韓国政府が4日、2017年に中国で消息を絶った脱北者出身のジャーナリスト、ハム・ジヌ氏の家族に対し、北朝鮮による拉致被害を認定し慰労金の支給を決めた。

韓国統一省は今年3月、ハム氏を「北朝鮮に抑留された韓国国民」として公式認定していた。

一連の決定は、韓国政府が事実上、同氏を北朝鮮による拉致・抑留被害者と位置づけたことを意味する。

ハム氏は脱北後、韓国を拠点とする北朝鮮専門メディアで活動した記者だ。筆者にとっては「仲間」と言える人物であり、生々しい内部情報を何度も聞かせてもらった。ハム氏の現状がどのようなものか不明である以上、その内容をここで明かすことはできないが、すでに韓国メディアで報道されている範囲内で、以下、ハム氏が拉致された経緯について述べる。

ハム氏は北朝鮮内部の情報提供者と連絡を取りながら、住民生活や市場動向、治安機関の動きなどを伝える記事を数多く執筆していた。ところが2017年5月、中国吉林省延辺朝鮮族自治州で取材中に消息を絶った。

ハム氏は脱北前から面識のあった北朝鮮国家保衛省(現国家情報局)関係者から接触を受けた。「昇進した」「重要な内部情報を提供したい」と持ち掛けられ、中朝国境地域へ向かった後に連絡が途絶えたという。韓国情報当局や関係者の間では、保衛省による計画的な拉致工作だったとの見方が強い。

その後も生存情報は断片的にしか伝わらなかった。家族側は長年にわたり「平壌の保衛機関の地下監房に拘束されている」との情報を訴え続けてきたが、北朝鮮が認めるはずもない。

もっとも、この事件は一人の記者の悲劇にとどまらない。

かつて中朝国境地帯は、脱北者記者や人権活動家、宣教師らが比較的自由に活動できる空間だった。中国側の都市に拠点を置き、北朝鮮住民や協力者と接触することも珍しくなかった。

しかし近年は状況が一変した。

金正恩政権は保衛省を中心に海外工作能力を強化し、中国国内でも脱北者や情報提供者への監視を拡大しているとされる。新型コロナウイルス流行以降は国境統制が大幅に強化され、協力者摘発も相次いだ。中国当局も北朝鮮との治安協力を深めており、かつてのような活動環境はほぼ失われた。

北朝鮮内部情報を扱う複数の関係者は、「2000年代と比べれば危険度は桁違いに高い」と口をそろえる。少しでも安全性を高めるのに必要なのは資金力だが、米国政府や韓国政府の姿勢変化で、資金面での支援も枯渇しつつある。

ハム氏失踪から9年。韓国政府はようやく公式に被害を認めた。しかし本人の消息は今なお不明のままである。

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