これはPCやテレビの中ではなくて、現実の大学での出来事だ。ただし、銃はおもちゃでグレネードは丸めた靴下。「Humans VS. Zombies」と呼ばれる、春先にアメリカの大学でよく開催されるゲームイベントだ。英語の記事ではtag game、つまり鬼ごっこの一種と説明されていた。しかし参加者はときには1000人を超え、何日にも渡って大学の敷地全体を使って繰り広げられるアメリカらしい壮大な鬼ごっこなのだ。
ルールはカンタン。くじびきで決められた最初のゾンビが残りの人間を追いかける。ちなみにゾンビといえど、ゆっくり歩いて生前の記憶を思い出そうとする必要は無い。走ってオッケー。
だからビジュアル面でまとめると、バンダナを頭に巻いた人たちとハデな色をしたプラスチックの銃や丸めた靴下を抱えた人たちが大学の構内で追いかけっこしているゲームということになる。
これが実際どのような絵面になるかはflickr で「humans vs. zombies」と検索してみてほしい。プレイヤーは十代後半から二十代だけど、みんな子どもみたいにイイ笑顔だ。真剣な面持ちで周囲を警戒してるところや真顔でポーズでキメてる写真もあるけど、抱えてるのが赤青黄色のプラスチックだからちっともカッコなんてつかない。いやーほんとマヌケだなーと心がなごむ。
しかし、このマヌケさには理由があった。「Humans VS. Zombies」は2005年にメリーランド州ボルチモア郊外にあるガウチャー大学で、当時学生だったブラッド・サピントンさんとクリス・ウィードさんが考案した。
だから「Humans VS. Zombies」には参加していない人に不安を与えないためのルールは他にもたくさんある。参加していない人には絶対にちょっかいを出してはいけない。大学の建物の中で銃を出してはいけない。そして、本物に見間違えるような銃を使ってはいけない。
先人たちの苦労は公式サイトに「Humans VS Zombies ダンジョンマスターズガイド」という名前(ボンクラはなんでもゲームにしてしまう!)で公開されていた。そのなかの「始める前に」という章の多くは大学側の説得に割かれている。大学の責任者。警備担当者。いろいろな立場の人がいる。すんなり話が通らないこともあるだろう。自分がやりたいことを他人から止められそうだったらどうするか? 最近の日本でも身近な問題だ。ガイドにはこう書いてあった。「許可を求めてはいけない。何が起きても責任を取る覚悟を決めなさい(Don't ask for permission but do accept responsibility for anything that comes up.)」
その甲斐があって「Humans VS. Zombies」は州をまたいでシカゴ、ニューヨーク、テキサスとアメリカ各地へ、さらには国境も越えてデンマーク、ブラジル、オーストラリア、イギリス、カナダ、韓国へと広がっていった。2011年4月現在、開催数は全世界で650を超えており、特にアメリカでは注釈無しでニュースに出るほどポピュラーなゲームになっている。