3つの株の鉄則
株式投資において数々の成功者を育て、20世紀で最も偉大な株の先生とも言われるのはベンジャミン・グレアムである。その教えは、一見すると、あっけないほど簡単なことのように思われる。
たとえば、本当に欲しいモノがあって、それが本来100万円の価値があるものだとする。それが、仮に、50万円で売りに出されていたらどうであろうか。資金に余裕があれば、喜んで50万で買わせてもらうのではないだろうか。
では今度は、50万円で買ったそのモノを、他の誰かが、30万円で売ってくれと言ってきたら、どうするか。「100万円の価値があるのだ」といって断るか、あるいは、無視してしまうのではないだろうか。
端的に語ってしまうと、株もこんな感じでやってみようというのが、グレアムの考え方である。
グレアムの教えを、もう少し“それらしく”まとめてみると次のようになる。
(1)“その株本来の価値”はどのくらいのものなのかを考える
(2)そして、その株本来の“価値”よりも大きく値下がりした“価格”の時に買う
(3)マーケットは、短期的に、本来の価値に比べて安くなりすぎたり高くなりすぎたりと揺れ動くものだが、その動きを利用するか無視するかのどちらかに決めるべきである
大学では教えられない
1930年代にこの考えを説き始めてから現在までに、グレアムは数多くの優秀な頭脳を引き寄せ、ウォーレン・バフェットをはじめ、多くの投資家を育ててきた。しかし、実は、このかくも偉大なグレアムの教えは、大学で教えられることがほとんどなかった。
そのあたりの事情について、バフェットはこう述べている。
「難しくないからですよ。つまり大学は難しくて、しかも役に立たないことを教えているんです。
スポーツ選手でも、一流になればなるほど、基本に忠実になるというが、株の世界でも同じであるようだ。グレアムを師と仰ぐ数々の名投資家たちは、その具体的な投資手法や投資対象はそれぞれまったく違うが、その基礎になっているものは、グレアムが示したシンプルな原則である。
そして、それぞれのやり方を究めれば究めるほど、グレアムの説いたこのシンプルな原則が、ますます輝きをもって見えてくるようだ。
いろいろ考える前に何か忘れていないか
読者は、次のような失敗をしたことはないだろうか。
株価が1万円の時に、「これはなかなか良い株だし、まだまだ上がりそうだ」と判断して株を買ったところ、それが5000円に下がってしまった。どうしたんだろうと思っている時に、「この株はダメだ」と誰かが話しているのを小耳にはさみ、急にその株がダメな株に思えてしまい、損切りしてしまった。しかし、自分が損切りしたのを底値に、その後、急上昇してしまった……。
これは、ごく典型的な株の失敗例であるが、こういう失敗をすると、「タイミングが悪かったんだ」と考え、今度は、チャート分析を勉強する人が少なくない。確かに、チャート分析も役立つのかもしれないが、グレアムに言わせれば、「そんなことよりも前に、もっと重要なことがある」ということになる。
それは、“その株本来の価値がどのくらいなのか”ということについて考えてみたのかということである。
グレアムにとっては、それこそが一番労力を振り向けるべきことであって、チャート分析などは無視しろとさえ言う。また、株の世界ではよく、「相場トレンドに逆らうな」ということがいわれるが、グレアムにとっては、相場トレンドさえ無視すべきものなのである。
そして限界
さて、それでは、“その株の本来の価値”とは、どのように見積もればよいのだろうか。もちろん、その株本来の価値とは、その企業の持つ資産、配当、将来性などで決まる。
しかし、それらを元に、どのように“本来の価値”を見積もるのかは、なかなか難しい作業であり、実際、この点はグレアムも大いに悩み抜いたところでもあった。彼は最終的に、ある結論を出し、それを実践していった。もちろん、その方法はグレアムに大きな資産をもたらしたが、彼の限界も露呈してしまった。
グレアムの出した結論とは何か、その限界とはどんなものであり、弟子のバフェットはそれをどのように乗り越えて20世紀最高ともいえる投資成果を収めるに至ったのか。次回は、そのことについて詳しく述べてみたい。
(次回に続く)
(文/小泉秀希 イラスト/南後卓矢 ダイヤモンド・ザイ2001年3月号により転載)