直系家族の特徴は父(家長)の権威主義と兄弟間の不平等だ。そのためこの家族制度で育ったひとたちはごく自然に権威を受け入れ、社会は不平等だと考えるようになる。これは一見、万世一系の天皇を「家長」とする戦前の天皇制や、昨今の格差社会(不平等の受容)をうまく説明しているように見える。
それに対して、中国やロシア、中東などユーラシア大陸の大半と北アフリカは「共同体家族」で、父親が権威主義的な家長になるのは同じだが、兄弟は成人して結婚しても実家に住みつづけ、遺産も兄弟間で平等・均等に分配される(共同体家族はヨーロッパではトスカーナを中心とするイタリア中部のみに分布する)。
大家族を形成する共同体家族で生まれ育ったひとたちは、権威を当然のものと受け入れるものの、社会の基本は平等にあると考える。共同体家族はイトコ婚を優先する内婚制と、家族の外から嫁を探す外婚制に分かれ、外婚制共同体家族は中国、ロシア、ベトナム、ブルガリア、旧ユーゴスラヴィア、フィンランドなどに分布する(それに対して内婚制共同体家族はパキスタン、アフガニスタン以西の中東と北アフリカに分布)。そしてトッドは、権威主義と平等主義を原則とする外婚制共同体家族の地域が旧共産圏と見事に重なることを発見したのだ(イタリア共産党の最大の拠点はトスカーナだった)。「家族制度がイデオロギーを規定する」というトッドの主張は、当然のことながらはげしい論争を巻き起こした。