以前、上京したばかりの知人の家に遊びに行ったことがあるのだが、そこには早くも水槽が設置されており、その中にはたくさんの金魚が飼われていた。
「こっちに来たばかりで友達もおれへんし、金魚がいなかったらヤバかったわ」
見知らぬ土地で初対面の人々と仕事をこなし、精神的に摩耗していく毎日。
でも「家に帰ると、あいつらが待っている」と思うからこそ、何とか乗り越えられてきたという。

そんな彼の姿を目で追っていると、どうやら頻繁に話しかけてるみたいなのだ。「おーい、調子はどうだ?」、「今日、元気じゃんかよ!」。なるほど、こういった金魚とのやり取りがパワーになっているのだろうな。

話は変わるが、介護の現場。この子とのコミュニケーションが、お年寄りの方々の癒しになるかもしれない。
ピップ株式会社が昨年11月より発売している『うなずきかぼちゃん』は、お年寄りに向けた“スマイルサプリメントロボット”。
「かぼちゃんと接し、毎日を笑顔で元気に生活してもらいたい」、そんな想いがこの“かぼちゃん”には込められているそうだ。

では、「かぼちゃんのできること」には何があるのか? これが凄い。本当に盛りだくさんなのだ。
まず、時間や季節に合わせたおしゃべりや歌を歌ってくれるらしい。朝は「コケコッコー、朝ですよ~!」、夏は「ミ~ンミ~ン、セミさん元気―!」のような。

「認知が進んでいくと、時間や季節に対する認識が薄くなっていくんですね。それらの進行を、かぼちゃんとのコミュニケーションが遅らせてくれるかもしれません」(同社・岡崎さん)

次に、これが嬉しい。かぼちゃんは、きちんと“呼び名”で呼びかけてくれるのだ。呼び名はあらかじめ設定されているもの(おばあちゃん、ばあば、おじいちゃん、じいじ等)の中から選ぶことができるという。「ねえねえ、おばあちゃん」なんて、本当にほっこりするだろう!

他にもある。頭を撫でてあげると、頭部のセンサーで察知。
「いい子いい子、大好き!」など、シチュエーションに合ったお返事をしてくれるそうだ。
横に寝かすと「ムニャムニャ、眠くなっちゃった」と言葉を発するし、とてもロボットという感じはしない。本当の孫みたいだよ。

そして注目したいのは、やはり「受け答えしてくれる」という特長だろう。話しかけ、その言葉が途切れた瞬間、「うんうん」と頷きながらおしゃべりしてくれるそうだ。
「話しかけ、頷いたり相槌を打ったりするのとしないでは、出て来る言葉の数が違ってくるんですね。
コミュニケーションを繋ぐのに、それらは大事な要素です」(岡崎さん)

それだけじゃない。こちらが話しかける程に、かぼちゃんも言葉が増えていくという。
「かぼちゃんは3歳児という設定なんですが、コミュニケーションをする程に今までしゃべらなかった言葉を発するようになります。また歌も初めはワンフレーズだけですが、コミュニケーションしていくとワンコーラスくらいに長くなります」(岡崎さん)
かぼちゃんに変化が起こるごとに、「へぇ~、そんな事もしゃべれるんだ!」と成長が感じられるというわけだ。

そんなかぼちゃんの愛らしさには、反響も続々と届いている。例えば……
「娘さんが、おばあちゃんのために“かぼちゃん”を購入したケースなんですが、それまでのおばあちゃんは一人暮らしをしていて口数は少なかったそうです。
しかし、かぼちゃんと生活するようになってからは、娘さんとの会話も多くなったみたいです。また、娘さんにかけてくる電話の数も増えた。そういったお声をいただきました」(岡崎さん)
見違えるような効果が表れたわけだ。そして、それだけではない。同社は臨床試験を行っている。その結果、高齢者がかぼちゃんと2ヶ月間一緒に生活すると、認知機能の向上、抗疲労・癒し・意欲上昇・抗ストレス・良眠効果をもたらすことが明らかになったそうだ。


そんな『うなずきかぼちゃん』は、公式サイトか介護ショップで購入することができるという。価格は、2万1000円。

最後に、この商品を開発したきっかけについて。これは、現場へのヒアリングに端を発している。
「高齢者には認知機能や気分の低下により、社会とのコミュニケーションが乏しくなっていくケースがあります。介護を受けている方も、同様の傾向でした」(岡崎さん)
そこで、同社はコミュニケーションを高めるロボットの開発に着手。介護される側は笑顔になるし、その笑顔を見たら介護する側も明るくなる。かぼちゃんによって、みんなが笑顔になったのだ。

ちなみに、この子の名前の由来についても。「かぼちゃん」という名前は、「かわいいぼうや」の「か」と「ぼ」を取って付けられたそうです。
(寺西ジャジューカ)