商談中に突然脈が速くなったSさん、54歳。一過性だったが、以来ちょっとした動悸も気に病んでしまう──。


 人間30歳を過ぎれば誰でも不整脈持ちになる。心臓に電気刺激を送り、リズミカルに動かす「刺激伝導経路」が加齢とともに異常を起こすからだ。多くは期外収縮、いわゆる「脈が飛ぶ」状態。たまたま心電図で捕捉されることもあるが、自覚症状がないなら心配無用。「オレも歳をとったなぁ」くらいでちょうどよい。

 それなら怖い不整脈は? というと、筆頭は動悸とともに「急に意識がなくなる」「意識がふうっとする」タイプ。一時的に心臓が止まっているか、極端な頻脈の可能性がある。一度でも失神症状が出たら即、専門外来を受診しよう。

 次に怖いのは突然の動悸。特に脈拍数が1分間に140~200にもなり、脈を探ることすら難しい高速回転の頻脈が「突然始まり、突然治まる」場合は要注意。これに冷や汗が出る、息苦しいなどの症状を伴うなら「病的」な頻脈が疑われる。「発作性上室性頻拍」や「心室頻拍」の可能性があり、こちらも速やかな受診が肝心だ。


 同じ頻脈でも中高年層に多いのは脈拍がバラバラで、しかも速く打つ「心“房”細動」。時にめまいや息苦しさを生じるが、意識は明晰なまま。一瞬、不安になるが心筋梗塞など他の心疾患がない限り、直接死につながることはまずありえない。ほかに症状がなければ不整脈の治療も不要だ。ただ最近は、心房細動があると高い確率で脳梗塞を発症することがわかり、血液をサラサラにする抗血栓治療が行われている。また、長期的な経過や心臓への負担を見越し、薬物療法のほか、症状や合併症・既往歴によっては積極的に非薬物治療を行うケースも増えてきた。

 非薬物治療の一つ、カテーテル・アブレーションは足の血管からカテーテルを入れ、高周波を流し不整脈の原因となっている心筋を焼灼する方法。治療時間は2~3時間で1週間前後の入院ですむ。ただ心房細動では再発率が3割程度と若干高めなのが難点だ。

 もう一つは植込み型除細動器(ICD)という小さな機械を皮下に埋め込む方法。公共施設に設置されるようになったAEDと同じく診断・治療機能を併せ持ち、頻脈を察知すると自動的に電気刺激によるペーシングを行ったり、必要とあらばガツンと電気ショックを与えることで、致命的な事態を防ぐ優れもの。ICDの治療対象は心室性の頻脈で、定期的なメンテナンスやショック時の苦痛など負担はあるが救命率は高い。
怖い不整脈があり、家族の中に突然死した方がいるなら考慮すべきだ。

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