメアは何の端にあるのでしょう。その答えは、染色体の両端です。


 ここでようやく染色体とテロメアが結びつきました。それではテロメアは、染色体の端でどのような役割を果たしているのでしょう。

 ここで1本の靴ひもを例にとって、テロメアの役割をお話ししましょう。靴ひもの両端を意識して見たことがありますか?

 靴ひもの両端は、テープや接着剤などで固められています。これは何のためでしょう。

 靴ひもは、何本かの糸を編んでできているので、何度も靴ひもを結んでいるうちに、両端がほつれることがあります。

 靴ひもの両端のほつれを防ぐために、テープや接着剤などで保護されているのです。

 さて、DNAもらせん状に長く続くひものような形状をしています。その末端はとても敏感で、細胞の狭い核の中でDNAの末端どうしが接触すると、過剰に反応を起こします。

 そうなると、DNAの遺伝情報が壊れてしまう危険性があります。つまり、細胞分裂するときに、本来の正しい遺伝情報が伝わらなくなる可能性があり、正確な複製ができなくなってしまいます。

 テロメアは、こうしたDNAの末端の損傷を防ぐための鞘(さや)の役割を果たしているのです。


“命のろうそく”といわれるテロメアが細胞の寿命を決めている

 テロメアには、もう一つ重要な役割があります。

 人間の細胞が、分裂を繰り返して古い細胞から新しい細胞に入れ替わっていることは、ここまで何回かお話ししてきました。

 皮膚を例にとって説明しましょう。皮膚は、表面から表皮、真皮、皮下組織で構成されています。表皮は、深部から基底層、有棘層、顆粒層、角質層の4層からできています。

 テロメアです。テロメアは、細胞分裂によってDNAが複製されるたびに少しずつ短くなっていきます。

 細胞が分裂を繰り返してテロメアがある程度短くなると、その細胞はそれ以上分裂できなくなるのです。

 そのことから、テロメアは、火をつけると燃え尽きてしまうろうそくにたとえて、“命のろうそく”ともいわれています。

それでは、なぜテロメアがある一定の短さになると、細胞分裂が止まってしまうのでしょうか。

 その理由については、まだはっきりとは解明されていませんが、一つの有力な仮説を紹介しておきましょう。

 テロメアは、染色体の遺伝情報を保護する役割をしているとお話ししました。
テロメアがなくなってしまうと、DNAの末端が保護できなくなってしまいます。

 その結果、DNAどうしが結合して異常なDNAができてしまうと、間違った遺伝情報をもつ細胞ができてしまったり、細胞が死んでしまったりします。

 そうした事態を防ぐために、細胞分裂を繰り返してテロメアが一定の短さになると、細胞分裂が停止するようになっているというものです。

 細胞分裂するときには、二重構造になったDNAの塩基配列が1本ずつ解かれて、解かれた2本の塩基配列が複写されます。この塩基配列の複写をするのが「DNAポリメラーゼ」という複写酵素です。

 テロメアにも、DNAのDNAポリメラーゼに相当する複写酵素が存在し、「テロメラーゼ」といいます。

 幹細胞や生殖細胞では、このテロメラーゼが活性化してテロメアを伸ばすことで分裂をする回数を延長しています。

 幹細胞や生殖細胞以外の細胞では、テロメラーゼが活性化しないようになっているために、決められた回数以上は細胞分裂をしないのではないかとされています。

 ただし、造血細胞や免疫細胞、上皮細胞などの頻繁に細胞分裂をする必要がある細胞では、一時的にテロメラーゼが活性化してテロメアを伸ばしています。

 がん細胞は無限に細胞分裂をして増殖します。これは、がん細胞でもテロメラーゼが活性化するためなのです。

 ここまで、テロメアによる細胞分裂をコントロールする仕組みをお話ししました。
細胞分裂のたびにテロメアが短くなり、ある一定の短さになると、細胞は分裂を停止し自死してしまいます。

 しかし、そのシステムにも例外があり、幹細胞は短くなったテロメアを伸ばすことで、細胞分裂を繰り返しています。

【上田実】
医学博士。専門分野は再生医療・顎顔面外科。
1949年生まれ。1982年名古屋大学医学部大学院卒業後、名古屋大学医学部口腔外科学教室入局。同教室講師、助教授を歴任し、1990年よりスウェーデン・イエテボリ大学とスイス・チューリッヒ大学に留学。1994年名古屋大学医学部教授就任、2003年から2008年、東京大学医科学研究所客員教授併任。2011年よりノルウェー・ベルゲン大学客員教授。2015年名古屋大学医学部名誉教授就任。日本再生医療学会顧問、日本炎症再生医学会名誉会員として再生医療の研究と臨床の指導にあたる。株式会社再生医学研究所代表。近著に『改訂版・驚異の再生医療』
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