自分の眼で確認してもらいたかった
――3月11日。「映画プリキュアオールスターズDX3 未来にとどけ!世界をつなぐ☆虹色の花」の封切り8日前に東日本大震災が起きました。
大塚 「DX3」の制作はスタッフが頑張ってくれて、ギリギリだけどつつがなく完成しました。
鷲尾 そんな順調なときに、まさかあんな大災害が起きるなんて……。
大塚 映画を作るときは大抵のことは想定内なんですけど、違いましたね。3月10日に零号試写を済ませていましたので、映画の仕事を終えた翌日でした。
鷲尾 あとは各映画館にフィルムを配って、公開を待つだけという状況だったので衝撃的でした。翌日、「DX3」は災害を想起させてしまう映像があるんじゃないかという話になって、そのシーンをどうするべきかという会議を行いました。普通だとこういう場に出席するのはプロデューサーだけという場合が多いんですが、どういう話し合いが行われるか大塚監督にも知ってもらいたいと思い、参加してもらいました。会議の末、20秒程度カットすることになった。フィルムに手を入れなければいけないのが、一番つらかったですね。
――その……実際にフィルムを切る判断をしたのは大塚さんなのでしょうか?
大塚 そこで行われた会議は、監督として納得のいくものではなかった。地震や被災者への配慮とはまた別の話で、このフィルムはスタッフみんなが必死に命を注いで作った、いわば僕らみんなの大切な子供みたいなものです。
鷲尾 もちろん「フィルムを切る」という最終判断は私の方で下します。大塚監督はスタッフが頑張っている姿を間近で見ていますし、一緒に頑張ってきた。なので、シーンをカットするなんて、自分からとても言えないという気持ちを抱えていて当然です。だからこそどういう経緯で切ることになったのか、自分の眼で確認してもらいたかったから、あえて打ち合わせの場に同席してもらったんです。
大塚 決定は鷲尾さんに委ねましたが、フィルムカットでの上映が決まったときは気が気じゃなかった。でも公開が始まってしばらくしたあと、冷静に「こういう場合はどうあるべきなのか」ということを鷲尾さんと真剣に話しましたね。
鷲尾 監督の言う通り、文字通りスタッフが心血を注いで作ったフィルムです。意味を考えないで思考を停止した判断の仕方ではフィルムのカットをしたくなかった。「仕方がないので切りました」という言い方だけは絶対にしてはいけない。
大塚 僕らが辿り着いた結論は、「この映画を観て、もし1人でも「津波の恐怖」を思い出して楽しめない子どもが出てしまったら、それはこの作品の本意ではない」ということでした。そこで初めて自分の気持ちに整理がつきました。
鷲尾 僕ら作り手はそこを第一に考えるべきなんでしょうね。この災害で、予定していた試写会もイベントもほとんど中止になりました。ただ、スタッフには、「予想もしなかった事態の中でフィルムに手を入れたり、試写会も中止にせざるを得なくなったけれど、この映画の内容に絶対の自信を持っていてもらいたい」ということは何度も言いました。
そのとき皆さんが感じている空気に近かった
――実際に映画館で観てみると、災害のつらさを連想することはなかったです。むしろその逆境から立ち上がっていく、いまの状況へのメッセージになっていたと感じました。
鷲尾 ありがとうございます。「プリキュア」はファンタジーなんですけど、感情のリアリティだけはきちんと出すことに心を砕いてきた。主人公たちの行動や感情が当時の空気に合致していたのかもしれないですね。プリキュアたちがラストシーンで言っていること、やっていることは間違ってなかった、キャラクターが持っている資質や「プリキュア」という作品の方向性を平常時よりも強く感じました。
大塚 今の現状へのメッセージ性が強い、と言われたりしましたが、極論関係ないですよ。
――失われたシーンをそのまま戻したんじゃないんですね。
大塚 そうですね。そのまま戻すのなら切らなくてもいい、ということになりますから。
鷲尾 修正絵コンテにひと月かけていましたね。テレビシリーズだと1話できるくらいの作業時間だと思います。
大塚 20秒、5カット、全く同じ尺に収めないといけない。そんな厳しい修正条件の中、「圧倒的な敵の驚異で飲み込まれるプリキュア」を表現し直すのは難しかった。やる以上は前と同じかそれ以上の代替案を出さないと意味がないので、大変でした。
――どうなっているんでしょう、観るのが楽しみです。
大塚 ぶつ切りが直って、あの続きが少しあるだけですよ。
鷲尾 そのくらい自然に見えるように時間をかけていましたね。
大塚 時間がかかったのは修正絵コンテに鷲尾さんもなかなか納得してくれなかったせいでもありますよ! おまけにそのひと月分の追加のギャラも出ないし(笑)。
鷲尾 そういうのは言わなくていいの!(笑)。
大塚 フィルムカットよりそっちの方が納得いかないよ! なんてね(笑)。
(加藤レイズナ)
part3は7/25(月)更新予定!