連鎖販売取引(マルチ商法)大手であるエキスパートアライアンスの業績が悪化している。3期連続の赤字を計上しており、「今や債務超過の状態」(エキスパート関係者)だという。
コスト削減のため、ついには特許実施権侵害が疑われる行為にまで手を出している。
さらに、エキスパートを母体として誕生したアイリオ生命との関係見直しが進んでいることが、状況を一層厳しくしている。
創業者の中川博迪氏がエキスパートを立ち上げたのは、1998年のこと。生命保険を販売する共済事業がヒットしてマルチ販売の大手へと成長し、ピーク時には数十万人以上の会員を抱えるまでに業容拡大した。
現在はサプリメント、化粧品、24時間風呂などを販売している。典型的な連鎖販売取引で、会員は自分の紹介で入会した傘下会員および、さらにその傘下会員が商品を購入した実績に基づいてコミッション(手数料)を得るという仕組みだ。5段階までの販売実績が評価される。
エキスパートの関係者は、「業績が大きく傾き始めたのは、2009年ごろから」だという。保険業法の改正により、マルチ商法による生命保険の販売が難しくなった。そこで共済事業を切り出してアイリオ生命として独立させ、他の事業に活路を求めた。
新規事業の目玉だったのが、2009年の「ドットコムサービス」だ。月4000円で国内向けの電話がすべて掛け放題になるというサービスだが、試験的なサービスがわずか2ヶ月程度行われただけでストップした。
トラブルの大きさから、総務省から実態の報告を求められるなど社会問題となり、「一気に会員離れを加速させた」(エキスパート関係者)。
その後もヒット商品は見つからず、今や破綻の瀬戸際に立たされている。
追い討ちをかけるように、新たな問題が浮上した。主力商品であるサプリメント「エクポンα」に、特許実施権侵害の疑惑が浮上しているのだ。
このサプリメントを製造しているのは健康食品メーカーのANZU KLIMERSで、特許管理会社のテラ・ブレインズから独占的特許実施権を受けている。
2011年4月まではANZU社が製造し、エキスパートに販売していた。しかし5月以降、エキスパートはANZU社が製造委託していたカプセル薬工場から直接、購入し始めた。
こうした行動に出たのには背景がある。そもそもANZU社はエキスパートからの依頼で新サプリメントを製造するため、2010年12月にエキスパートグループから3000万円を借りた。その担保として、エクポンαの特許実施権に質権を設定したのだ。
その後、ANZU社は2011年5月に、別の下請企業に対する支払いが遅れる事態となる。エキスパートはこれでANZU社の信用は失墜したので、契約に基づいて特許実施権を手に入れたと一方的に主張し、カプセル薬工場から直接購入を開始するという行動に出たのだ。
通常、こうしたケースが質権設定の実行条件となるかどうかは判断が難しいところであり、話し合いで解決するもの。それでも和解できない場合は裁判で決着をつける。このケースでは両社の主張は対立しており、話し合いを継続中だ。そのため、エキスパートは特許実施権の登録を行っていない状態でサプリメントを販売しており、特許実施権を侵害している可能性がある。
ANZU社は「今となってみれば、最初から特許実施権を奪取する目的で融資し、強引な行動に出たのだろう。そもそも融資実行時の契約自体にも問題があり、質権を担保とすること自体が無効だった」と争う構えだ。
一方、エキスパートは「コメントすることはない」という。
今回はエキスパート、ANZU社それぞれに多少の落ち度があるとみられるだけに、最終的な特許実施権の行方は不透明だ。このままいけば裁判へと発展する可能性もあるだろう。
エキスパートが焦っているのは、資金繰りが徐々に厳しくなっているからだ。2011年3月期の売上高は16億円、当期損失は6000万円程度だった模様だ。
販売事業がジリ貧であるため、アイリオ生命や持ち株会社からの支援を得て、なんとか業績を取り繕っている。持ち株会社からの借入金14億円については、2011年3月期に債務免除してもらっている。
しかし今後は、周囲からの支援は難しくなる。
まず、エキスパートの資金繰りを支えてきた持ち株会社がグループ再編の中で2012年2月に消滅してしまった。
また、アイリオ生命が上場に向けて準備していることもマイナスに働く。上場するにはマルチ商法色を薄める必要があるため、アイリオ生命はエキスパートとの距離を取り始めており、今では大株主が中川氏ということだけが共通項だ。
これまでアイリオ生命は、持ち株会社に対して年間約5億円をコンサルタント料などとして支払い、その大半がエキスパートに還流されていたが、今後はそうした資金の流れも絶たれる。
業績はさらに悪化する可能性が高く、あとは創業者の中川氏がどこまで自腹を切って存続させるかにかかっているだろう。
アイリオ生命にとっても、エキスパートと手を切ることが必ずしもプラスに働くわけではない。
保険の販売代理店業務については、当初はエキスパートの会員が取り組んできた経緯がある。エキスパートが破綻するようなことになれば、販売代理店業務を行っていた会員たちが離反することが予想され、60万件を超える契約を保有するアイリオ生命の営業基盤に打撃を与えることになる。
今後、エキスパートとアイリオ生命がどうなっていくのか。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 野口達也)
コスト削減のため、ついには特許実施権侵害が疑われる行為にまで手を出している。
さらに、エキスパートを母体として誕生したアイリオ生命との関係見直しが進んでいることが、状況を一層厳しくしている。
創業者の中川博迪氏がエキスパートを立ち上げたのは、1998年のこと。生命保険を販売する共済事業がヒットしてマルチ販売の大手へと成長し、ピーク時には数十万人以上の会員を抱えるまでに業容拡大した。
現在はサプリメント、化粧品、24時間風呂などを販売している。典型的な連鎖販売取引で、会員は自分の紹介で入会した傘下会員および、さらにその傘下会員が商品を購入した実績に基づいてコミッション(手数料)を得るという仕組みだ。5段階までの販売実績が評価される。
エキスパートの関係者は、「業績が大きく傾き始めたのは、2009年ごろから」だという。保険業法の改正により、マルチ商法による生命保険の販売が難しくなった。そこで共済事業を切り出してアイリオ生命として独立させ、他の事業に活路を求めた。
新規事業の目玉だったのが、2009年の「ドットコムサービス」だ。月4000円で国内向けの電話がすべて掛け放題になるというサービスだが、試験的なサービスがわずか2ヶ月程度行われただけでストップした。
トラブルの大きさから、総務省から実態の報告を求められるなど社会問題となり、「一気に会員離れを加速させた」(エキスパート関係者)。
その後もヒット商品は見つからず、今や破綻の瀬戸際に立たされている。
追い討ちをかけるように、新たな問題が浮上した。主力商品であるサプリメント「エクポンα」に、特許実施権侵害の疑惑が浮上しているのだ。
このサプリメントを製造しているのは健康食品メーカーのANZU KLIMERSで、特許管理会社のテラ・ブレインズから独占的特許実施権を受けている。
2011年4月まではANZU社が製造し、エキスパートに販売していた。しかし5月以降、エキスパートはANZU社が製造委託していたカプセル薬工場から直接、購入し始めた。
こうした行動に出たのには背景がある。そもそもANZU社はエキスパートからの依頼で新サプリメントを製造するため、2010年12月にエキスパートグループから3000万円を借りた。その担保として、エクポンαの特許実施権に質権を設定したのだ。
その後、ANZU社は2011年5月に、別の下請企業に対する支払いが遅れる事態となる。エキスパートはこれでANZU社の信用は失墜したので、契約に基づいて特許実施権を手に入れたと一方的に主張し、カプセル薬工場から直接購入を開始するという行動に出たのだ。
「エキスパートは、サプリメントの調達費用を月数百万円単位でカットできたはず」(エキスパート関係者)だという。
通常、こうしたケースが質権設定の実行条件となるかどうかは判断が難しいところであり、話し合いで解決するもの。それでも和解できない場合は裁判で決着をつける。このケースでは両社の主張は対立しており、話し合いを継続中だ。そのため、エキスパートは特許実施権の登録を行っていない状態でサプリメントを販売しており、特許実施権を侵害している可能性がある。
ANZU社は「今となってみれば、最初から特許実施権を奪取する目的で融資し、強引な行動に出たのだろう。そもそも融資実行時の契約自体にも問題があり、質権を担保とすること自体が無効だった」と争う構えだ。
一方、エキスパートは「コメントすることはない」という。
今回はエキスパート、ANZU社それぞれに多少の落ち度があるとみられるだけに、最終的な特許実施権の行方は不透明だ。このままいけば裁判へと発展する可能性もあるだろう。
エキスパートが焦っているのは、資金繰りが徐々に厳しくなっているからだ。2011年3月期の売上高は16億円、当期損失は6000万円程度だった模様だ。
販売事業がジリ貧であるため、アイリオ生命や持ち株会社からの支援を得て、なんとか業績を取り繕っている。持ち株会社からの借入金14億円については、2011年3月期に債務免除してもらっている。
しかし今後は、周囲からの支援は難しくなる。
まず、エキスパートの資金繰りを支えてきた持ち株会社がグループ再編の中で2012年2月に消滅してしまった。
また、アイリオ生命が上場に向けて準備していることもマイナスに働く。上場するにはマルチ商法色を薄める必要があるため、アイリオ生命はエキスパートとの距離を取り始めており、今では大株主が中川氏ということだけが共通項だ。
これまでアイリオ生命は、持ち株会社に対して年間約5億円をコンサルタント料などとして支払い、その大半がエキスパートに還流されていたが、今後はそうした資金の流れも絶たれる。
業績はさらに悪化する可能性が高く、あとは創業者の中川氏がどこまで自腹を切って存続させるかにかかっているだろう。
アイリオ生命にとっても、エキスパートと手を切ることが必ずしもプラスに働くわけではない。
保険の販売代理店業務については、当初はエキスパートの会員が取り組んできた経緯がある。エキスパートが破綻するようなことになれば、販売代理店業務を行っていた会員たちが離反することが予想され、60万件を超える契約を保有するアイリオ生命の営業基盤に打撃を与えることになる。
今後、エキスパートとアイリオ生命がどうなっていくのか。
予断を許さないところだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 野口達也)
編集部おすすめ