最高益なのにリストラを実施──。日本たばこ産業(JT)が下した非情ともいえる決断が注目されている。

 郡山市(福島県)、浜松市(静岡県)の二つのたばこ製造工場を含む計4工場などを閉鎖、国内たばこ事業部と本社コーポレート部門を対象に2015年3月までに1600人規模の希望退職者を募集するというものだ。

 13年4~9月期の連結純利益で過去最高益を更新したにもかかわらず、なぜ大なたを振るうのか。

 一言でいうと国内たばこ事業が低迷しているためだ。調整後連結EBITDA(営業利益に減価償却費、リストラ費用などの調整項目を加算したもの)で3717億円、前年同期比13%の増益となったが、これは2178億円を稼ぎ、同26%増となった海外たばこ事業が牽引したことによる。かつて主軸だった国内たばこ事業は1533億円で、同0.6%の減益に終わっているのだ。

「国内のたばこ総需要は今後、年に3~4%減ることが予想されており、経営が安定しているときに問題を先送りにせずに手を打つ必要がある」と佐伯明副社長は言う。

 実は、JTが好業績時にリストラを敢行するのは今回が初めてではない。03年から04年にかけて12工場を閉鎖したときも、当時の全社員の35%を削減。最大で年収の3.5倍の割増金と退職金の支給という厚遇ぶりに、応募が殺到した。05年3月期には退職割増金等で2060億円の特別損失を計上したが、トータルで500億円のコスト削減効果があったという。

 今回のリストラに伴う費用は15年3月期に計上されることになるが、仮に、前回並みの待遇であれば1600人で約600億円の負担となる一方、160億円のコスト削減効果が見込める。

日本的経営とは決別

 今年は折しも、JTの主軸商品であり1兆円の売り上げを持つマイルドセブンを、メビウスという新ブランドに刷新する一大プロジェクトが始まった年である。

ブランド変更は今のところ成功裏に進んでいるという。

 そのさなかの国内事業の縮小方針発表は、社員の士気に悪影響を及ぼしかねないが、「今後の経営との交渉事項となり、条件はまだ何も決定していない」と全日本たばこ産業労働組合幹部。好業績時だからこそ納得のいく条件提示でなければ受け入れられないだろう。

 もっともJTの事業ポートフォリオは05年に比べて、海外事業に大きく依存する形に変わっている。07年の英ギャラハー買収で世界第3位のたばこメーカーに浮上、メビウスへのブランド変更も、「世界市場で通用するプレミアムブランドとして売る」(佐伯副社長)ことが最終目的だった。

 かつて30以上あった国内工場は今回の閉鎖でわずか四つにまで減ることになり、国内事業の再編は最終段階に達している。

国内事業を軽視しているとみられてもおかしくない一連の経営施策だが、こうした“日本的経営”に固執しない経営陣だからこそ、世界企業になれたといえるかもしれない。

 (「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)