『ワイルド7』が映画化された。見にいくべきか、いかざるべきか、おおいに迷っている男子諸君は多いと思う。
なにしろ『ワイルド7』といったらアクション漫画の巨匠・望月三起也先生の代表作にして、日本漫画史に燦然と輝く永遠不滅の大傑作だからね。
それを今回、どのように映像化してくれるのか。正直言って不安はあった。だけど期待もあった。不安半分、期待半分で見にいった。

えーと、ひと言でいうとですね。
これは『ワイルド7』という作品に対する“愛情の深さを試されているような映画”だったな。

まず冒頭は、逃走中の銀行強盗犯たちを高速道路上で退治する場面からはじまる。そう、ワイルド7は犯罪者を逮捕したりはしない。法の手が届かない権力者や、裁判の手間すら惜しい悪党共を問答無用で“退治”する。それがワイルド7という集団なのだ。
高速道路での描写はヒットコミックス1巻「野生の7人」のエピソードを下敷きにしていて、愛読者ならスクリーンに向かって思わず「うんうん」とうなずく導入だ。


さて、そんな彼らの現場に謎のライダーがあらわれる。ワイルド7が悪党を処刑しようとすると、この謎のライダーは横から出てきて勝手に射殺し、走り去ってしまうのだ。ワイルド7のリーダー飛葉は、この謎のライダーを追跡するうちに、ある女と出会う。まあ、原作の愛読者なら説明しなくても誰だかわかるだろう。

そうこうするうちに、ある製薬会社が研究を進めていたウィルスが何者かに盗まれ、東京を人質にしたテロ事件が勃発する。細菌テロというのは原作ではあつかわれたことがなかったし、いかにもハリウッド映画的でいまさらという気もしないでもないが、予算をそれほどかけずに映画的スケール感を出すためには、悪い選択ではないと思う。


そうして、最終的にワイルド7のメンバーが立ち向かうことになる悪の黒幕は、いったい誰なのか? それをここで明かすことは出来ないが、まあ『ワイルド7』の原作を読んでいる人なら、だいたいの予想はつくと思う。

ワイルド7というのは、元々犯罪者を寄せ集めて結成された集団だから、権力の側にとって都合が悪くなれば、いつでも葬り去ることができてしまう。黒幕が権力者だった場合、ちょっと世論を操作してやるだけで世間からはバイク乗りの悪者どもが権力に楯突いているように見せることができるのだ。
そうしたシチュエーションは原作の中でも度々描かれていて、この映画も例外ではない。というか、その善悪が度々逆転する構図のおもしろさが、『ワイルド7』の最大の魅力でもあるのだ。

というわけで、日本映画界が苦手としている「アクション映画」としては、これはかなり健闘している作品だと思う。


最近の邦画にありがちな「愛する者を守るため」みたいな赤面もののメッセージがこの映画にもあって、原作のドライな側面を好むファンからは拒否反応を示されるだろうなーとも思うけど、それは興行を考えたら仕方ないことでもある。むしろ、そうした邦画のセオリーに従いながらも『ワイルド7』らしさをちゃんと表現している監督さんはよくがんばった。

見る前からいちばん気になっていたのは、主役の「飛葉」ちゃんを誰が演じるのか? ということで、今回は瑛太だ瑛太(なんとなく2回言ってみた)。
ちょっとヤサオトコっぽいんじゃねーかァ? と心配だったんだが、革のライダースに身を包んだ瑛太を見ると、思ったほど違和感はない。むしろ、彼がときどきカメラに向かって視線を流すときの表情が、ヒットコミックス版「ワイルド7 25巻 地獄の神話V」の表紙の飛葉ちゃんを想起させて、瑛太ファンのギャルでもないオッサンを惹きつけさせてくれた。

椎名桔平の「世界」も悪くなかったな。
できれば元サーカスの軽業師という原作のキャラ設定を活かしてほしかったところだが、そこまで贅沢は言えない。
「オヤブン」は宇梶剛士。原作では川谷拓三みたいな顔つきのキャラで、そういう男が実は1000人もの手下を持っているというギャップがよかったんだけど、映画ではマジモンの親分顔になってしまったな。
「ヘボピー」を演じたのは平山祐介。ヘボいヒッピーだからヘボピーなんだけど、21世紀にヒッピーもないもんだと判断されたのか、そういうキャラ設定は完全に無視されて、ただの犯罪者になっていた。

で、ここまではまだいいのだ。
なんといっても原作ファンが大激怒しそうなのが、残りのメンバーを名前すら改変してしまっていることだ。どうした事情かは知らないが、「八百」と「両国」と「チャーシュー」がいない。これはさすがにわたしもショックだった。
で、そのかわりにパイロウ(丸山隆平)、ソックス(阿部力)、B・B・Q(松本実)という新メンバーに入れ替わっている。役者さんたちに不満はないんだけど、ここまでキャラや役名を変えてしまう必然性は、映画を見た限りでは感じられなかったよ。チャーシューを誰が演じるのか、見たかったなー。

さらに不満ついでに言っちゃうと、実は今回いちばん残念だったのは、ワイルドセブンのシンボルが使われていなかったことだ。ヘルメットやバイクのフェンダーに描かれている赤いブルマークね。あれこそワイルド7のアイデンティティだと思うんだけど、なぜか不採用。あれって、いまのひとたちからするとカッコよく見えないのかな? おれなんか一生懸命マネして描いて自転車の泥よけに貼ったりしたけどなー。

というわけで、不満な点をあげればたくさんある。それでもわたしはこの映画を支持したい。

『ワイルド7』の単行本は、中学時代に全巻揃えた。『秘密探偵JA』は古本屋を駆けずり回って「KINGコミックス版」と「新版」と「最新版」の3セットを揃えた。「少年画報」の付録コミックも片っ端から集めた。望月三起也名義でありながら明らかに望月先生が描いてないコナンドイル作品のコミカライズまで買い揃えた(絵のタッチからして描いていたのは弟子の田辺節雄だと推測される)。
望月三起也マニア歴37年のわたしは、この映画にちゃんと『ワイルド7』を感じたんだ。だから、誰が何といおうと断固支持する。

最後に小ネタをひとつ。望月三起也先生の元弟子JUNさんのお嬢さんにして女優の望月ミキさんが、この映画にもチラリと出演している。どこに出てるか探してみよう。
(とみさわ昭仁)