買収契約が締結されたのは1月18日。買収金額は10数億円と見られる。買収されたユニクエスト・オンラインの田中智也社長は近く退任し、同社が展開するリフォーム事業を切り出して、その経営に専念するという。
業界大手間の買収劇にもかかわらず公式な発表がないのは、その裏に顧客騙しととらえられかねない「二重価格問題」が潜んでいるからだと業界関係者たちはみる。
両社のビジネスモデルは水と油。小さなお葬式は、低価格で追加料金のない明朗会計を売りに全国展開している。一部地域を除き、火葬式なら17万8000円(食事、返礼品を除く)、一般的な家族葬であれば49万8000円(同)と、一般的な葬儀の価格よりも安価だ。葬儀は簡素でいいという時流に乗って急成長し、直近1年間の葬儀施行件数は1万件を超える。「低価格・追加料金なし」というビジネスモデルではダントツのトップ企業で2012年7月期の売上高は40億円、経常利益は2億円弱を稼いでいる。
一方のアルファクラブは老舗の葬儀会社。関東から東北を営業エリアとし、主に「さがみ典礼」ブランドで営業している。
アルファクラブにすれば、昨今の葬儀の低価格化は面白くないはず。そこで低価格化の急先鋒である小さなお葬式を取り込み、最終的には潰してしまうのではないかと業界で囁かれているのだ。
ただ、アルファクラブの事情に詳しい業界関係者によると、「小さなお葬式を取り潰してしまいたい気持ちがあっても、実行はしないだろう。低価格化は世の流れであり、食い止めることは難しい。むしろ別の活用法を考えている」と解説する。それはどんな活用法なのか。
小さなお葬式の下請け業務を仲間の互助会で寡占化か
実は、小さなお葬式は、アルファクラブとすでに取引をしている。小さなお葬式はネットベンチャーであり、あくまでも受注が主体の会社。
さらに、前述の業界関係者は「アルファクラブは、小さなお葬式の下請け葬儀会社を絞り込んで、仲間の互助会で寡占化していく構想を持っている」と解説する。すでに「数十社の互助会に声がけを始めている」のだという。
小さなお葬式の下請け業務の利益は薄いものの、葬儀会館や社員が稼動していないときの穴埋めに使えれば、利益を積み重ねられる。互助会は非常に仲間意識の強い業界で、自らと同胞が生き残るための手段にしようというのだ。その分、現在下請けだが互助会ではない葬儀会社は仕事を打ち切られる可能性がある。
こうしたかたちで小さなお葬式を活用するなかには、「二重価格」の問題が潜む。
小さなお葬式で契約した場合、依頼したのがアルファクラブの営業地域であれば、アルファクラブの従業員によって、アルファクラブの葬儀会館で葬儀が執り行われることもある。小さなお葬式のホームページによると、一般的な家族葬であれば49万8000円(食事、返礼品を除く)で、30人程度の葬儀なら食事、返礼品の費用は多くても20万円程度であり、合計葬儀費用は70万円程度となる。
一方、アルファクラブと契約した場合は188万円(食事、返礼品込み)もかかる。
ユニクエスト・オンラインは「アルファクラブに買収されたのは事実。ただ小さなお葬式のサービス体制に変更はないので安心してほしい」としている。アルファクラブは回答期限までに返答がなかった。
葬儀の単価下落は急速に進んでおり、かつての高額な葬儀に慣れきった葬儀会社は、激しい環境の変化についていくのに苦労している。特に中小規模の互助会は淘汰が進んでおり、ビジネスモデルの見直しが急務だ。今回の小さなお葬式の買収が互助会業界にとってプラスになるのか、または二重価格問題が世間に知れ渡って信頼を失うことになってしまうのか――。今後の行方が注目される。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 野口達也)