ああ、どうしてぼくは女の子になれないんだろう。
女の子ってなんだろう。

 
志村貴子原作の「放浪息子」がアニメ化されました。
原作もそうですが、物語の起承転結は非常に分かりづらい上にキャラがいっぺんに出てきます。その上原作は小学生の話から始まっているのに、アニメに至っては全部ぶっとばして中学生編からですよ、未読者置いてけぼり状態?
ところがtwitterなど見ていると評判が異常に高い。……おや、どういうことだ。
そして、ぼく(原作既読)はこのアニメを見ました。
なるほど。開始三十秒で分かりました。
キャラクターと目があった瞬間。
死ぬかと思った。
 
すごく大雑把に話すと、二鳥君という「女装をしたい男の子」と高槻さんという「男装をしたい女の子」の物語です。しかしハラハラしながら女装しては泣き崩れ、好奇の視線と戦いボロボロになるんです。男性が好きだから女性になりたいとかの恋愛感情とは別次元。
「女の子」像に、「男の子」像に憧れている少年少女の、傷だらけの青春模様がびっちりつまっています。
例えば、お姉ちゃんの洋服を自室で着ているシーンがあります。しかしお姉ちゃん(声は水樹奈々)は弟の女装を見て叫ぶのです。「くさくなる」「気持ち悪い」と。
気持ち悪い。
満身創痍な少年の感情が、表情や背景描写から吹き出します。
心に傷を負った子供たちが、水彩タッチで動いてしゃべる。話自体は原作を読んでないとかなり難解で、一回見て全部は理解しづらいです。しかし多くの人が「よくわからんけどすさまじい感情の波が来たぞ」とこのアニメ見て驚いていたのです。
セリフ一つ一つがやたら胸に来るので、声優さんを調べてみました。二鳥くん役の畠山航輔は97年生まれ。高槻さん役の瀬戸麻沙美は93年生まれ。
キャラクターとほぼ同じ、リアル世代でした。そんな少年少女が全力で叫ぶ「気持ち悪い」という自分への呪詛のような言葉。
 
で、ですよ。感動と別の部分で視聴者が盛り上がっている点があります。
二鳥くんの女装姿がめちゃくちゃかわいいんだこれが。
もうどこからどう見ても女の子状態どころの騒ぎじゃない。女形みたいなものです、少年が女の子像を目指すから特別にかわいい。なので「かわいい女装っ子を見たい!」という理由でアニメ見てもいいでしょう。pixivでも女装二鳥くんの絵がガンガン挙がっております。
 
そんな二鳥くんを憧れのまなざしで見つめているのが、マコちゃんという少年なんです。二鳥くんの友人の男の子で、そんなにかっこいいわけでもかわいいわけでもない凡庸な外見。メガネにそばかす、むしろブサイク……言いたくないけどさ、こんな言葉。

マコちゃんは女装好きな二鳥くんの良き理解者でもあり、同時に自分も女装をしたいと願う少年です。気持ちは同じでも、外見は違う。二鳥くんはかわいい、ぼくはかわいくない。憧れのまなざしで二鳥くんの女装姿を見ているんですよ。
テレビを見ているぼくはすっかりマコちゃんになったね。
にとりんかわいいよ! 気持ち悪くなんてないよ! つらいよね、苦しいよね。
だけどぼくは……二鳥くんのようにかわいい女装すらできない。ただ二鳥くんのかわいさを見て、嫉妬したりモヤモヤしたりするだけ。なんて切ないんだろう。
自分はマコちゃんの視線を通じてこの作品を見て、気がついたら興奮しながらこの文章を書いておりました。そして、憧れのまなざしで「二鳥くんはかわいいんだ」と再確認し、憧れ、嫉妬し、好きになりました。
自分は年齢的にいいおっさんですが、「少女みたいになりたい」という思いはどこかにあります。
人によっては大人になってから気づく場合もあるでしょう、ああ「女の子」という「なにか」になりたかったなと。女性もまた同じでしょう。「男の子」という「なにか」になりたかったなと。そんな答えのない願望に対して、この作品は鋭く杭を打ってきます。ねえ、キャラクター達をどこに向かわせようとしているの? ぼくらをどこに放浪させるの。
原作を読んでからアニメを見る方が当然分かりやすいですし、断片的な情報も「あれのことか!」と楽しめるでしょう。しかし読んでなくてもいい、最初は何が起きているか分からなくてもいいです。このアニメを通じて二鳥くんや高槻さんと視線があうだけで、たくさん伝わるもの、ありますから。
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ああ、どうしてぼくは女の子になれないんだろう。
女の子ってなんだろう。(たまごまご)
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